14 ヤンキー少女初愛佳の恋
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学年1恐れられているヤンキーこと初愛佳、彼女は中学の頃は真面目で勉学に対して真剣に取り組む人だった。
彼女が現在に進化?したのは高校に入学する少し前の話。
「なあなあ、高校入る前に髪染めろよ、金髪にさ」
「え、やだよ普通に。校則で禁止されてるし」
この頃の初愛佳は、髪の長さは今と大差ないものの髪の色としては黒髪。見た目で言えば、清楚のレッテルが貼られる見た目だった。
「でもよー、高校で黒髪ロングは舐められっぜ」
「それお母さんの話でしょ…」
初愛佳の母親は、県内有数の治安の悪い学校に通っていた経験があった。まあ普通に元ヤンってことだ。
「まあまあ、いいからやってみなって。気が引きしまるからさ」
そう言って懐から隠し持っていた、市販のカラー剤を取り出し初愛佳に見せつける。
「うわ、隠し持ってたの?」
「そんなことはいいからさ、ほら洗面所行こうか」
「ちょ、ちょっと…」
座っている初愛佳を無理やり立たせて、洗面所の方向へ押してい連れていく。
「それじゃあ早速…」
「ちょっと待って」
カラー剤の箱を開けようとする母の手を掴み、開封を阻止する初愛佳。
「なに?初愛佳、お母さんを止めようたって無理だよ」
「そうじゃなくて、染めるなら美容院でやりたい」
「あ、染めるのはいいんだね」
「だってお母さん断っても、どこかでこっそりやってくるじゃん」
「あ、バレた?」
初愛佳は過去の経験から母親が閃いたことは、なかなか諦めないのを知っていた。
「でも、なんで美容院で」
「だって市販のものって髪、痛んじゃうし」
「何きにしてんの、彼氏いるわけでもあるまい」
「そ、そうだけど。一応お母さんに育ててもらったものだし、大切にしたいじゃん」
少し照れくさそうに理由を話す初愛佳。それを聞く、母は感極まったような顔をして、初愛佳のことを見ている。
「もう、初愛佳好きー」
「ちょっと、抱きつかないで!」
少し照れくさそうに理由を言った初愛佳に、親の愛を惜しみなく伝える母だった。
「やっほー初愛佳ちゃん。今日は髪染めるんだってね」
「はい、お願いします」
「とちうか、初愛佳ちゃんが髪染めかー。高校生デビュー?」
「違いますよ、お母さんが染めてみなって」
「あー」
初愛佳の来ている美容院は、初愛佳が小さい頃から来ている美容院のため、初愛佳を担当する美容師さんは、母親のことは何となく知っていた。
「で、何色にするの?」
「金髪でお願いします」
「金髪か、攻めたねー。それじゃあほんとに高校生デビューになっちゃうよ」
「でも、すぐ戻すと思いますけどね」
自分に金髪は似合わないと思っている初愛佳は、母が満足するぐらいまで、金髪で過ごして、その後黒に戻そうと考えていた。
「そう、でも初愛佳ちゃんなんとなくだけど、金髪似合いそうだけどね」
初愛佳の長い髪を撫でながら、初愛佳の金髪姿を想像する美容師さん。
「そうですか?」
「ま、やってみればわかるんじゃない?早速始めようか」
「新生初愛佳ちゃんの完成!」
時間にして約1時間30分ほど経って、遂に金髪に染った初愛佳が出来上がった。
「やっぱり似合ってるね」
「そうですか?これじゃあただの不良…」
金髪という髪のせいか、初愛佳がにあいすぎているのか、鏡に映る初愛佳は不良にしか見えない。
「まあまあ、しばらく生活してれば慣れるって。戻したくなったら戻せばいいし」
美容師さんに背中を押されつつ美容院を退店、そのまま家へ帰宅した。
「初愛佳おかえりー!あー!やっぱり似合ってんじゃん可愛い」
「可愛いの?」
「まあ、半分娘補正だけど可愛いよ」
「それほんとに可愛いの?」
家に帰ってすぐ、玄関に母親が出迎えてくれて、金髪になった初愛佳を見るやいなやまた抱きつく。
「やっぱり、そこは血なのかもね。私も似合ってたから金髪。みる?お母さんの昔の写真」
「いいよ、私課題やんなきゃだから部屋戻るね」
少しウザったい親をいい感じに流して、自室に戻って部屋に置いてある全身鏡の目の前に立った。
