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145 対激辛ラーメン戦

「んんー!美味しいー!」


運ばれてきたラーメンを啜った忍さんが、握りこぶしを勢いよく縦に振って、興奮してい。


「そんなに――美味!」


忍さんの反応に不信感を持ちつつ、俺も続いてラーメンを啜ったけれど、忍さんの反応もとてもわかる。なんせこのラーメン、俗に言う旨み成分というのが結構濃くスープに出されていて、その旨み成分が舌を刺激する刺激する。


「で、優來は……大丈夫そうか?」


スープの美味さに舌鼓を打つ俺と忍さんに対して、優來は俺らよりも先にラーメンを食べ始めていたというのに、ほとんど減っておらずなんなら、さっきから小刻みに震えている。


「辛い」

「ほら〜」


このラーメンは見た目通り辛かったようで、優來は辛さでギリギリになっているみたいだ。


「スープ、美味しい。飲む?」

「いやいい――わかった、飲むって」


辛いスープを断ろうとするけれど、優來は俺へグイグイとレンゲを口に当ててきた。しょうがない、と思ってレンゲからスープを飲んでみる。


「おお、美味い……か、辛い」


カツオベースのいい味のスープかと思いきや、時間差でとてつもないパンチが下を攻撃する。インフルエンサーなどの、激辛の反応は嘘かと思ってたけど、こうも痛いと上手く否定はできないな。


「忍さんも飲む?」

「私はいいよ。辛いの苦手だから」

「まあまあ、関節キス関節キス」


優來からレンゲを受け取って、忍さんの口元にレンゲを持っていく。


「そんな関節キスとかい、言わないでよ」

「さささ、ご完飲」


俺も優來と同じように、忍さんの口元にレンゲを押し付けると、観念した忍さんはスープを飲んだ。そうすると、口元を押え驚きの顔をして「あ、美味しい」と感想を漏らした。


「でしょ?でも、ね」

「からぁい」


忍さんの舌にも辛さの痛みが来たようで、一瞬で忍さんの目には涙が浮かんできた。


「ほんとに辛いんだけどまって痛い痛い痛い」


ものすごい早口でスープの痛みに耐える忍さん。とはいえ、辛すぎるからか優しくではあるけれど机を叩いている。


「ごめんごめん。杏仁豆腐おごるからさ、許してよ」

「ならいいけど。痛い」


涙目になり、熱いラーメンを啜る度にビクッと震える忍さんを見ながら、俺も口の痛みを我慢しながらラーメンをすする。すごい舌がピリピリしてしょうがない。



「ごちそうさまでした。や、やっと食べ終わった」


ラーメンを完飲仕切った忍さんが、顔をほてらせながら息も絶え絶えで丼を机の上に置く。


「お疲れ様」

「これも、梶谷くんのせいなんだからね」

「だからごめんって。杏仁豆腐頼もっか。で、優來は……大丈夫そうだな案外」


一応優來自身もこのラーメンが食べきったようで、息を切らしているものの、丼は空になっている。


「じゃ、杏仁豆腐頼むか。すみませーん!」


優來の生存を確認してから、店員さんを呼んで杏仁豆腐を注文。杏仁豆腐と一緒に牛乳と頼んで、優來の舌を気遣っておいた。


「優來、舌大丈夫そうか?」

「身長、爆伸び」

「大丈夫そうだな」


食べてた時の反応に比べると、結構ケロッとしてるし大丈夫そうだな。


「グラマラス」

「はいはい」


優來は全然元気そうだ。にしてもこの杏仁豆腐、すごく美味しい。杏仁豆腐特有のあの鉄っぽい味がない。味的に言うと、牛乳プリン的な味に近い気がする。


「忍さんもほんと、ごめんね」

「ほんと、痛かったんだからね。もうあ、あーんしてくれないとゆ、許さないんだから」


そういう忍さんは、ラーメンで顔をほてらせてた時とは、比にならないくらい顔を赤くしている忍さんが、俺から顔を逸らし口を手の甲で隠しながらそんなことをぼそっと言った。


「忍さんそういうの苦手なのに、よく言う気になるよね」

「う、うるさい!ゆ、許さないよ」

「ごめんって。じゃあ、スプーン貸して」


なんともいたたまれない、といった様子の忍さんにを差し出し、スプーンを求めると恐る恐るといった感じで、スプーンを俺の手の上にのっけた。


「ほんとにやるの?」


俺にスプーンを渡した忍さんが弱弱しい声で、俺に聞いてくる。


「だって、そうしないと許してくれないんでしょ?」

「そう言ったけど」


忍さんがもごもごとしている間にも、杏仁豆腐をすくって忍さんの口元にスプーンを運ぶ。


「ほら。あ~ん」


そんな俺に対して、瞳を揺らした忍さんは覚悟を決め、目を閉じ口を開いて俺がスプーンを口に入れるのと同時に、口を閉じて杏仁豆腐を食べ飲み込む。そこから、おそるおそる目を開け、俺のことを視界にまっすぐとらえれる。


「おいしい?忍ちゃん」

「か、からかわないでよ!」


一度波も過ぎ去り、顔の色が戻っていた忍さんをからかうように、呼び方を変えると顔をまた赤くして、大声を上げた。


「ごめ――ん?どうした優来」


半笑いで忍さんに謝っていると、横に座る優來が俺の服の裾を引っ張った。


「お兄、私も」

「別にいいけど」


優来にお願いされ優来のスプーンを受け取って、忍さんの時と同じ手順で優来にも杏仁豆腐を食べさせる。


「お返し」


そういった優来は、俺に手を出してスプーンを求める。


「いや別に俺はいいんだけど」

「お返し」


推しの強い優來に根負けして「はい」とスプーンを渡すと、優來はさっきの俺同様に杏仁豆腐をすくって、俺の口元に持ってくる。


「あ、いま」

「どうかした?」


優來が一瞬忍さんの方を向いたかと思ったら、忍さんがおそらく優來に対して声を上げた。


「な、なんでもない」

「そう。あ、美味い」


優來から食べさせられても、あまり味は変わらず普通に美味しい杏仁豆腐だ。


「梶谷くん、わ、私もやるよ」

「いいの?忍さん、死んじゃうんじゃ」

「死なないから。お返しだから」


ほんとかな、とは思いつつも優來からスプーンを返してもらって、忍さんにも渡す。そして、忍さんも俺、優來同様の手順で杏仁豆腐をすくう。いまさらぁな話だけど、こうも緊張する忍さんが目の前にいると、俺も妙に緊張してくるな。


「じゃ、じゃあ行くよ」

「おっけ――」


ままよ、と言った感じで忍さんは勢いよくスプーンを俺の口に突っ込み、即座にスプーンを引き抜いた。


「あ、ごめん。と、とりあえず水飲んで」

「ありが――」


唐突にスプーンが喉近くまできたこともあって、咳が止まらない。


「敵」

「ごめんってぇ!」



「ごちそうさまでしたー」


杏仁豆腐も食べ終わり、店を後にする。今思っても、ただの食事でよった割に案外濃い時間だったな、と思う。優來の忍さんに対する信頼は、あまり築けなかったみたいだけど。


「うう……ごめんなさい」

「まあ気にしないでよ。ストーカーやめてくれるなら、気にしないし」

「それは無理かもぉ……」

「なんでそうなるの」


どんだけストーカーに対して、思いやりがあるんだ。


「とりま、帰るか」


忍さんのストーカー碧は諦めて、家の方向へ歩いていくこととなった。

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