148 みんなで仲良くビーチバレー
「行くぞ!お前ら」
相手コートに立った初愛佳さんが、ボールを上にあげジャンプサーブを行う。
「刈谷さん!」
「任せてください。優くん」
サーブで飛んできたボールを刈谷さんが、レシーブで上へ上げ俺がそのボールをトスでまたあげる。そこにすかさず、仲間の1人が飛び上がり早速スパイクを叩き込む。スパイクされたボールは、ラインギリギリまで飛んでいきバウンド、全員の視線が審判の水無口さんに向く。視線を向けられた水無口さんは、オドオドしながらも俺達のチームの方に手を上げた。
「よし!ナイス!」
水無口さんの審判を見てから、俺らチーム内でハイタッチをする。
「刈谷さん、よくあの強いサーブ止められたね」
「私、少しくらいならバレーできますから」
少しであの強さのサーブを受止める、てなると刈谷さんの中での上手いはなんなんだろう。
「それで言うと、優くんもトス上手いじゃないですか」
「あれだけ球速死んでればね」
刈谷さんの上げてくれたボールは、優しくトスがやりやすかった。マジのマジ、あれは刈谷さんの力そのものだ。
「ま、その調子でこの試合頑張ってよ。俺も精一杯やるからさ」
「かっこいいとこ、見せてくださいね」
水無口さんが砂上に得点を書いたのを確認してから、両チーム配置に着く。もちろんサーブはこっちからだ。
「それじゃ、行くぞ」
刈谷さんの隣の男子がサーブを打つ。サーブされた玉は、ネットにあたることなく越え、けれども弾道は低く、球は二月さん目掛けて飛んでいく。
「二月さん頑張って」
クラス内でもお嬢様キャラが定着している二月さんへ、敵チーム全員が応援の声をだす。
「ご心配なさらず」
二月さんへ飛んできたボールであったけれど、さすが練習しただけの事はあるようで、上手い身のこなしでボールをレシーブで返し、次なる攻撃に繋げた。
「初愛佳さんお願いします」
「任され、た!」
二月さんの指名で、後ろから高くとびあがった初愛佳さんがこっち目がけて力いっぱいスパイクを撃つ。
「待ったァ!」
「な、優」
そこにすかさず俺はジャンプをして、初愛佳さんのスパイクを止める。止めたはいいけど、すごい痛い。
「セカンドボール!」
「お任せを」
俺はブロックでボールを止めたはいいけど、初愛佳さんのボールの勢いは凄まじく、ボールはネット手前ではなく少し離れた位置へ落下している。そこに対して、二月さんはカバーに入ってギリギリのところで、ボールをすくい上げた。
「ナイス。じゃあ、俺がいくぜ」
二月さんがすくいあげたボールは、田中が飛び上がってスパイクを打つ。
「やば、遅れた。刈谷さん」
「いや、これは」
スパイクされたボールは、刈谷さん方向に飛んだけれど、刈谷さんはそれを無視してノータッチで見送った。刈谷さんの見送ったボールは、またも微妙な位置に落下し、水無口さんに視線が集まる。
「水無口さん、これはどうですか?」
刈谷さんがそう聞くと、水無口さんは俺たちの方に手を上げた。
「よし。ナイス判断。よくわかったね」
「感交じりですけどね。上手く行きました。これは、優くんになにか期待してもいいですか?」
「期待と言うと?」
「簡単です。ちょっとした、ご褒美です快楽を伴う」
「それは、望み薄かな」
いつも言っている通り、ああいうのはダメだ。
「ダメなんですか?」
「そりゃ」
逆にいい日なんて、そんなにないだろうし。
「残念です。じゃあ、また別の機会にでも」
「何、別の機会って」
不穏なことを言い残して、平然と自分の配置に戻っていく刈谷さんだった。
「梶谷様、よろしくお願いしますね」
「練習の成果見せてね」
さっきの試合が終わり、チームシャッフルを行った。その結果、刈谷さんとは別れ俺は二月さんと一緒のチームになった。ちなみに、さっきの試合は勝った。
「二月さんファイト」
「ご期待に添えるよう、頑張らさせていただきます」
ボールを持った二月さんが、ジャンプサーブを行う。二月さんのサーブしたボールは、綺麗な弧を描いて相手コートに入り込んだ。
「いくぞ」
そのボールを初愛佳さんがレシーブであげ、順当にボールを回しこっちのコートへ、ボールを返す。
「俺がやる」
こっちの陣地へきたボールは、俺がトスで上へ上げ、次の人へまわす。
「よし、あげたよ。お願いします、二月さん」
「はい!」
2回目のトスで二月さんが後ろから、走ってくて高く飛び上がる。けれどもそれに合わせて、相手もブロックしようと飛び上がる。
「あら、塞がれてしまいましたね。それなら」
そう言った二月さんは、スパイクを打つフリをしてから、ボールの下を触りちょいとボールを上へあげた。
二月さんのフェイントをかけたボールは、相手チームの意表を着いたのもあって、誰もいないど真ん中のポイントに落ち始めた。
「任せろ」
不意をついた二月さんの攻撃ではあったけれど、初愛佳さんがフライングレシーブてそれを防ぎ、ギリギリ得点になるのを防いだ。
「でもすまん。変な方に」
「お気になさらず。私がやります」
