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139 真っ暗な街中で殺し合い(2)

「メイド」

「はい。お嬢様」


二月さんが横でメイドさんのことを呼ぶと、ほぼタイムラグなくメイドさんがやってきて、目の前でキーンという金属と金属がぶつかり合う音が聞こえた。


「あなた、なんですか?」

「私は、お嬢様のメイドだつまり、お嬢様に害のあるものを排除する役目がある」


2人の声が聞こえ目を開けると、目の前には俺に手を差し伸べる二月さんがいる。二月さんの余裕は、メイドさんがいたからだったみたいだ。


「すみません、お嬢様。呼ばれた場所に行ったのですが、お嬢様が居なく周辺を探していたら、遅れてしまいました」

「いいのよ、それくらい」

「ありがとうございます。その分、しっかり仕事はこなさせて頂きます。さあ、貴様逃げるか私に殺されるか選べ」


駆けつけたメイドさんは、黒嶺さんに向かって銀のナイフを向ける。


「逃げる?そんなわけないでしょう。ここまで来たんですから、この際皆殺しです」


ナイフを向けられた黒嶺さんは、引こうとはせず同じくメイドさんに向かって包丁を向けた。そして、2人は戦闘態勢に入った。それと同時に、街灯のあかりは消え真っ暗で静かな空間になった。


「それでは、死んでください」


街灯の明かりがまた着くと、黒嶺さんは包丁を大きく振り上げメイドさんへ襲いかかる。それに対して、メイドさんは後ろに二月さんがいるからか、受け流すことなくナイフで受止め、黒嶺さんと目を合わせる。


「あなた、やりますね」

「そりゃ、お嬢様を守るためですから」


包丁を止められた黒嶺さんは、メイドさんから1歩離れ次なる攻撃に走り出す。黒嶺さんの次の攻撃として、左足を軸としたハイキックを入れる。メイドさんは腕で足を止め、空いた黒嶺さんの左脇に向かってナイフを振る。そこを黒嶺さんは、包丁で受け止める。そこで、がら空きとなった黒嶺さんのお腹を、メイドさんは蹴りまた距離を置く。お腹を蹴られた黒嶺さんは、さすがに痛かったようでお腹に手を当てている。


「ほんと、邪魔ですね」

「さあどうする。逃げるか、私とこのまま死ぬまで戦うか」


メイドさんは専門の人だから当たり前なのかもしれないけれど、すごい余裕そうにしている。それにしても、その専門職の人と戦ってほぼ怪我のしていない頭のいいただの高校生女子がいるのもおかしいけど。


「もしかしてあなた、バカですか?私が引くわけないじゃないですか」

「そうか、ならいいだろう」


2人が話したあと、また街灯は明かりが消え当たりが真っ暗になる。かと思えば、黒嶺さん側から甲高い金属音と共に火花が見えた。


「暗くなって、ものを投げるだなんて、危ないじゃないですか」

「それはすまなかった。だか、もうほかも投げてしまった」


街灯の灯りが着いて、当たりが見やすくなると、いつの間にか黒嶺さんに向かって、大量のナイフが投げられている。そのナイフたちを黒嶺さんは、綺麗な包丁さばきで全てを受け流していく。そのため、黒嶺さんの周りは大量の火花が散っている。


「全く、危ない」

「それは、囮だ」


黒嶺さんが全てをさばき切り、一息つこうとしてるところに、1本のナイフが投げられている。とはいえ、黒嶺さんもここまで戦えてるだけの反射速度はあり、顔の目の前に行った瞬間、即座にのけ反りナイフの柄を掴んで1回転。こっちに向かって、掴んだナイフを投げてきた。けれども、そのナイフはメイドさんに向けられたものではなく、どちらかと言うと――


「お嬢様!」

「隙、見せましたね」


黒嶺さんの投げたナイフは、二月さんに向けられた物だったようで、それに気づいたメイドさんは、二月さんの方に飛んで、投げられたナイフを弾く。その隙に好機を見出した黒嶺さんは、メイドさんに向かって包丁片手で遅いかかる。


「さあ!刺されてください」

「チッ」


今まで受けることに徹していたメイドさんだったけれど、今回はダメだったようで黒嶺さんの包丁を受け流す形になった。それでもメイドさんは、タダでは転ばず少し崩れた体勢から、上手いこと黒嶺さんの顔を蹴りまた黒嶺さんとの距離を置いた。


