140 愛の告白少女と毒盛り少女
「ふ〜。暑っつい」
メチャ暑い駅のホームから、冷房の聞いた電車内へ入り、出入口のすぐ横にあった席に座る。俺が乗ったこの時間は、人が少ないようで対して人は載っていない。
「ほんとだよ〜。眠いし、暑いし魚は大量だし。ほんと、疲れた〜」
俺の横に座った青空さんが、わざとコテっと倒れ俺の膝の上に寝転がる。俺たちは、気がむいたということで金曜日に釣りを計画。早朝から、例の堤防に釣りに赴いていた。今は、その帰りだ。今日は暑すぎて耐えられなかったのと、そこそこ魚も釣れ満足したために、帰ることにした。俺は、青空さん比べてほとんど釣れなかったけど。
「眠過ぎて、このままねむっ……ちゃいそ〜」
「あ、ほんとに寝た」
俺の太ももの上に横になった青空さんは、ほんの数秒で眠りについてしまった。青空さんは、1人で釣りに来た時いつもこうなのかな。とりあえず起こす理由はないし、このままでいいか。スヤスヤと眠る青空さんと絶妙な眠気を持った俺を乗せて、電車はどんどん進んでいく。
「あ、梶谷くん。なんで……」
「ん?」
誰かが俺を呼ぶ声がした。ぼやける視界を、瞬きで補正しつつしっかり視界を戻してから、顔を上げる。
「あ、石橋さん」
欠伸を出しながら前を向くと、そこに居たのは買い物袋を片手に持った石橋さんだった。青空さんは、まだ寝てるみたいだ。
「梶谷くん、こんにちは」
「こんにちは。てか、もうそんな時間か」
スマホを取りだして、時間を確認すると気づけばお昼時になっていた。堤防から家までは、そこそこ距離あるし、そりゃ時間もかかる。
「梶谷くんは、釣り?」
「そうだね。朝からだったから、眠くって。石橋さんは?」
「私は部活の買い物。みんなで行ってたんだ」
「なるほど」
買い物袋を持ち上げ強調した石橋さんは、青空さんの隣に腰を下ろし。俺のことをチラチラと、見ている。
「どうかした?」
「い、いや、そこの子。なんで、梶谷くんの膝で寝てるのかなって」
躊躇いながら、青空さんに指を指し俺に聞いてきた。
「青空さんね。まあ、この人はそう言う人なんだよ。でも、釣りの腕前は結構あるんだよ」
青空さんには、多々冷や冷やさせられることはあるけど、釣りの腕前に関しては結構尊敬してるところはある。
「へ、へ〜」
「ゆうくんは、僕のことそう思ってたのか〜」
「いつのまに」
いつの間にか起きていた青空さんは、石橋さんとの会話を聞いて、ニヤニヤとした青空さんが俺の体を這い上がり対面で膝の上に座り込んだ。
「も〜やっぱゆうくんは、ツンデレだな〜」
青空さんは、ニヤニヤしつつ頬をツンツンとつついてくる。ほんとに楽しそうだな、この人は。
「ふっふっふ。ついに青空ちゃんの時代到来か~」
「はいはい、時期尚早時期尚早」
そういいながら青空さんに降りるよう、ジェスチャーをするも青空さんは降りるつもりはないみたいで、そのまま口をとがらせ話を続ける。
「ひどい、ひどすぎるよ~」
「く、苦しい……」
何の仕返しか、いつもと変わらない口調で青空さんは、強く俺に抱き着いてきた。
「す、ストーップ!」
「どうかしたかい?石橋ちゃん」
わざとらしく抱きついていた青空さんは、石橋さんから静止が入ると強い抱きつきを離して、俺の息は通りが良くなった。
「そのクーラーボックスの中、魚入ってるの?」
「そうだね。名前は知らないけど、6匹」
「アジとサバとキスだね〜」
家を出る時父さんから魚釣ったら持ち帰ってこい、と言われてクーラーボックスを渡された。この中には、俺が釣った魚の内そこそこ大きさの良かった、6匹が入っている。
「アジ……」
魚の名前を聞くと石橋さんが、顎を持ち何かを考え始めた。俺が石橋さんの名前を呼ぶと、石橋さんはハッとしてから口を開いた。
「いや、ちょっとした提案なんだけどね、2人とも私の家でご飯食べないって。良ければ、その魚料理するしさ」
「ああ〜」
どうしようかと思って、前を向くと青空さんと目が合った。
「なんだい、ゆうくん僕のこと見つめちゃって〜。別に僕はいいよ〜、そもそもそれはゆうくんのだしね〜」
「それなら、お願いしようかな」
「それじゃあ、私の家行こうか」
料理をすることにウキウキな石橋さんと、電車をおりても俺にくっつこうとしていた青空さんと一緒に、石橋さんの家に向かっていく。
「ここだよ」
石橋さんに案内され、石橋さんの家にまでやってきた。石橋さんの家は、俺の家からそこそこ離れてるみたいだ。
「暑いかもだけど、上がって」
「おじゃまします。そういえば、ご両親は?」
「このくらいだと、2人とも買い物行ってるからいないよ」
「あ、そう」
「ゆうくんダメだよ〜。美少女2人と2人きりだからって、襲っちゃ〜。せめて、僕だけにしてね〜」
「何もしないよ」
ツッコミを入れながら、石橋さんの家の中に入る。石橋さんの言う通り、冷房の付いていない家の中は、めちゃくちゃ暑い。暑さが俺の体にまとわりついてきて仕方がない。
「じゃあ、2人はソファにでも座ってて。あ、あとお茶出さなきゃ」
「お構いなく」
家に入った途端石橋さんは、忙しなく動き始め俺と石橋さんにお茶を出してくれた。
「じゃあ、梶谷くん。魚貰っていい?」
「はいはい。てか、石橋さん魚捌けたんだね。練習した感じ?」
「ううん。魚は元から少し捌けたの。小さい頃、おじいちゃんに教えてもらったことがあって」
「ああ……」
そういや石橋さんって、料理が下手な時も包丁さばきはそこそこ良かったっけ。それは、魚を捌けたからか。
「まあ、2人はゆっくりしてて」
それじゃあ、と言って台所への歩いていく石橋さんに、名前を呼んで引き止める。
「なに?」
「まあ、当たり前の話だけど、普通に作ってよ」
「もう、何言ってんのそ、そりゃ普通に作るって」
「その普通が、俺に対するものじゃないといいけど」
疑いの目を向けながら、石橋さんにそう言うと目を逸らして、わかってるよとだけ言って台所の方へ小走りで向かって行った。
「ゆうくんは、僕とイチャイチャしようね〜」
石橋さんへの不安は残るものの、ソファに座る青空さんの方に行くと、速攻で青空さんに掴まってソファの上に寝転がせられた。
「青空さん暑い」
「緊張かい?」
「なわけ」
確かに顔がすごい近いけど、青空さんとこの距離ってのは、もう慣れたことだ。とりあえずお茶を飲んで、濁しつつ石橋さんの料理を待とう。これなら、石橋さんの料理風景見とけばよかったな。