116 お嬢様と朝食の時間
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軽度の軟禁が始まってから2回寝た。つまりは、おそらく2日たったということ。その間、やはりスマホはなく基本的に二月さんと、本気のおままごとをして、過ごしていた。
そして今は擬似俺の部屋で、ちょうど起きたぐらいだ。時間はわかんないけど、体感朝だと思う。
にしても、二月さんと俺がもと同じ幼稚園だったとは。二月さんの説明にあったような、子がいたか覚えてないな。そもそも、幼稚園時代を覚えてないってのもあるけど。
まあ、それはさておき――
「ねえ、二月さん」
「ん?ああ……梶谷様、おはようございます」
俺の横で寝ていた二月さんに声をかけると、直ぐに起きた二月さんが、寝起きの甘い声で挨拶をしてきた。
「昨日も一昨日も聞いたけど、なんで俺の横で寝てるの?二月さん自分の部屋あるよね」
何故か二月さんは、2日連続寝る時自室に入ってから、どこかのタイミングで、わざわざ俺のところに来て、同衾するという謎行動をしている。
最初は少し驚いたけど(日々の鍛練あって、そこまで驚かなかった)、今となってはまじで疑問しか浮かばない。
「夫婦は一緒の寝具でねるのが、普通と聞いたので」
「それなら、最初から同衾しようよ」
「いえ、さすがにそれはわたくしの心臓がもたないので」
俺の布団の中で、頬を赤く染めて理由を話す二月さん。
正直、同衾する為だけに、わざわざ深夜に起きて俺の部屋に来る、理由がわからんけど。
「それなら、二月さんは慣れないとね」
「そんな、梶谷様まだ初夜には早いですよ」
初夜とは言ってないのに、俺と二月さん自身の初夜を思い浮かべたのか、赤くした頬を両手で挟んだ。
「なわけないでしょ。まあ、いいやほら起きて朝ごはん作るよ」
「はい。またご教授、よろしくお願いします」
あまりベッドから出たくはなかったけど、このまま二月さんと話してても、話に発展がない気がして朝ごはんを作るためにベッドから出た。
この家に来てから、毎食俺と二月さんが協力して、ご飯を作っている。料理の作り方については、スマホが使えないため、買い出しの時に料理本を買ってもらって、それを元に作成している。
「さて、今日は何を作るか」
朝食の料理本を開き、冷蔵庫内の食材と相談しつつ、何を作るか模索する。
一応、二月さんにも意見を聞くけど、まともな答えは帰って来ないため(難易度高い料理を言われる)、ほぼ俺の独断で確定する。
「よし、これにしよう」
「どれですか?」
本から料理を決めると、二月さんが俺の肩からひょこっと頭を出すので、指をさしてどれにしたか教える。
俺な今日朝食として作ることにした料理は、ふわふわオムレツと味噌汁。
「オムレツですね。それなら、お互いがお互いのために作りませんか?」
「いいけど、二月さんできる?」
ここ2日で二月さんの料理スキルは、多少なり上がったといえども、卵という繊細な素材を上手く扱えるとは思えない。
「梶谷様、わたくしを侮りすぎです」
「そう。じゃあ、頑張って。一応、俺から作るけど」
そこそこな大口叩いてるけど、俺は俺でそこまで綺麗なオムレツが作れる自信ないんだよな。
「じゃあ、しっかり見といてよ」
「はい」
IHコンロの前に立って、綺麗に割れた卵2つを溶く。卵を溶いたあと、フライパンを熱して、いい感じの温かさになったら、固形バターを投げ入れる。
「えっと……」
バターが熔けてから、溶いた卵を投入、本に書いてあるコツを元にゴムベラを使って卵を整形する。
「まあ、こんなものかな」
本の写真ほど、ハリのあるものにはできなかったけど、そこそこいい感じのオムレツを盛り付けられた思う。
「綺麗ですね」
俺のオムレツを見た二月さんは、拍手をして俺を称えてくれている。
「それじゃ、二月さんもやってみなよ」
「はい。見ていてくださいね」
