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143 勢いよくボールを投げて

「いくぞー」


そんな掛け声とともに、初愛佳が由乃に向かって勢いよくボールを投げる。


「いっったー!」


そんなボールに対して、由乃は怯えながらグローブでボールをキャッチして、甲高い声をあげる。


「由乃うるさーい」

「黙って!そんな言うなら、あんたもやって見なさいよ」


そんな2人を優は、縁側で2人のキャッチボールを見守る。


「そんな強いか。一応手加減してるんだけどな」

「ウソ……」


初愛佳の手加減の言葉に、顔を青くする由乃。一応言っておくと、初愛佳の玉は手加減と言う割には、ほんとに早く由乃の誇張などではない。


「はいはい。それなら、ちょっと待ってろよ。今、冷たいの持ってくるから」

「ええ、嘘放置?!」


手を痛める由乃を尻目に優は、冷たいものを取りにリビングの方へ入って行ってしまった。


「ほんとに置いてくの?」


優が居なくなった縁側を見て、涙目になる。そこに初愛佳から「おーい、まだか」となげるのをあ催促する声が来て、前を向いて初愛佳に比べ圧倒的に弱いボールを投げる。


「そういや、聞きそびれてたけどよ、お前と優って、どういう関係なんだ」


素朴でありつつも、初愛佳にとっては気になってしょうがない質問を、ボールとともに由乃へ投げる。


「私と優は、ただの幼馴染」


もっと別の言葉で形容出来れば、と思いつつも「あなたは?」と初愛佳にボールとともに返す。


「俺と優か?え、えとカップル……」

「は?」


言いにくそうに言った初愛佳の言葉に、由乃はその場に固まった。そんな放心状態の由乃に、力加減の知らない初愛佳が思いっきりボールを投げる。


「じゃない、じゃない」


頭を振って意識を戻す。そこから顔を上げると、目の前にはえぐい速さのボールが来ている。


「危ない!」


それを見た由乃は体ではボールを避けつつも、ボールをキャッチ。そのままバランスを崩して、後ろに倒れてしまった。


「おい。大丈夫か」


心配した初愛佳が、由乃に近づいて膝に手を着いて、由乃のことを見下す。近づいてきた初愛佳を視界に入れた由乃は、手を伸ばし初愛佳の胸ぐらを掴む。掴んだ胸ぐらを引っ張り、初愛佳と顔を近づける。2人の息が混じり合う。由乃は、割と敵意を剥きだし、初愛佳は何が何だかと困惑の様子。


「どういうことよ。優と付き合ってるって」


「どのくらい?いつから?どこまで行った?」と、初愛佳をまくし立てる。


「いや、そのさっきのは」

「なに!早くどこまで」


初愛佳の話が聞けないほど、由乃の頭には血が上っているようで、圧に関して初愛佳よりも上になっている。


「ごめん!さっきのは、冗談だんだ!」

「ほんとに言ってる」

「ほんと、ほんとだって」


胸ぐらを掴まれた初愛佳は、由乃に対して必死の説得を行う。


「ただ、ちょっと言ってみたくなっただけで」

「ほんと?」

「ほんと、ほんとだって」


「じゃなきゃ、もうちょい距離感近くなるだろ」と付け足して、由乃に言い聞かせる初愛佳。それを聞いて、「確かに」と言って由乃は胸ぐらをつかむ手の力を緩めた。


「そういうことだ。まあ、ほんとなら……」

「わ、ちょ」


頬を赤らめながら初愛佳は、体を起こした。いまだに由乃は胸ぐらをつかんでいたため、初愛佳とともに 体が起き上がった。


「いや~、ごめんごめん。保冷剤ついでにーー二人とも、なにしてるんですか?」


*


「二人とも、なにしてるんですか?」


保冷剤を持って、庭に出てみると由乃が初愛佳さんの胸ぐらをつかんで後ろに体重をかけている謎状況。


「新手のフォークダンスの練習?」

「なわけ――やば」


俺にツッコミを入れようとして、胸ぐらから手を離した由乃は、そのまま地面へ倒れてしまった。


「おい大丈夫か?」

「いてて。ん」


倒れた由乃の元に行くと、いやそうな顔をしながら俺に持ち上げろと言ったような手が向けられた。


「はいはい。起きろ」


倒れた由乃を起こし、背中を確認してから手がすごい赤くなっている由乃に保冷剤を渡し、俺たちは家の中へ戻った。


「疲れた疲れた」

「あんたは何もしてないでしょ」


キャッチボールを終えて俺たちはまた勉強をするために、俺の部屋に戻ってきた。


「にしても初愛佳さん、さっきから妙に静かですけど、大丈夫ですか?体調とか」

「き、気にすんな、よ」


俺が初愛佳さんのことを気にかけると、初愛佳さんは俺から顔を背け何か隠そうとしてる様子の初愛佳さん。


「ほんと、大丈夫ですか?耳、真っ赤ですけど」


俺からそっぽ向いた初愛佳さんの耳は、どう見たって真っ赤になっている。


「き、気にすんなって」

「まあ、やばかったら言ってくださいよ」


初愛佳さんのことだし、あまり俺に迷惑は、と思って言わなそうだし細かく気に止めておこう。



どうも気がかりだ。俺の部屋に戻ってきて、勉強を再開したはいいけど、由乃と初愛佳さん2人の気まづさがさっき以上になってる気がする。例えば、さっきまで初愛佳さんに謎の対抗心を燃やしていた由乃が、基本不干渉になって、それに付随するかのように初愛佳さんもそれを由乃に先生役を譲ろうとしたりと謎だ。


