119 なんやかんや新学期
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満開の桜が並ぶ中、校門をくぐる。今日は新学期だと言うのにあまり実感はなく、感覚はいつもどおりの登校と差は無い。
たしか、春休み前の先生によれば、新クラスはどこかしらにデカデカと張り出されているとの事。
「あったあった」
俺が歩いて見つけたのは、合格発表の掲示板のような立て看板。
「梶谷、梶谷……あった」
右から左へ俺の名前を探して、見つけた俺の名前。一応同じクラスの人は……
「なるほど」
「優くんおはようございます」
「おはよう刈谷さん」
新たな俺のクラスについてから、自分の席に着くと俺の後ろには刈谷さんがいる。
「また同じクラスとは、運命的ですね」
「運命とまでは言わなくとも、そこそこいいんじゃない?」
まだ同じクラス2回連続は有り得ることだし。3回連続となると、そこそこ運命寄りでいいと思う。
「そうですか?私は、結構すごいと思いますけどね」
「そうかな」
「そうです」
そうニコッと笑ってから、刈谷さんは立ち上がって、「友達がいるので」とセリフを残して、その友達の方へ歩いて行った。
♦
「まあ、皆さん知ってると思いますけど、私は国語の担当です」
俺たちの新担任の先生が、自己紹介をしている。この先生は、担任としてはアタリだと思う。優しいし、話しかけやすい。それに真面目だ。
「それじゃあ先生の自己紹介もしたとこで、1つ皆さんに――」
「いやー!すんません」
先生が元気よく手を叩いて、話を区切ったタイミングで、教室の扉が勢いよく開いた。
それと共に出てきた人を見たからか、クラス中の空気感が一気に重苦しくなったような気がする。
「初愛佳さん、ようやく来ましたか」
「さーせん。ちょっと、準備に時間かかっちゃって」
「まあいいです。次は気をつけてくださいね」
先生にそう言われ、軽くペコペコと謝りながら初愛佳さんは、席を確認してから俺の隣の席に座った。
にしても先生、珍しく初愛佳さんに物怖じしてない人だ。
「優、同じクラスだな」
「これからよろしくお願いします。あと、ちゃんと授業受けてくださいね」
「まあ、頑張るよ」
そう言う初愛佳さんは、俺から目を逸らしてそう答えた。もしや、やる気ないな
「えっと、いいですか」
「あ、はい」
「それじゃあ、気を取り直して。皆さんに朗報があります」
初愛佳さんが来たことによって、静まり返っていたクラスが朗報と聞いて、一気にうるさくなった。先生の言った朗報が何かわからないけれど、みんな口口に「先生、結婚?」と言っている。
「えっと、私の結婚ではなないんですけど。新学期早々、転校生が2人居ます」
先生がそう言うと、さらにクラスがうるさくなり、主に男子が「女子?女子?」と何度も言っている。
「それは、お楽しみということで。さ、入ってきて」
先生が廊下に向かって、声を出すと前の扉がゆっくりと開いて2人のじょ……し。
「二月さん!?……失礼」
転校生として入ってきた1人の女子は、まさかのまさか二月さんだった。
二月さんに驚いて出た俺の大声に、みんなが俺の方に視線をむける。そんな中、二月さんは静かに俺へ手を振っている。
「ま、まあとりあえず自己紹介してもらっていいかかな。じゃあまず、二月さんから」
「はい。わたくし、二月と申します。以後お見知りおきを」
「はい!どこから来たの?」
質問タイムに入っていないというのに、どこかの男子が元気よく、二月さんへ質問を投げた。
「ここからそこまで遠くないところですね。一応以前の高校は、黒女でした」
二月さんが前の高校のことを言うと、クラスは一旦静まり返り今度は、「やばくね」的な感じでうるさいとまでは行かなくとも、ざわつき始めた。
そりゃ黒女だもんな、ちゃんと考えてみると、凄いんだった。俺の知ってる黒女生が、変なのしかいないからバグってた。
「質問は後にしてねー。それじゃあ……」
♦
2人の転校生の周りに人が集中している。そんな空気を無視して二月さんは、席から立ち俺の方へやってきた。
