147 お嬢様それは危険です
思いのほか痛い。初愛佳さんからの強烈なスパイクが当たった場所を冷やしてはいる。さっきまでは痛くなかったはずなのに、今になってそこそこの痛みが出てきた。遠くから、初愛佳さんと水無口さんをライフセーバー見たく監視ししてるけど、なんとも楽しそうだ。初愛佳さんが水無口さんに合わせ、ボールを飛ばしそれを水無口さんが上手いこと浮き輪の上でボールを返し、それに対し初愛佳さんもボールを返すその繰り返し。たまに水無口さんが、浮き輪から転げ落ちるのは気になるけど。
「梶谷さま」
「うお!なに」
ボーッと2人を眺めていたから、横にいた二月さんには気づけず、急な耳近ボイスに驚いて耳を手で塞いだ。
「すみません。驚かせてしまったようで」
「俺がよそ見してたから、気にしてないけど」
いつの間にか横に座っていた二月さんを上から下へ、俯瞰して見てみる。二月さんの水着は、ドレスワンピースのお嬢様を連想させる柄の水着。
「そんなにジロジロ見ないでください。わたくし、体型維持等の努力はしてますが、維持程度のものですので、綺麗なプロポーションとは言えないんです。それに、お胸もそこまでないですし」
恥ずかしそうにそう言って体を腕で隠す二月さん。胸は置いといて、体型は普通に綺麗な形だと思うんだけどな。
「まあ二月さんが嫌なら、見ないけど。ところで、急に話変わるけど今日はリムジンで?」
「まあ、そうですけど。なぜ急に?」
「いや、いいんだ。メイドさんが、近くにいるか知りたかっただけだから」
リムジンできた、ということはメイドさんが近くにいると取っていいはずだ。俺がわざわざ聞いたのは、メイドさんの二月さんを守ろうとする心が、クラスの男子に向いてしまわないか怖いからだ。俺に防ぎようないけど。
「メイドですか?それなら、そこに」
「え?」
二月さんが指さした方を見ると、ライフセーバーの座る椅子に座ったメイドさんが、双眼鏡を持ってこっちを向いている。メイドさんはメイドさんで、黒ビキニと言った感じで初愛佳さんに近いものがある。
「梶谷様」
「はい」
メイドさんの方を見ていたら、二月さんに顔を両手で挟まれ顔を二月さんの方に向けられた。
「メイドのプロポーションが素晴らしく、見とれてしまうのはわかりますが、そのわたくしのことをしっかり見てほしいです」
頬を赤らめた二月さんは、俺の顔から首に腕を回しそのまま、体を密着させようとする。嫌な予感がして、急ぎメイドさんの方向をむくと、なにか構えている。つまりは――
「まずい!」
二月さんが俺と体を密着させようとするのを利用して、そのまま二月さんを押し倒す。
「ごめん、二月さん唐突に」
「い、いえ。そんなことより、梶谷様の胸板が」
「俺の薄い胸板ならいくらでもどうぞ。なぞらないでね、くすぐったいから」
そんなこと言ってる場合ではない。すぐに次の攻撃を、てかもう来てる!さっきメイドさんが投げていたものがもう一度来ているため、急ぎ二月さんから離れ避ける。それと共に立ち上がって、メイドさんに向かって大きくバツをだす。そうすると、次なる攻撃を構えていたメイドさんは、1度止まり見てるからなのジェスチャーと共に1度座ってくれた。
「梶谷様、大丈夫ですか?息きらしてますけど」
「うん。とりあえず二月さん、少し距離取ろっか。痛、えぇ……」
二月さんの方に戻ろうと、1歩を踏み出すと足に痛みが走った。なんだと思って、痛みのあるところを見ると、切り傷から少し血が出ている。あと水着の端っこが破れている。
「梶谷様、血が出てるじゃないですか」
「これくらい放置しとけば――」
「ダメですよ。何があるかわからないですから、とりあえず洗いに行きましょ。肩、貸しますから」
「いや、それは大丈夫です」
二月さんの心配で俺は近くの水道で、傷口の血を洗い流してから、また戻ってきた。
「洗ってきたよ」
「大丈夫ですか?しかし、一体何で怪我を?」
「レディセーバーの意地、かな」
「なんですか、それ」
なんだろうね、と笑いながら誤魔化していると、俺の足をさわった二月さんがこれでよし、と言った。
「なにが――うげ」
二月さん触ったところを見ると、可愛らしい絆創膏が貼られているではないか。
「これ、可愛いですよね」
「ああ、うん。可愛い、と思うよ」
正直俺には合わないから、誰かしらにバカにされるのは確定だな。
「ま、いいか」
絆創膏のことは諦めて、そのままその場にストンと座り込む。
「は〜、疲れた。水着は破れるし、体力はめちゃ消耗するし」
「水着……あ!梶谷様、なぜわたくしの番の時いなかったんですか?」
「見世物小屋のこと?」
「そんな言い方しなくても」
そうか、小屋ではないか。見世物に関しては、否定したくないからな。実際、女子の水着を見世物に大喜びしてる訳だし。
「人混みは長くは入れないからね」
俺がどう、という訳ではなく、初愛佳さん個人的な問題によるものだけど。
「わたくし、最初は梶谷様に見て頂きたい、と思っていたのに残念でした。良くも分からない、有象無象の方達が最初だっただなんて」
「二月さんの方が、言い方悪くない?」
こう聞くと二月さんは、ほんとに俺にしか興味が無いみたいだ。言ってて自分で、恥ずかしいけど。
「俺は遊びたかったんだよ」
「それなら、今からお、オトナの遊びを旦那様」
「おっと、嫌な予感」
言いにくそうに言った二月さんは、なにかの覚悟を決めたみたいで緊張感を持った色気のある顔になり、水着の肩紐をずらし始めた。もちろん、それを許すわけはなくすぐに肩を掴んで止める。
「お嬢様、それは危険です!」
「で、でも」
「危険です!センシティブ、生か死か」
いくらここが人目が少ないとはいえ、だ。そもそも、1人の視線が危険すぎる。
「遊ぶなら、別のことしよ」
「そうですか」
「そうです。てか、体は大事にしよ。女の子なんだから」
「わたくし、仮に体を汚してでも梶谷様と一生を添い遂げる気なのですが。例え、その途中で無くなってしまっても」
腹上死!
「い、いや。ほら、まだその時でもないしさ、もっと整った環境の方がいいでしょ?」
「それはそうですが。別に」
「良くなーい!」
まずい、この空気感いつ俺が死んでもおかしくない。メイドさん、俺は悪くないはずなんです。なので、今すぐ座ってください。
「と、とりあえず。そんな、ピンクな話はやめて、普通に遊びのこと考えよ」
「そうですか。今からでも、未来の計画をと思ったのですが」
場所的にそんな話するもんでもないだろうに。
「梶谷様がそういうのであれば、しょうがないです。それで、何をしましょうか。わたくし、ある程度海のアクティビティは実家の室内ビーチで勉強したので、大体はいけます」
「室内ビーチ?」
なんだその2次元的概念。というか、二月さんの実家の敷地どうなってんだ。
「ま、まあそうだねビーチバレーとか?今ちょうど、やるみたいだし」
スマホを見たら、刈谷さんからお誘いが来ている。ナイス刈谷さん。
「ビーチバレーですね。やりましょう」
「そう。それじゃあ、行こうか。二月さんは、ちょっと先に行っといて貰っていいかな。俺、人呼ばなきゃ」
二月さんには、先にビーチバレーコートに行ってもらい、俺は初愛佳さんと水無口さんを呼んでから、ビーチバレーコートに向かう。