「あの〜、2人とも何かありました?」


俺が2人にそう聞くと、2人は何やらビクッと思い切り跳ねたような気がした。


「えっと、何があったかんじ?」


そう聞いても2人は俺を無視して、スラスラと問題を解いていくだけ。これは、割と本格的な確執が生まれた可能性があるな。


「あの〜」

「集中してるから、うるさい」


間をもたせようと、なにか言おうとするけれど、由乃に早口でキャンセルされてしまった。


「とりあえず、2人とも俺が耳元で囁いてあげますからどう――」

「私ら、マブよね」

「おうもちろん」

「ええ……」


俺が適当に言った囁きの言葉に、2人とも異様な食いつきを見せ、その場で腕組をして仲良しアピール。


「さ、早くやりなさいよ。録音してあげるら」

「いや、今のネタ……」

「二言でもあるの?」

「二言っていうか。録音されるのは、ちょっと」


まあ、俺がネタとはいえ言ったことだし、囁くのはいいとしよう。でも、録音はダメだ。一生ネタにされかねん。


「チッ」

「初愛佳さん!?」

「ああ、ごめんごめん」


まさか、あの心優しい初愛佳さんまでも、俺の声を録音しようと!?この2人、一体俺の声で何をしようと言うんだ。


「まあ、ほらとりあえずやりなさいよ。録音はしないから」

「そこまで言うなら、やるけど」


渋々ながらも、由乃の耳元に口を持っていき、例の如く俺に出せる精一杯のイケボで、適当に出力した台本を読み上げる。


「俺、2人に仲良くなって欲しいんだ。だから、何があったかは知らないけど、もっと円滑でいて欲しいな」

「さ、最後におやすみって、言って」

「は、はぁ。由乃、おやすみ」

「よっし!ゲットォ!」

「は、おい聞いてないって」


由乃のリクエストに応え、おやすみと言うと由乃はホクホク顔で立ち上がり、スマホを天に掲げながら大声で喜びの声をあげる。


「あ、ゴホン。ま、これであんたの要望に応えてあげるわよ。これは、そうね証明書みたいなものかしら」

「なんだそれ」


個人的、自分のイケボ(仮)ボイスが人の手に渡ってるってのは、恥ずかしいんだけど。


「とりあえず、私のことは置いといて、初愛佳さんにやってあげなさいよ」

「話、逸らすなよ。まあ、いいや。初愛佳さんもやります?」


俺が初愛佳さんの方に顔を向け、そう聞くと何も言わないけれど、初愛佳さんは頭を縦に何度も振った。


「じゃあ、やりますよ」


顔を赤くして固まった初愛佳さんの方に口を近づけ、口を開こうとすると、初愛佳さんから小さく唸る声が聞こえてきた。それは、気にせず言葉を口からだす。


「初愛佳さん、これは友達増やすチャンスですから、由乃と仲良く、してください」

「あ、えっと。おはよう」


一瞬なんだ、とは思ったけれど由乃の流れ的にリクエストだろう、と思いそれに応えるべくまた口を開く。


「初愛佳さん、おはようございます」


そう耳元で囁くと、初愛佳さんはまた小さく唸ったあと小声で「やった」と言ったような気がした。まさか、と思って初愛佳さんの手元を見ると、スマホを持っているしかもボイスレコーダーを開いている。


「初愛佳さんまで」

「べ、別にいいだろ。俺だって、欲しいんだ……」

「まあいいんですけど」


個人的、以下略って感じだ。


「とりあえず2人とも、確執を取り除いて勉強再開しましょう」

「確執なんてないわよ」

「は」


確執ないって、さっきまでの俺の苦労は一体……


「やあ、優!女の子2人と、勉強は楽しそうだね〜」

「か、母さん」


由乃の言葉に嘘だろ、とか思ってたら母さんが勢いよく扉を開け、ニヤニヤしながら俺の部屋に入ってきた。


「え、今の見られ」

「あ、初愛佳さん!」


母さんにさっきのを見られていたのがこたえたようで、初愛佳さんは顔を赤くしながらそのまま横になってしまった。


「ま、ごゆっくり〜」

「いま、待って。今の忘れ――」

「むりー」


俺の話を聞かずこの部屋から足早に退散しようとする母さんを追って、俺も部屋から急いででる。2人を置いて。とはいえ気になるのは、なんであの2人は確執もなしにあそこまで気まづかったんだ。まあ、初対面だったというのもあるんだろうけど、その比にならないくらいだったから、さらに気になるというもの。

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