「すみません。お嬢様、狙いに気づくのが遅れてしまい、危険が」

「別にいいんだけど、メイド血が」

「気にしないでください。これは、戒めです」

「何が戒めですか。痛かったですね今の。ほんと、虫酸の走る」


口から血を吐き捨て、次なる準備をする黒嶺さん。今度は包丁の持ち方を逆手持ちにして、次の攻撃をしようとしている。


「お前」

「あ、俺ですか?」


頬の血を吹いたメイドさんが、何やら嫌そうに俺のことを呼んだ。


「お前、お嬢様の前に立て」

「あ、えっと」


メイドさんに言われて、二月さんの前に立つ。


「立ちましたけど……」

「そうか、なら死ぬ気でお嬢様を守れ。私は、今から守りが薄くなる。いいな、もしお嬢様に何かあれば、覚悟しろ」

「い、YES BOSS」


メイドさんの口調はまるで、大勢を相手取るかのような言い方だけれど、相手はただの女子高生だ。まあ、人を殺す女子高生が普通かと問われると、微妙なラインだけど。


「メイド、無理はしないでよ」

「それは、承知しています。が、私はお嬢様の命が第1。そのためには、危険な道も通るつもりです」


そう言ってからメイドさんは、さっきまで保っていた二月さんとの距離を1歩はなし、先程までとは違う戦闘態勢に入った。


「お前、任せたぞ」

「もちろん。できる範囲で、やらせてもらいます」


「いや、死ぬ気だ」と言ってメイドさんは、地面を踏み締め黒嶺さん方向へ走り出しす。


メイドさんは黒嶺さんに近づくと、まっさきに右フックを入れようとする。対する黒嶺さんは、フックを後ろにのけ反り回避、そこから足蹴り入れようとする。そこにメイドさんは、足をかぶせ攻撃を防ぐ。これでお互い、豪の攻撃だけではダメだと思ったのか、刃物を使った攻撃を始めた。2人の刃物は、ほぼ目では追えない速度で動いていて、わかるのは金属音と肉と骨のぶつかる音それに飛び散る火花のみ。


とはいえこのまま続くと、勝敗は着いても片方ボロボロ片方死亡だろう。なにか、止める方法は無いものか。


「てか、二月さん。二月さんの家のメイドさんって、全員あんな感じなの?」


俺は戦闘に関する目を持っている訳では無い。けれども、あのメイドさんの動きは簡単努力じゃたどり着けない領域というのは、わかる。


「梶谷様は、わたくしの家をなんだと思ってるんですか?わたくしのメイドは、1人しかいないので心配性のお父様が護衛のために鍛えさせたんです」

「な、なるほど」


少しホッとした。二月さんの家に、あのレベルの人がうようよいるのかと思ったけど、あのメイドさんは特別なのか。


「まあ、やろうと思えば全員あのレベルにまであげるのは出来ると思いますが。やらせましょうか?わたくしたちの未来のために」

「またぬけぬけと……」

「よそ見をするな」


黒嶺さんは一瞬こっちに気を取られ、隙をついた横振りで前髪が1cmばかり切れた。


「お前は、油断があるな」

「それは、あなたも同じでしょう」


髪を切られた黒嶺さんは、頭勢いよく振り長い後ろ髪を揺らす。メイドさんの攻撃を避けつつ、頭を振り回す黒嶺さんは、ある程度頭を降ったかと思えば、髪をメイドさんの顔にぶつけた。その髪が当たった瞬間メイドさんは、視界が塞がれたからか的はずれな方向を攻撃。黒嶺さんは、がら空きとなったメイドさんのお腹に思いっきり蹴りを決めた。お腹を蹴られ、後ろへたじろいだメイドさんを見た黒嶺さんは、すかさず近づき今度は、包丁の刃を向け襲いかかる。


これじゃあ、勝負は決まったも同然だ。つまり、メイドさんが死に俺と二月さんも死ぬ。ここから黒嶺さんに逆転する方法は……いやぁ?1個あるな。


「さあ、首を――」

「二月さん!キスしよ」


殺されかけるメイドさんを尻目に、二月さんの肩を持ちキスを迫る。


「そんな、梶谷様急にキスだなんて」


キスを迫ると二月さんは、頬を赤らめながら手で唇を隠して顔を逸らしている。


「このままだと、俺たち死んじゃうから、さ。その前に」

「そうですか。そうですね、わたくしたちの愛は永遠、ですもの」

「だから!そういうのをするな、と言ってるんです!」

「危な!」


俺の行動に起こった黒嶺さんは、メイドさんへの攻撃をわざわざやめて、ローファーを蹴り飛ばしてきた。ローファーが来ることは予想できていたため、二月さんごとローファーを避ける。


