134 ヤンキー少女とリレー
お昼を食べてからなんやかんや。残りの種目をやって行き、残るはあと一種目、そこそこ目玉となるリレーだけというところにまでやってきた。
うちの高校は、最後の最後に1年リレー、2年リレー、3年リレー、色別対抗とリレー4連戦とかいうものすごいことになっていて、最初の方は勢いがすごいけれど最後の色別は、そこそこ応援に疲れて皆最初ほどの元気は出なくなる。
現在走っている1年リレーでは、こっちと同じ色のところが4位と苦しい状況。距離的に巻き返すのは難しいだろう。
「じゃ、優俺はそろそろいくは」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「おう、任せろよ。全員ぶっ倒してやるぜ」
戦意強めの目で自信満々に、集合場所へ向かっていく初愛佳さん。
さすがに足の速さで、だよね。
「それでは、続いて2年生リレーになります」
初愛佳さんが集合に向かって少ししてから、1年リレーは終了した。結果俺たちと同じ色のチームは、1回目4位、2回目3位となんとも言い難い結果に終わった。
初愛佳さんが走るのは、1回目の組の4人目つまりアンカーだ。そこまで他クラスに詳しい訳でもないけど、陸上部でエースをしているとの話の女子がいるのはわかる。
「それでは、位置についてよーいドン!」
とんとん拍子に話は進み、選手は位置につきスタートがんの音ともに、リレーはスタートした。
序盤は、俺のたちのチームの色は3位。ここから、中盤の加速で2位まで上がれればいいとと言ったところが。
「二月さんファイト!」
1位と2位、3位それぞれ差がない状態で、第2走となる二月さんへバトンが渡った。
いまいち二月さんの運動ステータスは知らないけど、二月さん割とポンコツな面あるというのもあって、少し心配がある。
「二月さんいけー!」
クラスの人達が二月さんに応援の声を飛ばす。それに呼応するように、二月さんはスピードを上げ1人抜き3位から2位へ浮上。
何気に今走っている1位の子は、陸上部のエースの子みたいで2位を走る二月さんと、そこそこの差ができている。
そんな距離があきつつも、二月さんは何とか食らいついて、そのままを保ちながら3走の人へバトンを繋いだ。
うちのクラスの3走として選出されたのは田中。田中は、中学の頃に陸上をやっていてそこそこ足が早いらしく、今もさっきできた大幅の差をじわじわと縮めていってくれている。
「た、頼みます」
田中がいい具合に距離を縮めてくれた状態で、初愛佳さんへバトンが渡った。
バトンを受け取った初愛佳さんは、勢いよく前のランナーをおって走り始める。それはもう、獲物を狩る獣のような気配を飛ばして。
そんな気配を感じてか、周り何人かが軽い身震いをしている。というか、初愛佳さんを応援している人が心做しか少ない様な。しょうがない。
「初愛佳さん!ファイトです!」
初愛佳さんに対してほとんど送られない応援を送る。俺が応援を送ると初愛佳さんは、何となくニヤッと笑ったような気がした。
その瞬間初愛佳さんは、加速し空いていた差をどんどん縮め、1位のランナーと横並びになった。加速した初愛佳さんと、1位の子のデッドヒートに当てられた周囲の人たちが、初愛佳さんに対して俺と同じような応援を送る。
「初愛佳さんファイト!」
「ファイトです!」
応援に対し初愛佳さんも、答えようと必死に食らいつく。けれど、後一歩の差が絶妙に縮まらない。
「初愛佳さん、最後の直線頑張って!」
最後の最後必死の応援を初愛佳さんへ送る。
最後の直線全力を出す初愛佳さんから、涙目になりながらも逃げる1位ランナー。
「ゴール!」
前を走っていた2人が、ゴールを駆け抜け司会が1位のゴールを全体に知らせる。ここからだと2人は、完全に同着にしか見えなかったけど。
「ただ今の結果……」
♦
「クッソ」
「初愛佳さんお疲れ様です」
少しイライラしている初愛佳さんが、木の影の下にあるベンチに座り込む。
「なんだよ、あの審判。俺が1位出会いだろうが。せっかく、優も応援してくれたんだしよ」
「別に俺がしたからって、初愛佳さんにとっては少しの力でしょうから、さすがに覆る程じゃないと思いますけど」
他の人に比べて佐藤さんほどとは言わないけど、俺は俺で初愛佳さんと仲良い自信はあるけど、そこまで力になっていたとは思えない。
「い、いやお前の声は十分力になったよ……」
「そうですか。なら、嬉しいですけど」
「まあ、そのありがとな。あの中で応援してくれて」
「それくらい、どうってことないですよ。ん?」
俺が初愛佳さんから、あの応援のお礼を言われていると、1人の恐る恐ると言った感じで足音がこっちへ近づいてきた。
「田中、どうかしたか?」
「いや、ちょっと初愛佳さんに話があって」
こっちにやってきた田中は、俺ではなく初愛佳さんを指して話し始めた。
「どうかしたか?」
初愛佳さんは普段自主的に話しかけられることが少ないからか、不思議そうな感じで田中のことを見ている。
「その、別に大したことじゃないんですけど。な、ナイスファイト」
それだけ言って田中は「それじゃあ」と言って俺たちのところから、遠ざかっていく。
「優、さっきのやつ名前なんて言ったっけ」
「田中ですよ」
「そうか……おい!田中ァ!」
「は、はい」
遠ざかっていく田中を初愛佳さんが、大声で呼ぶと田中はビクッと震えてからこっちに振り返る。
「お前もナイスファイト」
ニカッと笑った初愛佳さんは、田中に拳を向けて田中と同じく、健闘をたたえる言葉を送る。
「は、はい!ありがとうございます!」
舎弟が兄貴分にお辞儀をするように、深く頭を下げてお礼を伝える田中だった。
「俺、怖がられてなかった、よな」
「まあいつもに比べると、全然でしたね」
「それは……いい、のか?」
「そこそこじゃないですかね」
いつもなら話すことなく逃げられるかしてるし、それに比べると今日のこれは、大きな1歩とも言えるぐらい、すごいことだ。
「ま、どうせいつもに戻りゃ、怖がられるのがオチだろうけどなー」
そう言いながら初愛佳さんは、ベンチの上で横になった。
「もう少し前向きに考えましょうよ」
「でもそうだろ。文化祭マジックなんて、言葉もあるんだしよ」
「それを言われちゃうと」
俺も水無口さんも、それで仲直り出来た感じではあるから、一概に否定はできない。
「だからよ、戻っときはまた頼むぜ」
「お、おお初愛佳さん」
横になっていた初愛佳さんは、起き上がったと思えば、寝る方向を変え俺の太ももの上に寝転んだ。
「初愛佳さん、一体どう……」
初愛佳さんにしては、珍しすぎるため本当に初愛佳さんか、怪しいところだったけど耳を見ると真っ赤だ。
多分、相当我慢の上でこの行動なんだろうな。行動理念は分からないけど。
「そうですね、またよろしくお願いします」
「ひゃ❤お、おい」
寝転ぶ初愛佳さんの頭を撫でると、初愛佳さんから女の子っぽい声が出て、起き上がった初愛佳さんは俺を困惑したような目で見てくる。
「ははは、ついつい」
「つい、じゃねえよ」
ツッコミを入れた初愛佳さんは、また俺に撫でられるのを心配してか、恐る恐る俺の太ももの上にまた寝に入った。
ほんと、これがみんなに怖がられてるヤンキーとは、よもや思えんな。