「おはようございます、梶谷様。少しぶりですね」
「そうだね。わざわざ俺と同じ学校に来るとは思ってなかったけど」
まさかのまさか、黒女をやめてまで俺と同じ高校に来るとは。
「そこは、愛ゆえですから」
「あ、愛!?」
二月さんが愛ゆえなんて言ったら、横で話を聞いていた初愛佳さんが、顔を赤くして反応を示した。
「どうかいたしましたか?」
横で急に声を荒らげた初愛佳さんに、二月さんが心配の声をかける。
「な、なんでもねぇよ」
「でも、なにやらお顔が火照っておりますけど」
「だから、なんでもねぇって!」
二月さんに顔のことを指摘されると、周りが萎縮するぐらいの大声で初愛佳さんが、二月さんにキレた。
「ま、まあまあ初愛佳さん落ち着いて。二月さんも、あんまし触れないであげなよ」
初愛佳さん自身、そう言うのが弱いのわわかってるから、毎度俺にそういうことをする時も触れるなって言ってるし。
「す、スマン。ちょっと、俺自販機の方行ってくる」
「あ、初愛佳さん」
唐突に大声を出した初愛佳さんが、周りからは噂もあって言いようには見えなかったみたいで、初愛佳さんに対して恐怖とともに二月さんに対する同情の目が向けられた。
実際同情の目は本物みたいで、「転校早々怖かったよね」などと、二月さんの周りに同情の声をかける人達が集まってきた。
初愛佳さんはそんな空気を見かねて、一旦教室を後にしたんだろう。
「刈谷さん、俺も自販機の方行くから、先生になにか聞かれたら適当に言っといて」
もうちょいでHRが始まるというのに、俺は初愛佳さんをおって急いで教室を出た。
「あ!初愛佳さん居た!」
「ゆ、優……」
初愛佳さんを追って教室を出たはいいけど、言っていた自販機のとこにはおらず、見つけるのに少し手間を食った。
「初愛佳さん、もうHRですぐ始業式なんですから、早く戻りますよ」
「いいよ。始業式の時、呼んでくれ」
「そう言われましても」
見つけた初愛佳さんは、ため息をつきながらスマホをいじっていて、涙目っぽくなっていた。
「別にさっきのやつは、初愛佳さん悪くないじゃないですか。確かに初愛佳さんは、大声出しましたけど」
初愛佳さんはほんとに大声を出しただけで、怖がられるようなことは何もしていない。
「それだけでも、ああなるから去年サボっててたんだよ」
「気にすることないですよ。実際、俺は気にしないですし。あと、刈谷さんも」
それで言うと、二月さんも驚いてはいたけど、怖がってる感じはなかったな。
「でも、嫌だろ。俺の様子うかがいながら、生活するの」
「めんどうだな。ほら、行きますよ」
「お、おい優」
このまま話してても埒が明かないと思って、無理やり初愛佳さんの手を取って、初愛佳さんを立ち上がらせる。
「先生も心配すると思うので」
「ゆ、優。その、手が……」
頬を赤くした初愛佳さんが、恥ずかしそうに手について触れる。
「手がどうかしましたか?」
初愛佳さんの指摘した、現在恋人繋ぎをしている手をわざとらしく強く握る。
俺が初愛佳さんの手を握ると、初愛佳さんから悶えるような弱々しい声が出てきた。
「わ、わざとだろお前!」
そう言う初愛佳さんは、俺の手を振りほどこうとするけれど、この状態の初愛佳さんは力が弱くなっているのか、俺の力でも簡単に対抗出来る。
「さー、行きましょう」
「み、みんな怖がるだろ。辞めろよ」
「だから、気にする必要ないですって。俺がずっと傍で守りますから」
「ず、ずっと!?」
俺の言った事にさらに顔を赤くする初愛佳さん。
この場合、初愛佳さんを守るというか、噂の改善を手伝う的な感じの方が妥当だったかもしれない。いや、それをすれば守るの内にはいるのか。
「あ、でもずっとは――」
「……く」
「え?」
「だから、教室に行くって言ってんだよ。だから、しっかり守ってくれよ」
「……はい。初愛佳さんのナイトとして、精一杯」
「だ、だからぁ……」
少し言葉は違ったかもだけど、今年の目標は決まったな。今年は、最低でもクラス内だけでもいいから、初愛佳さんの悪評をどうにかしよう。