「だから、よそ見をするな!」


攻撃をやめ、メイドさんの目の前で隙のできた黒嶺さんに、メイドさんは足蹴りで黒嶺さんの包丁を飛ばし、武装解除。手放された包丁は、こっちへ飛んできて地面にころがった。


そして、武装解除された黒嶺さんはと言うと……


「さあ、お嬢様への危険となる者よ死んでもらおうか」


メイドさんは、黒嶺さんを蹴り壁にうちつけた。それもあって黒嶺さんは、壁に寄りかかって少しぐったりしている。ここまでは上手くいった。あと少しだ、頑張ろう。さっきつった足を動かして、自分自身が動けるか確認をする。つった足は、少し痛みがあるけれど動けないほどでは無い。


「私を殺すですか。やれるものなら、やってみてくださいよ」

「そうか。まあ、怖がるな一瞬で殺してやる」

「よし!」

「梶谷様、急に何を」


メイドさんは、黒嶺さんへ向けるナイフを振りかぶった、そのタイミングで俺は黒嶺さんに向かって走り出す。


「じゃぁな、貴様はそこそこ強かったぞ」

「黒嶺さん!」


メイドさんがナイフを振り始めたところで、黒嶺さんに飛びついてナイフが当たらないよう体を倒す。メイドさんの振ったナイフは、黒嶺さんには当たることがなかった。俺も体に当たらなかったけれど、服に当たって少しばかり服が切れた。


「危ない。助かった」

「おい!貴様、そこをどけ。じゃないと、私は怒りで一緒に殺してしまう」


メイドさんの技術的に黒嶺さんの上に覆い被さる俺を避けて、黒嶺さんのみを刺すというのはできるだろうけれど、多分さっき俺がわざとやったキスで二月さんにちょっとした危険が及んだことに怒っているのだろう。


「い、いやぁそれは難しいかもですね。足をつっちゃってて」


もちろん足はつっていない。


「お前はいいのか、この女を生かせばお前が死にかけることになるんだぞ」

「それは……」


俺もそこに関しては、黒嶺さんを助けたというのはバカだと思う。とはいえ、だ目の前で知り合いが死ぬというのは、なかなかに寝覚めが悪くなると言うもの。


「黒嶺さんは、俺にとって大事な人の1人だから、殺されるわけにはいかないんですよ」

「そうか、なら仲良く死ね。お嬢様、罰は後で好きなだけお与えください」


そういったメイドさんは、またナイフを振りかぶる。俺が考えるべきは、これをどう避けるかだ。俺と黒嶺さんでミルフィーユ状態の今から、どう避けるか。黒嶺さんを抱えて転がるか、メイドさんの手を攻撃するか。


「じゃあな」


一言そう言ってからメイドさんは、ナイフをこっちへ振り始めた。そして、俺は死を悟った。メイドさんの手は、俺が予想したより倍以上に早く避ける隙が見つからない。避け、否、死というやつだ。


「黒嶺さん、ごめん!」


俺の下にいる黒嶺さんを強く抱え、ナイフが俺らを切り裂くのを覚悟する。


「ストップ」


覚悟を決めナイフの軌道を見ていると、二月さんからストップの声がかかった。二月さんの静止が入ると、100だったスピードは即座に0となりすごい速度の腕は止まった。


「黒嶺さん」


いつもと変わらないおしとやかな声で黒嶺さんを呼んだ二月さんは、地面に落ちた黒嶺さんの包丁とローファーを回収して、こっちへ近づいてくる。まさか二月さん、メイドさんの代わりに自分が刺すとか言わないよな。


「あなたの包丁とても、綺麗ですね。よく手入れされてるのがわかります」


こっちへ来る二月さんは、持った包丁の刃を該当の光を反射させながら、見た目を確かめていて反射した光の当たる二月さんの顔は、なんだか怖い。


「梶谷様、少しどいていただけますか?」


こっちに来た二月さんは、俺を黒嶺さんから引き離して、しゃがんで黒嶺さんのことを見る。


「これ、大事なんですよね。どうぞ」

「お嬢様!」


まさかの二月さんは、回収した包丁とローファーを黒嶺さんに渡そうとしていた。メイドさんもそれは驚きだったようで、二月さんの1歩後ろにいたはずなのに、二月さんの目の前にまで出てきた。


