110 甘えたがりシスターと幼馴染(リトライ)
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「よーし!それじゃあ」
グラスを片手に持った父さんが、大声でしきりグラスを天井にむけて高く上げる。
「優來、合格おめでとう!」
父さんに合わせて、俺と母さんもグラスを上げ、全員で乾杯と元気よく言う。
「か、乾杯」
「……ぱい」
それに続いて、優來と由乃も一緒に乾杯と言って、静かにグラスをあげる。
今日は、優來が2次募集を受けた結果合格したため、そのお祝いパーティーをしようということになった。
そして、何故かそれに由乃が呼ばれている。
「さ、ここからは好きに食べちゃって。由乃ちゃんも、遠慮せず」
「はい。でも、ほんとに私来てよかったんですか?」
「いいのいいの、由乃ちゃんにはいろいろ助けてもらったみたいだし」
優來のことに関して、俺が由乃をカウンセラーのように使っていた面はあるかもしれない。
「でも、私がやったの簡単なことだけですし」
まじで遠慮してるからか、由乃の笑顔はぎこちない感じになっている。
「ほんとに、いいのよ。なんにせよ、普段から優の世話見てくれてるし」
「それだと、俺が年齢低めの子供ってことになるんだけど」
俺は由乃と同い年で、しかも高校1年生だ。そんな、世話を見てくれてるって、言われるほど俺はだらしなくは無いはずだ。
「そうですか、それなら遠慮なく」
おい、俺の話を聞けよ。
「そうそう、気にせず気にせず。はい、どんどん食べちゃって」
そういった母さんは、由乃の皿の上にどんどんピザを積み上げていく。それを見て、由乃の顔はまた引きつった顔つきになった。
「優來も、どんどん食べてけよ。沢山食べて、大きくなろうな」
「身長止まってる……」
いつも通りのネタを挟みつつ、優來にもピザを渡して、俺もどんどん食べ始めた。
「なあー、由乃ちゃ〜ん。優とは、いつ結婚してくれるんだ」
酒を飲んだ父さんが、由乃の肩に手を回して、ダル絡みを始めた。
だから、今日はやめとけって言ったのに。
「ちょっと、あなたやめなさいって由乃ちゃん困ってるから」
「え〜?じゃあ、優〜お前はいつ誰と結婚すんだよ〜」
母さんに指摘されて、絡む対象を由乃から俺へ変更して、俺の方に近寄ってきた。
話の流れ的に結婚相手は由乃かと思ったけど、結婚相手は由乃じゃなくても良かったらしい。
「父さん、近寄るなって酒臭い」
「はぁ?誰が臭いって〜?」
俺が父さんから、距離を置くと、それに反応して俺に抱きつこうとこっちへ猛スピードで迫ってきた。
「ちょ、ちょっとまじで!」
「そ、そんなに避けなくたっていいだろー。昔のお前は、パパ、パパって甘えて……くれてたのに」
俺が父さんを拒みすぎたからか、父さんの泣き上戸発動。感動した訳でもないのにいい歳をして、涙を流し始めた。
「あ〜、お父さん。ほら、いいから落ち着いて」
父さんが泣き始めると、まっさきに母さんが父さんを胸で抱きしめた。はたからみると、完全に赤ちゃんをあやしてる母親だ。
「あんたの、お父さんほんとすごいわね……」
「まあ、昔からだから」
「昔からこんな感じよね」
基本父さんは、母さんから人前で酒を飲むのを禁止されてるのもあって、家族以外の前では飲まないけれど、昔由乃のとことBBQをした時飲んで、こんな感じになっていた。だから、由乃も父さんの酒癖の悪さは知っている。
「て言っても、お前は酒に気をつけろよ」
この間のチョコの件で、媚薬のせいでもあるけど、お酒は由乃には合わないと何となくわかった。
「それ、あんたもでしょ」
「……お互い、ああはならないよう気をつけようぜ」
「そうね、ああはなりたくないし。前回みたいにもなりたくないし」
目の前に反面教師が居るのと、気まづい空気が流れるレベルの失敗談があるおかげで、俺と由乃は酒は気をつけようと思える。
「優來も、酒は気をつけろよ」
「あたりまえ」
「だよなー」
長い間あれを見てたら、そう思うよな。正直、酒に対する憧れみたいなのは、いつの間にか消えていた。
「お父さん、落ち着いて」
「優來、優來はお父さんの味方だよなー」
優來が父さんを慰め、背中を軽くさするとすぐに母さんの胸から顔を離して、優來の方を向いた。