フライパンの中の油をキッチンペーパーで拭き取り、立ち位置を二月さんと交換する。
「一応、火傷は気をつけてよ」
「梶谷様のを見てたので、大丈夫ですって」
そう意気揚々に卵を持った二月さんは、カンカンと2回卵をうちつけたあと、黄身の割れた卵をボウルの中に出した。
「どうせ混ぜるから大丈夫」と言ったあと、また卵を2回打ちつけたあと、卵を割るも出てきたのは黄身のわれた卵。
「失敗、ですか」
「ま、まあいいじゃん。それに、たまご初心者には、綺麗に割るのって難しいし」
「そ、そうなんですね。でも……」
さすがに悔しいのか、俺にギリ聞こえるぐらいのため息をついてから、卵を溶き始めた。
「えっと次は」
おぼつかないながらも、バターを溶かしたフライパンに卵を入れ、俺と同じようにゴムヘラを使って、卵を整形し始めた。
とは言っても、二月さんは料理初心者、静かに見守っていたら、整形段階で卵に穴が空いた。
二月さんは、穴が空いたのに同様したのか、手元の冷静さが消え、オムレツにどんどん穴が空いていく。
「あ、ああ……」
「二月さん、落ち着いて」
「か、梶谷様!?」
このままだと、二月さんがなにか起こしかねないと思って、二月さんを助けるために、二月さんの後ろ側から手を持ちサポートに入る。
今の卵は、穴が開きまくってるけど、ギリ、オムレツの形にはできそうなぐらいには、くっついてるからいい感じに丸めれば。
「はい、できた」
「あ、ありがとうございます。でも、梶谷様、急にバックハグは、わたくし驚いてしまいます」
「あ、ごめん」
緊張したような声の二月さんに指摘されて、二月さんの手からすぐに手を離す。
刈谷さんとかと同じ要領でやってたけど、二月さんは腐っても、恥じらいのある箱入りお嬢様だった。唐突な、バッグハグには耐性がないんだ。
「梶谷様はその、大胆ですね」
「大胆っていうか、二月さんの安全を考慮した上での行動なわけで」
「そうですか……」
俺が言い訳を述べると、その内容に落胆したからか、それともまた別の何かか、声が悲しい感じの声をしている。
ほんと、このお嬢様は……
「ま、まあとりあえず、オムレツ食べようか。お腹すいてきたし」
「その、梶谷様交換のお話なしにしませんか?」
オムレツの盛り付けられた皿を持って、食卓の方へ運ぼうとしたら、俯いている二月さんが俺の服の裾を掴んで、交換の話をなしにしないかと言ってきた。
「それまた、どうして?」
「いえ、わたくしの物は、とてもお粗末なものになってしまいましたし」
そういうことか。
「別に粗末でもいいよ。食べれれば変わらないだろうし」
「それでも……」
「ほんといいって。二月さんの作ったもの、俺が食べたいから」
そもそもの話、見た目だけなら味は俺のと遜色ないだろうし。さすがに、見た目はどうあれ初愛佳さんみたく、ダークマターのエグい味にはならないだろうし。
「そう、なんですか?」
「ほんとほんと。二月さんも、俺のやつ食べたくて言ったんでしょ?」
「そうですが」
「なら、需要と供給が満たされてるから、いいでしょ」
お互いの作った皿を、食卓へ置いて、台所に立っている二月さんの元へ戻る。
「はい。わかりました」
あまり二月さんが作った、オムレツを俺が食べるというのに、ちゃんとは納得はしてないっぽいけど、とりあえずは通った。
「そうそう、あと二月さんの作ったもの食べながらだと、結婚生活を思い浮かべやすいしね」
「っ!?」
どこかで聞いたような言葉を、投げかけると二月さんは顔を上げて、一気に顔を赤くした。
「と、というのは……」
「いや、そこまで深くはないんだけど、単純にね感覚的にそんな感じがするだけ」
「つまり、梶谷様はわたくしとの婚姻に前向きと?」
「そ、そういう訳じゃないかな……」
ご機嫌取り的な感じで、言ったもののそこそこ誇大解釈をされた気がする。
まあ、お嬢様も機嫌を取り戻してくれたみたいだし、気にすることでもないか。