「何?メイド」

「あ、いえ。なんでもありません」


自然な笑みでメイドさんの行動の質問をすると、メイドさんは静かに元の位置へ戻って行った。


「わたくし、わかりますのあなたがこの包丁をどれだけ大切にしているかを。相当大切な方から、もらった物なんですね」

「あ、なるほど」


もしや、普段の黒嶺さんの親への態度は、大規模だツンデレという可能性があるのか。


「なわけないでしょう。よく見えるのは、私がいつでも梶谷さんを殺しやすいように、研いでるだけなので」


う〜ん。黒嶺さんが、すごいツンデレの可能性も捨てきれないけど、普段のことを考えると後者の方があってる可能性が高い。


「そうですか。でも、これは大事な物そうですから、返却します」

「ちょっと待った!それは、一旦俺が預るよ」


多分黒嶺さんに返却された時点で、また同じことになる予感がする。


「そうですか?なら、どうぞ」

「よ、よし。黒嶺さん、ケース貰っていい?」


そういうと、案外すんなりと黒嶺さんはいつも包丁をしまっているケースを渡してくれた。


「あれ、良かったの?」

「はい。今日は疲れたので、もう殺しませんよ、多分」


多分、ということは行動には気をつけろ、ということだなOK。


「お嬢様、この者の待遇はいかがしましょう」

「どうって、どうもしないわよ」


正直これに関してはまじかとしか言いようがない。なんせ、さっきまで殺されかけていたのに、普通に許すとは到底思えなかったからだ。


「黒嶺さんは、梶谷様の大切な方らしいですから。もしもの時は、第二婦人としてなら、婚姻してもいいですから」

「まって、二月さん悪気はないから怒りを鎮めて」


二月さんの第二婦人が怒りに触れたようで、黒嶺さんはじたばたとあばれた。俺は二月さんの言葉に瞬時に反応できたため、黒嶺さんを押さえるることができた。押さえてみてあらためて思うけれど、黒嶺さんはそこまで力が強いわけではない。なのに、あそこまでの戦闘力があるのは驚きだ。まあ、そこは柔軟性とかで補ってるのかもな。


「はぁ、馬鹿げたこと言わないでください。私が誰か他の女性とと一緒に籍を入れるわけがないでしょう」

「そうですか。それなら、わたくしたちはライバルですね。わたくし、少し自身はないですがよろしくお願いします」

「とりあえず帰るよ。時間的にそこそこ遅くなっちゃったし」


このまま続けても、話がまたややこしくなりかねないため、話を無理やりにでも区切る。


「そうですね。帰りましょうか。それじゃあ、メイド悪いけど車で来てもらっていい?」

「お気になさらず。お嬢様の、ご指示とあらば」


二月さんの指示でメイドさんは、暗闇の中へ消えていった。


「それでは、しばらくここで待ちましょうか」



「それじゃ、黒嶺さんまた」


メイドさんの運転するリムジンから降りた黒嶺さんを、窓から顔を出して見送る。


「はい。それでは」

「あ、そうだ。これ」


黒嶺さんから受けとっていた包丁を、黒嶺さんに投げて渡す。黒嶺さんに渡すと、黒嶺さんは俺の顔をなぜか見つめている。


「どうかした?」

「包丁を投げるのは、あまりおすすめしませんよ」

「今更でしょ」


黒嶺さんの注意に半笑いで答える。メイドさんを殺すために、ナイフを投げた黒嶺さんだ本当に今更な話すぎる。


「それでは梶谷さん。再三言うよおですが、くれぐれも気をつけるように」


そう言って笑う黒嶺さんの顔には、ちょっとした狂気が見え隠れしている。その狂気から目をそらすように、何も言わずに窓を閉めリムジンを出発させてもらう。


というか、二月さんが塾に入ったってことは、塾がある度に今日みたいなことになりねないのか。場を収める会話術でも勉強しようかな。


「梶谷様、それでどこえ帰りますか?わたくしとしては、先程のキスの続きができる場所がいいのですが」

「普通に俺の家に俺が帰るだけだよ」


さっき見た二月さんと同じような笑顔を向けて、まっすぐと伝える。そうすると、二月さんは少ししょんぼりとした顔をしたけれど、最終的にしっかり家に返してくれた。

黒嶺さんは強すぎるので、何かしら修正パッチを入れる予定です。

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