135 厨二病少女と聖母
「わ、我が主よ。我と一緒に帰らぬか」
「いいよ。帰ろうか」
如厨奈に誘われ、バッグを背負って教室を出る。今日はこれといった予定もないし、帰って優來と遊ぶとでもしよう。
「どう、如厨奈ちゃんは学校慣れた?」
「そうだな我は適応型の、スタイルというのもあるからな、もう完全になれた」
「そう、そりゃ良かった。勉強は?」
如厨奈から軽い近況報告的なものを聞きつつ、昇降口の方へ歩く。如厨奈から話を聞く感じ、そこそこ上手くやれてるらしい。優來がいい具合に潤滑剤になってくれているらしい。
「いやぁ、優來にも良い友達ができたようで――たっっか」
如厨奈と話して歩いていると、俺たちとは反対方向から高く積まれたカラーコーンを持った人が、歩いてきている。
「いやすごいなぁ。テェ!佐藤さん!?」
「あ、梶谷くん。私、これ運ぶからそれじゃあ。おっとと」
「ちょ、ちょっと待って」
カラーコーンで前と足元が見えず、転びかけている佐藤さんの肩をつかみ引き止める。
「どうかした?」
「その、手伝おうか?」
「いや悪いし、いいよ」
「でもそれを1人ってキツくない?」
このカラーコーンをとこに運ぶのかは、わからないけど。カラーコーンということはだいたい、体育館倉庫だろう。その体育館倉庫は、ここからそこそこ離れた位置にある。
「梶谷くん帰るところでしょ」
「別にいいよ、暇だし」
自由時間が潰れるよりも、カラーコーンの落下で骨折みたいな謎なことになりかねない自体を防げた方がいいだろう。
「そう?じゃあ、お願いしていいかな」
「任された」
佐藤さんの持っている高いカラーコーンを、半分ほど貰い俺もカラーコーンを持つ。
カラーコーン単体がそこまでの重さは無いおかげで、積み上がってはいても、そこまでの重量は無い。
「ごめん如厨奈ちゃん、俺佐藤さん手伝うから、先帰っちゃっていいよ」
「いや、我も手伝おう。なんせ、主の眷属だからな」
「主?眷属?」
「佐藤さんは気にしなくていいから。とりあえず、早く終わらせちゃお」
如厨奈に佐藤さんの半分くらいのカラーコーンを渡し、佐藤さんの目的の場所体育館倉庫の方へ向かうこととなった。
「よいしょ。そこそこ、疲れたね。お礼にジュースかなにか奢ろうか?」
「いいよ。俺がやりたくてやっただけだし。それに、押し付けられただけでしょ」
佐藤さんの事だいつも通り、優しさに付け込まれて任されたとかそんなとこだろう。
「じゃあ、如厨奈ちゃん――」
「いや、我もいい。俗世のものから、施しは受けないからな。もちろん、主からなら受けるが」
胸を張ってそんなことを言う如厨奈だけれど、その言葉1つ1つが俺の心を刺しまくる。
「え、えっとその主?と眷属?っていうのなに?」
佐藤さんにとって、如厨奈は新しい人種だったみたいで、不思議そうに如厨奈のことを見ている。それついでで、横目で俺の事も見ている。説明するのか?
「それに如厨奈ちゃん、眼帯してるけど、目大丈夫なの?」
「あああ、気にするなこれは溢れる力を封じ込めているだけだ」
「力?ほんとに大丈夫なの?」
如厨奈の言葉が意味わからなすぎて、明らか俺に説明を求めている佐藤さん。
「ま、まあ気にしないでいいよ。如厨奈ちゃん、ちょっとした心の病にかかってるだけだから」
如厨奈に聞こえないよう、最後の方は小さく佐藤さんに耳打ちする。
「え!?病気!?大丈夫なの!?」
「ちょ、ちょっと佐藤さん声」
「そ、そなたは我をなんだと思っているのだ」
「あ、いや別に……」
俺の言葉に怒った如厨奈は、頬をふくらませてご立腹なご様子。
「大丈夫なの!?この目?」
「いや、この眼帯は別にそういうのじゃ。たまに外すしな、そのお風呂の時とか寝る時とか、暑いときとか……」
割と高頻度。封じられた力は、どうしたんだ力は。
「さ、佐藤さん気にしなくていいよ別に。そこまで重いものでもないし」
厨二病ってものは、病にかかってる時は楽しい。どちらかと言うと、後遺症に苦しむタイプの病だし軽傷中の軽傷だ。
「主よ、前に言ったであろう。そなたの心には、我が主である――」
「ストップ!ストップ!」
俺が如厨奈に静止をかけると、如厨奈はキョトンとした顔をして口を閉じた。
ほんとにこのままだと、俺の伝説が佐藤さんにまで伝わってしまう。とはいいつつ、佐藤さんは厨二病について関心は低いみたいだけど。
「ほ、ほら。その一般の人に存在知られると、何かで危険が及ぶかもしれないからさ」
「確かに。そうかもしれないな。済まなかった。我が迂闊だった」
「もう、気をつけなよ。じゃ、帰ろ……帰ろう」
「どうかしたの?」「どうかしたか?」
話を逸らしてから、帰ろうと体育準備室の鉄の扉に手をかけるも、全く動く様子がない。
これはもしや、こういう場所定番の……
「えっと、閉じ込められたかもしれない」
「うそぉ!?」
俺の話に驚いた佐藤さんがこっちへ来て、扉を横に引こうとする。けれども、当たり前ではあるけれど、動かない。
「ど、どうする」
「佐藤さん落ち着いて。俺らには、文明の力があるでしょ」
閉じ込められた時電波が通じているのであれば、我らが文明の力スマホが力を発揮してくれる。とりあえず、まだ学校に残ってそうな初愛佳さんにでも電話を――
「主よどうかしたか?そんな、己が体をまさぐり始めて」
「いや、おかしいなぁ。そんなはずは……」
自分の体のあちこちを触り、スマホを探す。体を探してから、バッグの中も探してみるけど見つからない。その事実を突きつけられると、俺の心臓の鼓動はどんどん早く脈打っていく。
「もしかして、スマホない感じ?」
「ま、まさしくその通り」
くそぉ!文明の力を手放すなんて、一体俺はどういう思考してるんだ。
「私もスマホは教室だしなぁ」
「如厨奈ちゃんは?」
「案ずることはない。我は持って――」
自信満々にスマホを取りだした如厨奈は、スマホの電源を押してフリーズ。俺同様に顔が青くなる。
「す、すまない。充電が切れている」
「てことは?」
「完全に閉じ込められちゃったね」
閉じ込められたという事実を突きつけられ、俺ら3人の間にしばらく無言の冷たい空気が続いた。
「と、とりあえず一旦待ってみようか。誰か気づいてくれるかもだし」
「そ、そうだね。座って待とうか、バカ暑いけど」
体育準備室は、ほぼ密室状態。風が入らないというのもあって、生暖かい空気が充満していて暑い。
とりあえずは、なにか打開策を考えながら待つしかない。