117 お嬢様とストーカー少女
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「「ごちそうさまでした」」
お互いが作った、オムレツを完食してから、手を合わせて食事を終了。
二月さんの作った、オムレツはやはり味付けはしっかりしていて、見た目は少し崩れているけれど、しっかり食べれるものだった。
「さて、皿でも洗うか」
使ったコップと皿を持って、シンクの方へ運ぶ。皿洗いするか、とは言ったけどこの家には食洗機が備え付けられてるのもあって、洗うって言ったってそこまで手間はかからない。
「あの、二月さん」
「どうかしましたか?」
皿達を食洗機に入れてから、お茶を入れ直して、席に戻った。席に戻ってから、二月さんに聞きたいことを聞くことにした。
「俺って、いつ帰れるの?」
二月さんは最初、数日と言っていた。それに、そろそろ母さん達も旅行から帰る頃な気がするし、俺が帰るなら今日ぐらいがちょうどいいと思う。
「そうですね、予定だとお母様方も、今日ご帰宅なさる予定ですし」
「じゃあ、もしかして俺、今日帰れるってこと?」
「当初はそのつもりだったんですけど」
ああ、やっとこのデジタルデトックスから開放され……ん?当初?
「やっぱり、梶谷様と暮らしていて、手離したくないと思ってしまったんです」
そう言いながら、恍惚そうな顔で俺を見る二月さんは、服の内側に手を入れて、黄色が八割を占めるライトのような形状の物を取り出した。
「えっと、二月さん、それは一体……」
二月さんが取りだした見たことあるようなないようなものを、指さして何かを問い質す。
「何、と言ったって、ただのスタンガンですよ」
笑顔でそう言い放った二月さんが、スタンガンのボタンを押すと、スタンガン上部の電極から電極へ青色の線がバチバチと音を立てて走った
「え、えっとそれで一体何を……」
「何をするって、わたくしと梶谷様との新婚生活準備ですよ」
「危な!」
机の上に身を乗り出した二月さんは、スタンガンのスイッチを押しながら、俺へスタンガンを突き出してきた。
そんな二月さんの攻撃を間一髪で避けた俺は、急いで席から離れて、二月さんと距離を置く。
「ちょ、ちょっと待って話せばわかる」
「梶谷様、お話をするならお互いが静かに座らないと」
そう言いながらも、バチバチと音を立てながら、にじりよってくる二月さん。
「そう言うならそのバチバチ音たてないでよ」
「これは、わたくしたちの未来に必要なものですから」
なんだよ、俺たちの未来って。この調子だと、ただの軟禁生活だって。
「安心してください。わたくし達の未来は、こんな家じゃなくて、もっといいところに住む予定なので。内見だってしてるんですよ、ほら」
二月さんがスタンガン片手に見せた物には、よくある家の情報の書かれた不動産にありそうな紙。そこまで良くは見えないけど、紙に乗ってる家の写真はとりあえずでかい。
「いやぁ、それでもまだ1人立ちするには早いしー」
とりあえずだ、まず話を円滑にするためにあのスタンガンをどうにか取り上げないと。
「心配要らないですよ。そこのとこは、わたくしの家の方からバックアップは行うつもりですから」
「いやぁ、それでもなぁ」
まずいまずい、俺が話を引き伸ばしてる間も二月さんは近寄ってきてる。何かで、二月さんの気をそらせればいいんだけど。
「梶谷様は、何人子供が欲しいですか?わたくしは、梶谷様が望むなら何人でもいいですよ」
持っていた紙などどこかへ投げ、お腹の下の方をさすり始める二月さん。
俺は、急いで周囲を見渡して何かないか、死ぬ気で探す。今必要なのは、二月さんのみを拘束するものか、視界を閉じて隙を作れる何か……
なるほど、これがあったか。
「さあ梶谷様、一緒になりましょ――」
「よいしょ」
「か、梶谷様一体何を!?」
にじりよってくる二月さんの目の前で、着ていた上の服を脱ぎ上裸になる。案の定二月さんは、そこそこ初々しいので、顔を手で覆って自ら視界を塞いでくれた。
「ちょうど、いいものが見つかってよかった」
これがあれば、使い方によっては二月さんを拘束したり、視界を塞いだりできる。布は人類の叡智だな。