(私はそんなに似合わないって思ってたけど、結構いいかも…)
初愛佳は真面目で、勉学に対して真剣に取り組む模範生徒だ。
そして初愛佳は比較的、自身の見た目に性格が引っ張られやすかった。
「よし、高校はこのままで行くか」
迎えた入学初日初愛佳は、染めた金髪のままで入学式に参加した。
校則では、髪染めは禁止されているもののハリボテだったのか、はたまた初愛佳の圧のようなものなのか髪のことは注意されなかった。
「おい、そこのバカ女止まれよ」
入学してから2日目帰りの道を1人で歩いていると、3人組で歩く他校の女子生徒に呼び止められた。
「なんだよ、俺は帰って…」
完全に髪色の性格に染った一人称で、めんどくさそうに返答をする。
「うちらと喧嘩しろよ」
「え、やだよめんどくさい」
「めんどって…い、いいからやれよ、今むしゃくしゃしてんだから」
喧嘩を誘うのが下手なヤンキーは、なかなか釣れない初愛佳に、軽く戸惑っている。
「というか、この髪は母さんにやられただけだからな。俺は喧嘩したことない綺麗な体だから、じゃあな」
後ろにいるヤンキーたちをあしらって、そのまま家へ帰ろうとしたら後ろのヤンキー達が後ろから一言、初愛佳の耳に入るような大声で言われた。
「おい待て!逃げるな!」
「しょうがないっすよ、多分怖気ずいたんでしょうし」
「てか、親に髪やられたって相当バカで毒親っすね」
初愛佳にとって家族は、とっても大事な存在だった。それは育ててくれた恩から来る尊敬でもあり感謝でもある。初愛佳は、人情を大切にしていた。
「おい、今なんつった」
初愛佳にとって自分のことは何言われてもしょうがない、どうでもいいと思っているが、自分の親のことは看過できない領域のことだった。
「しょうがねぇな、やってやるよ喧嘩」
持っていたバッグを、壁の方に投げ、ジリジリとヤンキー達の方へ歩いていく。
「そ、そうかじゃ、じゃあ来いよ」
初愛佳の出した殺気に1歩下がるヤンキーたち、そんなことはお構い無しに初愛佳は、ヤンキー達の方へ突っ込んでいく。
「おい!いいか!俺のことはいい。でもな、俺の親のことをバカにんすんじゃねぇ!わかったか」
口だけヤンキーみたいなやつらの、リーダーと思われる女の胸ぐらを掴んで、大声で教えこむ。
「は、はい…」
今まで喧嘩なんてした事の無い平穏な生活を送っていた初愛佳だったものの、何故か喧嘩は強く圧勝という成績に終わった。
「じゃあな、俺に一生話しかけんじゃねぇぞ」
「は、はいわかりました」
初愛佳の中で怒りはまだ覚めきっていないけれど、このまま続けるとまずいことになるのを悟ったため、無傷の状態で家へ帰った。
その後ボコボコにされたヤンキー達が初愛佳への軽い報復か、はたまた街中での喧嘩が見られたのか初愛佳の暴力沙汰の件は、学校へ報告され学校中に広まることになった。
けれども、今回が初犯ということで初愛佳は停学程度で事なきを得た。
「にしてもあんたバカね、こんな最初から喧嘩するなんて」
「そこんとこ、母さんは人のこと言えねえだろ。それに喧嘩はせざるおえなかったし…」
1人リビングで停学処分中学ぶであろう、勉強範囲の教科書を見て勉強しながら、最後にボソッと呟く初愛佳だった。
まあ、そんな良心を持ったヤンキーこと初愛佳と優の出会いはただの偶然でしか無かった。
「ねえ、君さぁ調子乗りすぎじゃないかな」
「いや、俺何もしてないんですけど」
この先輩の言う調子乗りすぎとは、初愛佳自身何もしていないのに、ただ先輩の彼氏が初愛佳に惚れたという話だった。つまりそこそこいちゃんもんだった。
「うるさい!お前は黙ってろ!」
怒った先輩から拳が飛んでくる、それを避けることはできたけれど、避けることなく飛んできた拳をそのまま受ける。
「はやく謝れよ!」
校舎裏で殴られ続けて数分先輩も熱が入ってきたのか、謝ろうとしてもその瞬間に殴るの繰り返しで話が進まなかった。
「先生!こっちです!」
先輩の殴りに耐えていると、どこからともなく先生を呼ぶ1人の男子生徒の声。