初愛佳さんのレシーブで変な方向に飛んで言ったボールを追って、刈谷さんが走り出す。すごい速さでボールに追いついた刈谷さんは、後ろ方向に思っきしレシーブをする。刈谷さんのレシーブしたボールは、刈谷さんチームのコート内に戻り、トスで俺チームコートに戻ってきた。
「惜しい」
「梶谷様、お願いします」
「ちょっと、急に言われても」
唐突に二月さんにボールを回され、戸惑いながらもスパイクを打とうと、飛び上がりボールを上から思いっきり打つ。
「ああ!ごめんなさい!」
俺のスパイクしたボールは、ネット引っかかりそのまま後ろへ戻って行った。もちろん、水無口さんが手を上げたのは、相手コート。
「ごめんなさい」
スパイクに失敗した俺は、自責の念から死んだせみのように仰向けで縮こまり顔を手で覆う。
「気にすんなって、梶谷」
「そうですよ梶谷様。夫婦は助け合――」
「二月さん、シッ!」
仰向けになる俺を見下ろす二月さんの口を抑え、唇の前に指を立てる。
「あ、すみません。わたくしたちの関係は、秘密でしたっけ?」
「単純に言わないでって話!」
「よーし。やってやるか優」
「お願いします。初愛佳さん」
さっきの試合は惜しくも負けてしまい、今回がおそらくラストゲームでチームシャッフル。ラストは、初愛佳さんと同じチームになった。
「じゃ、ゲームスタート」
ゲームがヌルッと始まり、相手からサーブのボールが飛んでくる。とりあえずと俺は飛んできたボールを、トスで上へあげる。2回の試合でわかったことは、基本的に初愛佳さんが攻撃すれば、得点が入るということだ。
「よしきた」
うん、安定。俺があげたトスに対応して、初愛佳さんが飛び上がりスパイクを撃ち込むと点が入る。
「ナイスです初愛佳さん」
「まあな、俺に任せろよなんでもな」
へへ、と得意げに笑う初愛佳さんは、頼もしさの塊でしかない。少し視線を逸らして相手コートを見ると、二月さんと刈谷さんが何か話している。
「ささ、次々」
初愛佳さんのジャンプサーブで始まって、相手はレシーブからトスでボールを回す。トスで上がったボールに対して、二月さんが飛び上がってスパイクを打とうとする。
「そんな単純なのじゃ、俺が止め――な」
ブロックで初愛佳さんが飛び上がったけれど、二月さんはボールを空振りその後ろから、刈谷さんが出てきてこっちのコートへスパイクを打ち込んだ。
「やばぁ!」
ボール落下付近に俺ともう1人がオーバーレシーブをするけれど、位置がズレていて止めるられなかった。
「くそ。小賢しい手を」
「にしても美味いな。2人とも、即興であれをやってのけるって」
刈谷さんと二月さんの動きは要注意だ。
♦
「よし!得点」
相手のミスでこっちに1点入る。これて、俺たちのチームはマッチポイントとなる。
「お前ら、ラスト取るぞ!」
最後の鼓舞として、初愛佳さんが声を張り上げると、俺、刈谷さん、二月さんを除く仲間と敵の肩がビクッと震えた。
そんなの関係ないため、初愛佳さんがジャンプサーブで相手コートへボールイン。今回のサーブはそこそこ強かったみたいで、相手のレシーブでボールがこっちにまで帰ってきた。
「よし、任せた」
「俺わなしで」
初愛佳さんからボールを渡されるも、さっきのスパイクで懲りた俺は、トスでボールを上げ別の人にスパイクをお願いした。
「任された、いくぜ!あ、やべ狙いが。水無口さん、危ない」
俺が上げたトスでスパイクを打とうとしたけれど、狙いがめちゃくちゃなくるい方をしたようで、審判の水無口さんの方へボールが飛んでいく。水無口さんも割とボーッとしていたみたいで、声に驚きオドオドとし始めた。
「ブロッ――いっったぁ!」
クソスパイクの起動を読んで、水無口さんの前に飛び込んだけれど思いっきり、腹にスパイクボールを食らった。
「優!大丈夫か?」
「バカみたいに痛いです。水無口さんは」
砂上でゴロっと回って、水無口さんの顔を見ると水無口さんは、グッドと指を上げた。
「良かったよ。水無口さんが助かって」
運良く俺が左前の位置と、水無口さんに近い位置に入れたのと、メイドさんの攻撃で神経が研ぎ澄まされてたのが幸いした。
「ごめん!選手交代。誰か、代理入れといて」
この腹の痛みじゃ、試合には立てないと判断し、選手交代を願い出た。どうせあと1点だし、初愛佳さんが決めてくれるだろう。
「じゃあいくぞ〜」
俺が砂上にぶっ倒れていても、試合は続く。うつ伏せになりながらも、試合を観戦していると水無口さんに肩をつつかれた。
「どうかした?」
水無口さんの方を向くと、水無口さんは俺の耳に口を近づけ、息を吸ってから喋りさ始めた。
「優……くん。助け、てくれ……てくれて、あ、ありがと……う」
「全然いいよ。水無口さんが、怪我するよか丈夫な俺が食らった方がダメージ少ないだろうから」
腹はすごい痛いけど。
「ちょ、ちょっと水無口さんなんで砂かけるの」
俺が話しあたと、水無口さんは俺の顔から顔を逸らして、俺の体に砂をかけ始めた。水無口さんの耳、めちゃ赤いけど熱中症とかじゃないといいんだけど。