120 結果的に
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「すみません。遅れました」
「梶谷さん、今までどこに」
初愛佳さんと教室に戻ると、先生が俺と初愛佳さんに怒っていて、軽く注意を食らった。とは言っても、先生も初愛佳さんのことを理解してくれているのか、そこまで怒られなく、なんなら小声で感謝を言われた。
「というか、それ」
「それ?」
注意後、先生がそれと言ったものがわからず聞き返すと、先生はわざとらしく「コホン」と言って俺と初愛佳さんの真ん中の方を指さした。
「「あ」」
俺と初愛佳さんは、さっきのまま恋人繋ぎをしていて、教室の皆に見られてる中今になって手を離した。
「2人がいない間に席替えしちゃったので、早く席に着いてください」
先生に「どうぞ」と言われて、全員の席が書かれた髪が渡された。
えっと俺の席は……
「あ。う、初愛佳さん……」
席替え後の席を見て驚いた。なんせ、俺と初愛佳さんの席は……
「ほら、見つけたなら早く座って」
「あ、はい」
先生に急かされて、席替え後の俺の席へ向かう。
「優くん。またよろしくお願いします」
「よろしく刈谷さん」
席替え後の俺の席は、去年と変わらずクラスの左端で刈谷さんの隣。かく言う初愛佳さんはと言うと。
「初愛佳さん。先程はすみませんでした。これからよろしくお願いしますね」
「おう」
クラスの右上、初愛佳さんの前に座る二月さんが、微妙に不貞腐れた顔をする初愛佳さんに握手を求め、初愛佳さんと握手を交わす。
そう、壊滅的に運がなかった。そばで守るとか言っておいて、俺が引き当てたのは初愛佳さんから最も離れた位置とも言える席。
「優くんどうかしましたか?」
「気にしないで。俺の運の無さに嫌気がさしてるだけだから」
まだ、2個先とかなら分かるけど、あんなこと言ってすぐにこうなるか?普通。そう考えただけでも、ため息が出る。
「そんな深いため息して、ほんとに大丈夫ですか?もし良かったら私、優くんの気晴らし手伝いますよ」
「嫌な予感するからパスで」
「何もしないですよ」
そう言いつつも、フフっと怪しい笑いをする刈谷さんだった。
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「それじゃあ、始業式始まるので体育館シューズ持って、移動するように」
軽い自己紹介の後、時計を見た先生がクラスに静かに移動するように指示を出した。
「優、お前もヤンキーの道を歩き始めたか?」
皆が廊下に並び始める中、夜梨がわざわざ俺をイジりにやってきた。
「なわけないでしょ」
「知ってるって。俺らもそこそこ運がないよな。まさか、あの初愛佳さんと同じクラスになるとは」
「それは言い過ぎだろ」
「それは、そうかもだけど。普通怖くね」
やはり夜梨にもあの謎のオーラが見えているらしく、「怖くね」と言ったあと寒気が走ったか身震いをしている。
「そうか?」
「お前は鈍感だなー。ま、恋人繋ぎしてたしわからんか」
「それに触れるなよ!」
さっきの恋人繋ぎについて触れた夜梨に起こると、「スマン、スマン」と悪びれる感じはなくそそくさと列の方へ逃げられた。
全く夜梨にも困ったものだ。恋人繋ぎして、教室に来たのは俺なんだけど。
「梶谷様はあまり素行がよろしくないのですね」
「なぜ?」
始業式も終わって、帰りのHRまでの休憩時間。俺の席にやってきた二月さんが、言いにくそうに告げた。
「いえ、授業を少しでもサボるとは、わたくしには考えられない事だったので」
さすがお嬢様。ルールはきちっと守ると言ったとこか。
