12 隣のクラスのヤンキー初愛佳さんは俺をパシってくる
午前の授業終了を知らせる、チャイムが学校中に響き渡る。
それと同時に、クラスの人がぼちぼち弁当箱を出したり、財布を持って購買に行ったり行動を始める。
「梶谷優、居るか!」
それとほぼ同タイミングで、教室の前の入口にたち俺の名前を大声で呼ぶ女子が1人。
「優くん、呼ばれてますよ」
刈谷さんに言われてから、急いでバックから弁当を取りだしす。
彼女の呼びかけに応じて、その人の元へ向かう。その途中何人かに大丈夫?とか、そんな感じの他人事かのような言葉をかけられた。
「たく、おせーな」
「すみません、初愛佳さん」
「まあ、いいや一緒に来いよ」
もろヤンキーみたいなプリンになっている長い金髪に高い身長、そして誰も寄せつけないような、鋭い眼光と怖めの声。彼女、初愛佳さんは俗に言うヤンキーだ。
「とゆうか、今日は来るの早いですね」
「まあな、授業サボったし」
初愛佳さんは、校内でも有名なヤンキーで、高校に入ってから他校の生徒との暴力沙汰や教師への暴行など、本当か?と思うような噂をよく聞く。
「とりあえず優、なんか購買で買ってこいよパン5個ぐらい」
いつも通りの、人通りゼロのおどりばに座った初愛佳さんが、いつも通り俺に命令を出す。俺は初愛佳さんとたまに、この人の通らないところでお昼を食べている。
「はい…ところでお金は…」
「たくなんだよ、後で払うっていつも言ってんだろ」
「そうでしたね、それでは」
俺が初愛佳さんとお昼を食べる時は、毎回俺が購買にパンを買いに行って、それを初愛佳さんに渡すことになっている。
「初愛佳さんはたしか、メロンパンとアップルパイが好きだから…」
最初は好きな物を持っていけず軽く不機嫌になられていたけれど、最近はこれ際持ってけば大丈夫だとわかったから、メロンパンとアップルパイ以外は、結構適当に選んでも大丈夫だと学んできている。
「おばちゃんこれください」
「はいはい合計…」
うちの学校は意外なことに、購買のパンはめちゃ激戦になることはなく、結構時間に余裕を持ってパンを購入出来る。
「いやー、不人気な購買は楽でいいなーちょっと失礼だけど。てか、牛乳忘れてた」
初愛佳さんは、パンと牛乳をセットで飲み食いしてるため牛乳は絶対マストだった。
「優、遅かったな」
「すみません、牛乳買い忘れてて」
「ま、いいけど。ご褒美によ、よしよししてやろうか」
今までの雰囲気が崩れて、唐突に甘くなり、そして軽く顔を赤く染める初愛佳さん。
「別にいいですよ」
「い、いいじゃねえかよ、俺がやってやるって言ってんだから。それとも、やなのかよ…」
「そういう訳じゃないですけど」
「じゃ、いいよな。そ、それじゃあ行くぞ」
恐る恐ると言った感じで、手を軽く震わせながら俺の頭に手を伸ばす初愛佳さん。
俺の頭の上に手が置かれると、優しく髪を崩れないぐらいの力で撫でられる。
「う、嬉しいか?」
「まあまあですね」
「そこは、嬉しいって言えよ」
「というか、パンを早く置きたいんですけど」
パン5個に牛乳パック1つは、俺の持てる限界に近いから、このままだとゆっくり置くじゃなくて、普通に落下させかねない。
「そ、そうだったな、ごめんごめん」
「ところで、お金は…」
「なんだよ、雰囲気壊して、金金うるせえな。じゃあレシート見せろよ」
これに関しては、俺も催促しすぎたなとは思うけど忘れないうちにやっとかないとだし。
「えーっとこれに、牛乳プラスで…よしわかったちょっと待てよ」
そう言ってポッケから財布を取りだして、俺が出した値段分きっちり渡してくれる初愛佳さん。
「いやー、いつもごめんな」
「なんで、いつも俺をパシるんですか?」
「前にも言っただろ、俺が行くと皆怖がるんだよ」
まあ、確かにあの噂があると恐れおののくのも無理はないか。
「だから、いつもお前に頼んでんだよ。だからほら」
そう言って初愛佳さんが俺に好きなはずのメロンパンが俺に投げられた。
「これは?」
「その、いつものお礼だよ。俺に噂関係なく接してくれるし、あとパシってる分」
「噂って言ったって、初愛佳さんそんなことする人じゃないでしょ」
なんで人を撫でるだけで、緊張するような純情ガールが、あんな噂みたいなことするようには思えない。
「そ、そうか?そんな、おだてたってアップルパイはやんないぞ」