「ち、来ちゃったか。また呼ぶからな、覚えとけよ。あと、このことは誰にも言うなよ!」
負け犬のセリフのように、言葉を言うだけ言ってその場から逃げていく先輩。
「やっと終わったか。たく、痛てーな殴られたこと無かったってのに」
「大丈夫ですか?」
誰もいなくなった校舎裏で1人痛みを感じていると、優が初愛佳の元に走ってきた。
「おい、先生は?」
「あ、あれ嘘なんですよ。俺たまたまここにごみ捨てに来て、通りがかっただけなんで」
不甲斐ないとでも言いたげな顔で、少し笑う優だった。
「そうか、いいけどよ俺も面倒だったし。あと、サンキュな」
「ちょっと待ってください」
現状を何となく理解して、帰ろうとする初愛佳の腕を掴みその場に引き止める優。
「なんだよ、俺は早く帰んないといけないんだけど」
「いやあの、保健室行った方がいいんじゃ…」
「え、そんなに酷いか今?」
優に説明を求めると、顔にいくつかあざができて結構痛そうに見えるといわれた。
「そんなに酷いか、じゃあ行くだけ行くか」
「そうですね、跡残っちゃうかもですし」
「どうせアザあるし、残りはするだろ」
初愛佳は優付き添いの元、保健室へ歩いていく。
「失礼しまーす…誰もいないですね」
「そうか、じゃあこのまま帰るか」
「いや、待ってください!俺がやります」
先生がいないならと帰ろうとする初愛佳だったけれど、また腕を掴まれて引き止められた。
「それじゃ行きますよ」
優が初愛佳に出来た小さな切り傷に、消毒液を含ませたコットンボールを近づける。
「いた!もっと優しくしてくれよ」
「俺そこまで器用じゃないんで、勘弁してください」
一応優も、優しくやってくれてはいるようだけれど、痛いものは痛いようで、肌にコットンボールが触れるたび、痛いと言っている。
「で、あとはここのアザを冷やしておけば…」
「おう、ありがとよ…」
「あとは…あ、ちょっと待っててくださいね」
初愛佳に簡単に作った氷嚢を渡して、保健室を走って出ていってしまう優。
「なんか変わったやつ」
保健室に1人取り残された初愛佳は、ボソッと優に思ったことを口にした。
「すみません遅くなりました、あとこれどうぞ」
戻ってきた優が初愛佳に手渡したものは、200mLのパック牛乳。
「これは?」
「いやーもし骨折してたら、牛乳飲めば早く治るかなって」
「早く治る…なんだよそれ、お前面白いこと言うな」
優の出したトンデモ理論的なものがツボに入ったようで、さっきまで笑っていなかった初愛佳の顔が一気に笑顔なった。
「てか、お前俺の事怖くないのか?いや、俺の事知らないのか」
「さすがに知ってますよ、その見事な金髪。あれですよね暴力沙汰の…」
「なんだ知ってんのかよ。じゃあほんとになんで、俺と話すんだ?」
初愛佳は元の見た目で友達が出来にくかったのにも関わらず、暴力沙汰の1件以降友達がまじでできなくなった。それに初愛佳の中学の友達は、この学校にはいるものの、自分から関係を絶っているため、初愛佳は孤立していた。
「だって、俺はあなたを優しい人だと思ったので」
「それまたなんで」
いままで噂の色眼鏡で見られ続けた初愛佳にとって、今の優の返答は意外に感じた。
「さっき一部始終を見てた感じ、殴り返せたのに殴らず黙って受け続けてたってことは、相手のことを思ってですよね?」
見てたなら早めに助けてくれよ、とは思ったけれど何も言わずに話を聞く。
「だから、暴力沙汰の話も何か理由があってやったんじゃって思いまして」
「やっぱ、お前変わってるよ。普通そんなの悟っても、なかなか助けに入らないだろ。俺みたいなやつなんて、特に」
「そうですか?」
「そうだよ、お前は少し変わってる」
(名前知らないけど、コイツ少し変わってるけど良い奴だなそれに…かっこいいし、優しくてほんとに良い奴かも…)
この日は優の名前だけ聞いて解散、そして初愛佳は自分で行動を始めた。少しでもいいから優との距離を縮めようと、自分から行動を始めた。
「おい!ここのクラスに、梶谷優ってやついるか!」
周囲からは、怖がられているけれど優は理解してくれている。それだけで心が満たされ十分な初愛佳だった。