122 愛の告白少女と甘えたがりシスター
「ゆうくん、ほら〜食べなよ〜」
「お兄、食べて」
俺の両脇にいる青空さんと優來が、俺へ箸でつまんだ食べ物を俺に向ける。
俺はただ2人と昼を食べに来ただけのはずなのに、なぜこうなってるんだ、俺が2人と行動を開始したのは確か30分ぐらい前の話……
「へい!ゆうくん。僕と一緒にお昼食べない?」
「別にいいけど」
いいけど、と言って無言で青空さんを見つめていると、青空さんに「どうかしたかい?」と不思議そうな顔で聞かれた。
「いや、その感じは続投なんだなって」
別に嫌って訳では無いけど、青空さんにはクラスが同じだから、ああやって遊ばれてるものだとてっきり思ってたから、今年も去年と変わらずな感じで驚いた。
「当たり前だろ〜。僕がゆうくんを諦めるわけないじゃないか〜」
「そうですか」
「そうさ〜。ささ、早く行こうか〜」
行こうか、というのは青空さんと昼を食べる時だいたい向かっている、中庭のことだろう。
青空さんに急かされながら、弁当を持って中庭の方へ降りる。その道中、優來から「今どこ」というLIMEが飛んできたため、なぜ聞くんだろう、とは思いつつも「中庭」とだけ返しておいた。
「いや〜、ここじゃ僕たちだけの空間だね〜」
「そうだね。はは」
中庭についてそうそう、周りにいつもよりも人がいるというのに、青空さんが俺にからかいの言葉をかけてきた。
「ほんと、僕は嬉しいよ。今日は、ゆうくんを独り占めできるんだから」
「独り占め、ね」
確かにここに来る時は、青空さんとプラス誰かがいるのがほとんどだったけど。青空さんの言う、独り占めって俺をからかって遊ぶ、な気がするんだよな。
「ほら、ゆうくんおたべ〜」
「それ俺の弁当から――」
「いいからいいから〜」
俺弁当からだし巻き玉子を盗った青空さんは、俺にあ〜んと言いながら、だし巻き玉子を俺の口にねじ込んできた。
「やっぱ、邪魔がないと気持ちがいいね〜」
「どんな感覚!?」
ていうか、サラッと由乃とかを邪魔者って言い切ったな。
「さ、ゆうくんも僕に気兼ねなく、やっていいよ〜」
「パスで」
「ええ〜?いいじゃないか〜、それじゃお礼としてやってくれよ〜。こんな、可愛い青空ちゃんから貰えたものなんて、国宝級だろ〜」
「その自信はどこから来てるのやら」
このまま逃げても言われ続けられて面倒になると思い、青空さんの弁当から同じくだし巻き玉子を取って、青空さんの方に向ける。
「お、ノリがいいね〜。やっぱ、ゆうくんはツンデレか〜」
「はいはい、ツンツンデレデレ」
「照れちゃって〜」
「うるさい」と言いながら、喋り途中の青空さんの口に、だし巻き玉子をねじ込んだ。
「やっぱ、ゆうくんに食べさせてもらうと味が何倍にもなるよ〜」
「バーナム効果では?」
とは言っても、俺のねじ込んだだし巻き玉子を食べる青空さんの顔は、幸せそうなんだよな。それが演技な可能性がない訳でもないけど。
「ははは〜ゆうくんは、わかってるくせに〜。僕のキ、モ、チ」
キモチを強調するように、1文字1文字引き伸ばし、それを聞いた俺の顔を見て「また、照れちゃって〜」とほぼ真顔の俺をいじる青空さんだった。
「とりあえず、俺が照れた、言葉が古臭すぎて吐きそうって話は置いといて、早く食べよ。時間終わっちゃうし」
「お〜け〜。てか、今僕のことバカにした?」
「あ、ごめん電話が」
青空さんと話し込んでいたら、ポッケに入れていたスマホが着信音を鳴らしながら揺れ始めた。
「どうかしたか優來」
「お〜い。僕を無視しないでくれよ〜」
「お兄、今、どこ」
「どこって言われても、返した通り中庭だけど」
なんか話方のせいなんだろうけど、メリーさんと電話してるような気分だ。
「中庭の、どこ」
「なるほど。優來こそ、どこにいる?」
優來が何をしたいかを察した俺は、逆に優來の位置を聞き返して、優來の言った視覚情報から青空さんを置いて、優來の方へ向かう。
「お、いたいた。優來」
「お兄」
優來を見つけ、名前を呼んで手を振ると優來は俺の方へ走ってきて、俺の腰周りに手を回して抱きついた。
「俺と昼、食べたいんだろ」
俺の予想通り、俺の腰周りに手をまわした優來の手には、俺とは違う風呂敷の巻かれた弁当箱を持っている。
「もち」
「そうかそうか。じゃ、行くか」
