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129 3人でデート

「んん……」


俺に抱かれた状態で寝ていた石橋さんが、唸り声をあげる。


「石橋さん、起きた?」

「ああ、ごめん。私……」


上から意識を取り戻した石橋さんの顔を覗き込む。起きた石橋さんの顔は、自分が何をしていたかを思い出してか、どんどん赤くなっていく。


「覚えてるの?」

「少しくらい――てか、なんで私梶くんに抱かれてんの!?」

「ちょ、ちょっと暴れない暴れない」


起きた石橋さんは、今の状況を見てさっき見たくバタバタと暴れ始めた。


「い、嫌だって急にこんな……」

「石橋さんも覚えてるでしょ?あれを抑えるには、これしかないんだよ」

「それは、そうだけど」

「それなら、もう覚めてるはずなので、離してあげては?」

「あ〜そうか」


俺の横に座る黒嶺さんに指摘されて、石橋さんを抱いた状態から解放してあげる。


「よ、よかった」


解放された石橋さんは、急いで俺から離れて、深呼吸をして落ち着いている。少し傷ついた。


「ていうか今回、暴走状態の時間短かったね」

「まあね、クッキーはバクバク食べるものだから、1個に対する量は少ないよ」

「ちゃんとそこは考えてるんだ」

「当たり前じゃん」


その当たり前の前に、人に薬を盛るのをどうにかしてくれというのは、野暮な話なのだろうか。いや、ないな。ちょっと考えれば分かる事だし。


「そういや、梶くん。腕大丈夫なの?」

「腕?ああ、これ少し痛いけど」


石橋さんが指した俺の腕のところには、黒嶺さんに付けられた切り傷ができている。とは言っても、血自体はもうでておらず、触ると痛い程度。


「これくらい大丈夫だよ」

「だめだよ、いますぐ洗いに行こ。菌が繁殖しちゃうし。それか、私が舐めようか?」

「舐める?」


石橋さんが舐めると言った瞬間、俺は急いで戦闘態勢に入る。


「え?なに」

「石橋さん、ほんとに薬抜けてるんだよね」

「抜けてるよ。時間的にも、あの量なら残るとかもしてないよ」

「なら良かった。急に舐めるとか言うから、石橋さんまだ薬抜けてないのかと」


石橋さんに説得され、良かったと思い戦闘態勢を解除する。


「じゃあ、傷口洗いに行こうか。黒嶺さんどうする?」

「何言ってるんですか、着いていきますよ」

「でも、黒嶺さんスマホ電話来てない?」


ずっと気になっていた、音は小さいけれど黒嶺さんの方から、着信音ぽいのが聞こえていた。


「気のせいですね、早く行きましょうか」

「目の前で通知きらないでよ」


俺の指摘に対して、黒嶺さんはスマホを取りだし電話を切ったあと、通知をオフにしてスマホをバッグの中へしまい込んだ。


「さ、行きましょう」

「怒られないの?」

「大丈夫ですよ。気にしないでください」


まあ、お母さん達も黒嶺さんの性格は重々承知の上で、電話してるだろうしいいか。


両親との合流を辞めた黒嶺さんと、薬の効果の抜けきった石橋さんと、屋内階段からモール内へ戻る。階段から出る時、金属音ぽい音がしたけどきっと気のせいだ。



「やっぱ、種類たくさんある!」


石橋さんが普通の女の子みたいに、お菓子に使うチョコチップなどを見て、ぴょんぴょん跳ね楽しんでいる。


「そういや、黒嶺さんは料理とかするの?」

「基本しませんよ。母がしてくれるので」

「ちなみに料理自体は?」

「別にそれくらい、できますよ。前に作ったら、母に愛のあるものを作れと言われましたが」


あの人にそこまで言わせるって、黒嶺さんは一体どんなものを作ったんだ。


「別に私が食べるだけなのに、そんなこと言われるだなんて、ただ栄養効率と食べる効率のいいものを作っただけだと言うのに」


小さくそういうと、ため息をついて石橋さんと同じ棚の方へ歩いていく黒嶺さん。


どんなものを作ったのか、正確にはわからないけど、とりあえずやばいものを作ったのはわかった。


それはさておき、黒嶺さん料理できるんだな。まあ、言ってしまえば料理は、マニュアルゲーなわけだし完璧人間な黒嶺さんにとっては、得意分野か。


「どうしようかな〜。梶くんは、どれが好き?」

「好き、か。そうだな〜」


好きなものを見て、調子アゲアゲな石橋さんに聞かれて、棚全体を見てみる。こう見てみると、沢山あるな。ただのチョコだけでも、ストロベリーやキャラメルとそこそこな種類がある。