とゆうか、この気に入った相手に好物上げるの、動物の仲間の印みたいだな。それなら、俺も一応やっておくか。
「貰ってばっかだと悪いですし、俺も弁当から何かおかずあげますよ」
「いや、いいって。俺が一方的にやってるだけだし」
「まあまあ、俺がいいって言ってるんですし」
さっきの仕返しとは言わは無いけど、近いことを言って初愛佳さんを黙らせる。
「お前が言うなら…でも、俺箸ないぞ」
「あ…俺の使いますか?口つけちゃいましたけど」
俺の弁当の中身は、手で触ると汚れるようなものが多いから箸は必須だろうし。
「優の箸!?」
「いや、嫌ならどっかで割り箸でも貰ってきますけど…」
「いや、子供じゃないんだしだ、大丈夫だろ」
そう言って俺の手に持っている箸を持っていき、初愛佳さんが俺の弁当からおかずを選び始めた。
「そ、それじゃあ使うからな」
「初愛佳さんが嫌じゃなければ」
俺の弁当から唐揚げを選んだ初愛佳さんが、口に唐揚げを放り込む。俺の箸を使う初愛佳さんの頬は少し赤く染っている。
「お、美味しいぞ優のはし…じゃなくて唐揚げ」
やっぱこういうのは苦手みたいで、恥ずかしすぎて変なこと言い始めている。
まあ、ここまで来ればわかるだろうけど初愛佳さんは、ヤンキー風だけどそこまでのヤンキーじゃないさくて、なんなら優しい人だ。
皆は見た目と噂から1歩引いてるけど、俺は見た目は少し怖いかもだけど、接してみると結構普通の女の子感は感じてる。
「て言ってもやっぱ、噂をどうにかしないとなー」
俺と間接キスをしてから、落ち着きを取り戻した初愛佳さんが突然噂の話をし始めた。
「あれですか、他校の生徒ボコボコにしたとか、先生殴ったとか。にしても唐突ですね」
「まあ、優にずっとパン買いに行かれるのも申し訳ねえからな。どうにかしないと、つっても他校の奴ボコボコにしたのは本当なんだけどな」
笑って、笑い話みたいにしてるけど、全く笑えない話しすぎる。
初愛佳さんのボコボコにしたと言う話は、入学してからすぐに出てきた話で、他校の生徒に喧嘩を売られた初愛佳さんが、1人で3人をボコボコにして出席停止を貰ったという話だった。
「あれ?先生とかのやつは違うんですか?」
「そっちは嘘だ。お前は俺をバーサーカーかなんかだと思ってんのか?」
「いや、別にそういう訳じゃ…」
でも、入学早々あんな事起こしてたらこんなでっち上げられるのも仕方ないのか。
「それじゃあ、俺教室戻るので。初愛佳さんもいろいろ頑張ってくださいね」
「おう、優はしっかり授業受けろよ」
「それ、初愛佳さんのほうじゃ…」
「俺はいいんだよ」
てゆうか、初愛佳さん授業結構サボってるっぽいけど進級できるのかな。来年から、後輩ヤンキーなんてことにならないといいけど。
「優くんおかえりなさい」
「刈谷さんなにしてんの…」
教室の自分の席に戻ると、何故か刈谷さんが俺の席に座っていた。
「優くんにお昼食べれないって、言われちゃいましたから。せめて、それに近いことでもしようかと思って」
「俺、刈谷さんに誘われてすらないんだけど…」
てか、なんでお昼を一緒に食べるの近い事が、俺の席で食べるに発展するんだ。
「そんなことより、優くん大丈夫ですか?殴られたりとかは…」
「されてないよ」
やっぱり他の人達には、俺が初愛佳さんにカツアゲとかそこら辺をやられてるように見えてんのか。
「もし殴なれてるなら、私簡単な治療してあげますよ」
「刈谷さんは治療とか別の目的でしょ絶対」
「なんのことやら。でも私、悲しいんです」
「どゆこと?」
「好きな人が大変なかもしれない状況なのに、自分が動けないことが。やっぱり人間全員、自分が1番可愛いんだなって」
なんか刈谷さんが、珍しくまともそうなことを言ってる。でも、確かに言われてみればそうかも、周りの人達も、俺が殴られてないか聞くだけだし。
まあ、友好関係普通くらいの人にそこまで求めてる訳じゃないけど。
「でも、ほんとに大丈夫だから。初愛佳さん噂とかの割に結構いい人だし」
「ほんとですか?脅されたりとか」
「ほんとだから、話せばわかるって」
実際初愛佳さんと誰も話さないから、あの話が消えないんだろうし。
「そうですか、まあ優くんが言うのなら今度機会があった時話してみます」
こういう時、刈谷さんは無駄に聞き分けがいいから助かるな。いつもこうであってくれると嬉しいんだけど。