「水、飲んで」
「いくらでも飲むさ。ああ、体に染みるー!」
「父さん、こぼれてるこぼれてる」
優來から受け取った水を飲もうとする父さんだったけれど、酔って口元が緩くなっていたのか、水が口からこぼれてしまっい、服がびしょびしょになってしまった。
「まあ、いいかー」
楽観的にそういった父さんは、げらげらと笑ってまた、水を飲んでこぼしている。
「ほんと、あんたの家、賑やかよね」
「これは例外だろ」
この光景が俺の家の普通だとは、あまり思われたくは無いな。
♦
「はぁ」
飲み物を注いだグラスを持って、廊下に出る。さすがに今日は、いつも以上に賑やかで、少し疲れた。
まあ、優來が合格したわけだし、こんな感じになってもしょうがないけど。
「あんた、何してんのよ」
「おう、由乃」
こっそり廊下にでたつもりだったけど、由乃が見ていたらしく、由乃も廊下へ出て来た。
「さすがに、少し休憩。あの空気の中ずっとは、疲れるし」
ただ、酔っ払いの相手がものすごい疲れるっていう話しなんだけど。
「まあ何となくわかるわ。今、ずごいことになってるしね」
酔っ払った父さんは、泣き上戸から笑い上戸、そしてついにキス魔にまで進化を果たして今は、母さんがずっとその攻撃を受けている。優來は、その父さんから逃げ続けている。
「にしても、良かったわね優來ちゃん。一時はどうなるかと思ったけど」
「そこは、俺の妹ですから」
「ほんと、あんたシスコンよね」
由乃から、若干引いたような視線が向けられてるけど、今の俺には全く効かないぜ。
「いいだろ、シスコンでも。今のうちにやれるだけやっとかないと」
「なんで」
「ほら、お前と結婚したらここから離れるわけだし」
「は、はぁ!?」
由乃と結婚と言うと、由乃が俺を2度見してから、裏返ったような声が帰ってきた。
「まあ、由乃と結婚はほんの例えとして」
「びっくりするじゃない!」
「いた」
由乃にとって俺の冗談は、心臓に悪かったのかそこそこ強い力で、背中を叩かれた。
「でも実際そうだろ、結婚したらだいたい実家から離れる訳だし」
「ま、まあそうかもだけど」
「だから、今のうちにやれるだけ、甘やかすんだよ」
とは言っても、優來が誰かと結婚するって思うと、少し心にくるものがあるから、これは義務感シスコンではないんだろうな、とは思う。
「それで言うと、俺と由乃も高校までになるかもだしな」
「何言ってんのよ私はあんたと……」
「ちょっと、2人とも逢い引きしてないで部屋戻ってきてくれる?」
「「逢い引きはしてない!」」「……です」
別に示し合わせて来たわけじゃないし、これは決して逢い引きなどでは無い。偶然そうなっただけだ。
「で、なんでわざわざ俺たちを?」
「まあ、最後にね。ケーキを食べようかと」
合格ケーキとなると、プレートに合格おめでとう的なのが書いてあるホールケーキか。
「そう、それなら早く食べよ。そこの酔っ払いが、すぐにでも寝落ちしそうだし」
席に着く父さんを見ると、騒ぐだけ騒いで疲れたのか、静かに席に座ってウトウトとしている。
「それもそうか、じゃあこれ開けちゃっていいよ」
そう言った母さんが、冷蔵庫から白の箱を取り出して机のど真ん中に置いた。
「それじゃあ、優來開けるぞ」
箱を開けて、ケーキの下に着いている土台を掴んで、こっち側に引く。
「優來、合格おm、え?」
ケーキを引っ張って、ケーキの上に乗るプレート見ると「優、優來合格おめでとう!!」の文字が書かれている。
「母さん、これは?」
「ほら、あんたの合格祝いしてなかったでしょ。今更だけど、優も高校合格おめでとう」
「お兄、おめでとう」
優來は、このことを知っていたのか、何も驚くことなく祝福ムードを出している。
にしても、改まっておめでとうと言われると、くすぐったいというか、気恥しいというか。
「優、顔赤くなってるわよ」
「わ、笑うなよ」
自分では分からないけど、俺の顔が赤くなっていたみたいで、由乃に普通に笑われた。
「ささ、顔隠してないで。ケーキ食べましょ」
「適当すぎない!?」
父さん以外のケーキを切り分けて、ケーキを口に運ぶ。
今日のケーキは、いつもと同じショートケーキのはずなのに、一段と美味しく感じる。