「あ、これかな」

「ドライフルーツね。てなると、クッキーとかタルトとかかな」

「へ〜。ちなみに黒嶺さんは、何かある?」

「そうですね、私は生き血とかがいいと思いますよ」

「それは誰のかな?」


黒嶺さん今日は殺さないとか言っておきながら、やる気満々だな。ん?待てよ……


「ちょ、ちょっと梶くん急に何してるの!?」


さっきの気がかりが気になって、黒嶺さんの胸あたりに手を当てると、確かにある。よもや人の胸とは思えない固いものが。一応言うと、黒嶺さんの胸とは思えない不自然な膨らみがある。


「どうかしましたか?」

「えっとこれ、なに?」


不自然な膨らみの上で、手を揺らしてみると何かがカチャカチャと音を立てている。


「何って、これですよ」


そう言った黒嶺さんは、胸の中へ手を突っ込みそこから、さっき俺が投げた包丁がでてきた。


「さあ、生き血を採集しましょう。家庭科の実習です」


包丁を取りだした黒嶺さんは、ボウリングのピンで片手ジャグリングをするように包丁を投げて遊んでいる。


「生物の扱いは、許可がないと」

「大丈夫ですよ、調理実習は届出不要なので」

「返り血が……」

「返り血は、着替えれば問題ないですから」


む、無敵すぎる。


「さあ、腕を差し出してください」

「クッキー食べる?10個ぐらい」

「さあ、腕を」


クソ!聞く気ないぞこの人。こうなりゃ


「ああ!もうこんな時間。タイムセールが始まっちゃう、それじゃあ俺は急ぐから」

「逃げないでください」

「か、梶くん!」


この場から逃げ出そうと、急いで黒嶺さんから離れようとしたところ、俺を逃がすまいとする黒嶺さんは石橋さんの首に包丁の刃を向け俺を脅してきた。


「どうしますか?この方の首が飛ぶか、私に生き血を捧げるか」

「てか、生き血の必要ある!?」


黒嶺さんの目的は俺を殺すことのはずなのに、なんで生き血を求めてるんだ。


「わかった、血でしょ?ならいいから、とりあえず落ち着いて」


俺が血の話を飲み込むと、石橋さんの首から包丁を離し、俺の方に包丁を向ける。


「さあ、腕を」

「お、おっけー」


袖をまくり、恐る恐る腕を差しだす。黒嶺さんという生き血のとり方を考えると、恐怖で心が埋め尽くされるけど。


「では、いただきますね」


そう言った黒嶺さんは、持っている包丁を天高くあげ、俺の腕へ振り下ろす。つまりは、俺の腕はお釈迦だ。


「いった!……くない」


ビビって瞑っていた目を開ける。目を開けてみると、そこには俺の腕にあと数ミリで静止する包丁があった。


「何ビビってるんですか。今日は辞めると、言ったじゃないですか」

「守ってくれるんだ」

「あたりまえですよ。まあ、もしもの時はわからないですけど」


つまりは、あまりイチャイチャするなとオーケー。別に石橋さんとは、イチャイチャしてる気もしないけど。



「買ってきたよ」

「満足した?」

「そりゃねぇ。やっぱ、こういうとこ来るだけでも、やりたいこととか見つかって楽しい。あと、梶くんの好みの物も買えたし……」


最後に付け加えて恥ずかしそうに下を見る石橋さん。それと共に、後ろから殺気が出てきた。


「と、とりあえず。適当になんか見ようか」

「そうだね。服とか見に行く?」

「石橋さんが見たいならどこへでも」

「じゃあ、服行こ。また、好み知りたいし」

「あの、石橋さんそれは嬉しいんだけど、言葉をもうちょい控えていただけると」


石橋さんの言葉で、後ろからの殺気はどんどん増していく。


「あの、黒嶺さん手を繋ぐでなんとか、ご容赦いただけないでしょうか」


黒嶺さんの殺気を抑えるため、手繋ぎの交渉をもちかける。


「手、ですか。まあいいでしょう。正直、手繋ぎなんてもので満足すると思われるのは、不服ですが」

「別に思ってなんて」


とりあえず、と黒嶺さんに手を差し出し手を繋ぐ。黒嶺さんと手を繋いだかと思えば、黒嶺さんの冷たい手ではなく、右手の方に人肌の温もりが伝わってきた。


「石橋、さん?」

「い、いいでしょ。最初に持ちかけてきたのは、梶くんだし」

「それは、そうなんだけど……」


石橋さんと黒嶺さんの立場が対等になったから、黒嶺さんの殺気がまた……


「は、早く行こ。こんなとこで、止まってる場合じゃないでしょ」


石橋さん自ら手を繋いでは来たものの、恥ずかしいようで頬を赤く染めながら、手の話から服を見に行く話へ変更された。


「そうだね。黒嶺さんも、殺気抑えて」

「そんな、殺気だなんて。ただの怒りですよ」

「黒嶺さんの怒りは、殺気が出るんだよ」


両手に花を持ちながら、ショッピングモール内を回る。黒嶺さんに関しては、服屋に着く前にご両親にみつかり、途中退場してしまったんだけれども。

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