「いや、今回は特殊だから。いつもは、普通だからね」
「そうだね〜。ゆうくんは真面目だね〜。この、僕の美貌の猛攻にも耐えるんだから」
「おう、青空さん」
二月さんにさっきの弁明を行っていたら、どこからともなくやってきた青空さんに後ろから抱きつかれた。
「そうなのですか?」
「そうだよ〜。このゆうくんの第1婦人たる僕が保証するよ〜」
「それだと、俺が他に婦人持ってることになるんだけど」
「そうだね〜。ゆうくんは、僕に一途だもんね〜」
俺に抱きついてる青空さんは、ありもしない事実をつらつらと並べていく。
「梶谷様、私というものがありながら……」
「優くん、私に言ってくれたあの言葉は嘘なんだったんですか?」
「青空さんとは違うからね!?てか、あの言葉ってなに?」
二月さんは、多分ガチだとして、刈谷さんのは明らか悪ノリだな。
「酷いな〜。僕とゆうくんの僕の中じゃないか〜。僕は悲しいよ〜」
オロオロとわざとらしい演技で、なくフリをする青空さん。
「青空いた。あんた、急に消えないでよ」
「ああ、由乃ちゃんごめんね〜。ゆうくんが見えたから」
「ほら。早く戻るわよ。休憩時間終わるから」
青空さんを見つけた由乃は、教室に入ってきて俺に抱きつく青空さんを、引き剥がそうとしている。
「え〜。僕の教室はここだよ〜」
「何言ってんの。ほら」
「あ〜、ゆうくん僕と君との関係は永遠だよ〜」
「じゃあな由乃」
青空さんを引き剥がした由乃は、俺と会話することなく青空さんを引きずって、由乃の教室へ帰って行った。
「梶谷様は、恵まれてるのですね。その姫君の方々に」
「ははは……」
てっきり二月さんは俺の事を調べ尽くしてたらしいから、俺の周りの女性達も徹底してるのかと思ってたけど、そうじゃなかったぽいな。
「はい皆座って。帰りのHRしちゃうから」
「それでは、梶谷様。わたくしのこと、忘れないでください、ね」
青空さんのを見て触発されたのか、顔を赤くしながらそんなことを言う二月さんだった。
「それじゃあまた。明日は入学式で休みなので、間違って学校に来ないように」
そうか何気に明日は、優來の大事な入学式の日か。いやー、感慨深い。
「初愛佳さん。帰りましょうか」
「お、おう」
「じゃあね二月さん」
「はい。梶谷様また」
HRが終わってすぐに初愛佳さんの席へ行って、初愛佳さんを誘う。その過程で二月さんにも、挨拶をして俺と初愛佳さんは、教室を後にした。
「初愛佳さんすみません」
「何がだよ」
「いや、傍で守るとか言っておいて、あんなことになってしまって」
「べ、別にいいって」
帰る道を歩くなか、初愛佳さんへさっきのことを謝ると、気恥しそうに頬を掻きながら「いい」と言われた。
「でも――」
「とりあえずいいんだよ。俺は嬉しかったし……」
「何か言いました?」
「な、なんでもねぇよ!」
初愛佳さんはそう言うけど、やはりカッコつけたのにああなるとめちゃくちゃダサくて、そこが引っかかるんだよな。
「まあ。とりあえず、初愛佳さん明後日から授業ですけど、サボらないでくださいよ」
「サボらねぇよ、守ってくれんだろ」
「可能な限り」
良かった、初愛佳さんがサボらないって言ってくれて。俺のあの言葉も少しは効果みたいだ。
「な、なあ優」
「どうかしましたか?」
できる限り初愛佳さんを守ることを誓ってすぐ、初愛佳さんが恥ずかしそうにして、俺に話しかけてきた。
「今日、午前終わりだしよ今から何か食いにいねぇか?」
「デートですか」
「デ……」
「いいですよ。行きましょうか。何にしますか?」
恥ずかしそうな初愛佳さんを軽くからかいつつ、俺と初愛佳さんは、適当なファミレスへよってご飯を食べた。