「そんな、急にお召し物をお脱ぎになるだなんて。もしや、わたくしと愛をはぐくむ準備が」
「違うよ。これは、こう使うの」
二月さんに隙があるうちに、決死の覚悟で二月さんに近寄る。急な俺の行動にも反応して、スタンガンを突き出した二月さんだったけれど、俺はギリで避けて二月さんの後ろに回って俺の上の服を覆いかぶせた。
「あの、わたくし梶谷様の匂いしかしないのですが」
「ごめん」
「痛ぁ!」
二月さんには悪いと思いつつも、スタンガンを持つ手を変な方向に曲げて、スタンガンを地面に落下させた。
素人知識極めた行動だけど、二月さんの腕変なことになってないよね。
「あぁわたくしのスタンガンが……」
「よ、よし。とりあえず、なんとかなった」
「ところで梶谷様、これからわたくしどうなるのでしょうか。もしや、わたくしに立場をわからせるために、あんなことやこんなこと――」
「しないよ!」
俺に軽く拘束されているというのに、なにか妄想をして身をよじらせる二月さん。
このお嬢様は、今の状況がわかってんのか?長期的に見て、危ないのは俺かもしれないけど、今は俺の方が優位に立っているというのに。
「まあいいや。なにか縛れるものは……」
「わたくしを縛るんですか?」
「うん。そうだけど、何もしないからね」
ただ、俺とまともな話をさせるために縛るのであって、決してそういう欲求を満たすついででは無い。
「えぇーやらないんですか?」
「やんないよ。どこか紐あったかな」
紐を見つけても、次は二月さんをどう縛るかだな。あと、メイドさん呼ばれても困るし。課題は山積みだ。
「ここら辺に――まず」
二月さん片手に紐を探して、棚を漁っていたら棚の上に置いてあった、ペンやらカッターやらがガタガタと大きな音を立てて落下した。
「まずいな」
さっきの大声もあったし、メイドさんが来るか、玄関の方を見る。案の定、音に反応したのか玄関が開く音が聞こえた。
とりあえず、どこか隠れないと。自分の部屋(仮)でいいか。
一体紐探しは諦めて、急いで自室に駆け込む。途中二月さんが口を開こうとしたため、手で二月さんの口を塞いで黙らせておいた。
「静かにしてよ」
「わははっへへへすほ」
ほんとにわかってんのかな。まあ、声出した方が二月さん有利なんだけど。
「ここの部屋かな」
部屋に入ってきたであろう人の声が、俺の部屋の前にまで来た。とは言っても、前回のメイドさんとは違う人なのか、声が違う。
「失礼しまーす。梶谷くん、いるなら返事してー」
ああ、なるほど。わざわざ来てくれたのか。
ここに来たのかメイドさんでは無いとわかって、ニヤけが出ている気がする中、立ち上がって呼び掛けに答えた。
「ありがとう忍さん。来てくれたんだね」
「梶谷くんよかった。てぇ!なんで上裸なの!?」
「あ、忘れてた」
俺の服は未だに二月さんに被せてるから、俺は上裸なままだった。
「まあまあ、とりあえず。先に拘束するの手伝ってよ」
「こ、拘束!?」
「ちょっと、静かに」
俺が拘束と口から出すと、忍さんは顔を赤くしてそこそこの大声を出した。
「ごめんごめん。で、でも拘束だなんてそんな。梶谷くんにそんなに趣味があったなんて」
お、なんか嫌な予感がするぞ。
「ま、まあ梶谷くんが言うならやぶさかでもないけど……」
「いや、忍さん――」
「でも、縛ってその子を襲うなら、まず私からして欲しいなー、なんて。横で、好きな人の初めては――」
「忍さん!」
「は、はい」
いつものムッツリ妄想を繰り広げる忍さんを、危険と知りながらも大声で静止をかけると、びっくりした顔で妄想を止めてくれた。
「違うから。ただの拘束で何もしないから」
拘束にノーマルとかアブノーマルがあるのかは、知らないけど。俺がしたいのは、ただの拘束だ。
「わたくしは、少し複雑ですが2人でもいいですよ」
「拗れるから、二月さんはだまってて。もう」
この2人ムッツリ的な面が、似てるっちゃ似てるから、相性がいいんだ。
「とりあえずそこの棚に紐あったと思うから、持ってきてもらっていいかな」
「う、うん」
忍さん助力の元、二月さんを拘束する。ついでだし、忍さんにも聞くこと聞けたら聞くか。