俺に抱きついてる優來と離れて、置いていった青空さんの元へ優來と戻る。
「あ、ゆうくん。遅いよ〜。てっきり僕のこと、見捨てたんじゃ……そこの子は誰だい?」
元の席に戻ると、眠そうにあくびをして適当にパクパクと、弁当を食べる青空さんが居た。
「ああ、この子は俺の妹の優來」
「義理?」
「実妹だって!」
ほんと、なんでみんなそんな反応するんだ。
「ごめんごめん。妹さんか〜。優來、ちゃん?で、いいんだよね」
優來と話すために立ち上がった青空さんは、優來に顔を近づけるけれど、顔が近すぎて優來は1歩引いた。
「ささ、とりあえず早く食べよ」
「そうだね〜。僕たちの愛の巣に戻ろ〜」
「お兄……」
「違う違う。そこまでの愛は無いから」
俺は無実だから、俺をなんとも言えないものを見る顔で見ないでくれ。
「愛はあるだろ〜、ほらあ〜ん」
愛は存在したといった青空さんは、机の上に置かれていた俺の弁当箱を持ってきて、俺の口の方ににんじんしりしりを持ってきた。
「ほ〜ら、あ〜ん」
「妹が目の前にいるのでさすがに……」
ガチな話、優來との前戯が1回見られてるから、あ〜んなんてLv1もいいとこな気がするけど。
「お兄!」
「はい」
優來にしては珍しく、大きい声で呼ばれ、優來の方を向くとそこには、青空さん見たく鯖の味噌煮を持って俺へ向ける優來が居た。
まあ、そんなこんな俺は今の状況に至るわけで。
「お兄、美味しい、よ」
「ゆうくん、ほら〜沖縄の伝統料理だよ〜」
さて、どっちを食べようか。順番を考えるのであれば、まずは副菜となるにんじんしりしり。その次に優來の持つ、鯖の味噌煮が妥当というものか。
立ちであ〜んを受け入れるというのは、特殊すぎると思うけど。
「お、ゆうくん食い付きがいいね〜。場所は、どこでもいいってことかい?」
「なんか、言い方がなー」
まあ、とりあえずにんじんしりしりでも食べたし、優來の方を食べる――
「優來さん?」
優來の方を食べようと思って、優來の方を見たら優來は、少し悲しそうな顔をして、鯖の味噌煮を一口で食べていた。
「あ、ご、ごめん優來」
「別に、気にしてない……」
くッ!これは、順番なんて考えず、鯖の味噌煮を先に食べるのが正解だったか。こうなったら。
「ほら、優來クリームコロッケだぞ」
悲しそうな顔をする優來に、期限を戻してくれ、と思いながらクリームコロッケをあ〜んで渡そうと試みる。
「食べる……」
良かった。小さく「食べる」と言った優來は、俺の箸につままれたクリームコロッケを口に入れる。味を気に入ってくれたのか、口に入れた瞬間顔が一気に明るくなった。
「美味しいか?」
「最高」
「そりゃ、よかった。とりあえず、座ろう」
ずっと立ちであ〜んし続けるのも良くない。立ち食いそばじゃないんだから。
♦
「ごちそうさまでした」
2人にあ〜んをしてからは、特段何も起こらず。普通に食事を終えて、合掌をした。
「時間もいいし、戻るか」
食べ終わって時計を見ると、昼休み終わりまで残り10分だった。
「そうだね〜。戻ろうか〜」
「わかった」
弁当を片付けて、優來と青空さんと一緒に中庭の外へ出る。青空さんは、食後だからか眠そうだ。もちろんのこと、優來もだ。
「優來、授業は楽しいか?」
「普通。可もなく不可もなく」
「まあ、そんなもんだな。勉強に詰まったら、俺に言えよ教えられる範囲なら教えるから」
とりあえずで、優來の頭を優しく撫でる。
「え〜?それじゃあ、僕が教えてもらおうかな〜。保健体育」
「あ、ごめん俺保健体育は、体質的にできなくて」
「嘘だ〜。男子は保健体育の点がいいって、聞いたぞ〜」
「それは偶然でしょ」
保健体育の点が高いのは、やる内容の問題だろう。そして、それは偶然と言える。そう!言えるんだ。
「と、とりあえず言えよな」
「わかった」
「あ、優來ちゃん!」
優來に困った時は言えよ、と教えていたら優來の名前がそこそこ離れた位置から呼ばれた。それを聞いて優來は、「じゃ」とだけ言ってその人の所へ小走りで行ってしまった。
「それじゃあ〜僕たちも戻ろうか〜」
「そうだね〜。クラスは違うけど〜」
「僕の真似だなんて、ゆうくんは僕のこと好きすぎたよ〜」
「はは……」
優來を見送って、俺と青空さんは後ろから飛びつかれて抱きつかれたり、何故かほっぺをツンツンされながら、それぞれの教室へ戻った。