107 幼馴染と謝罪大会
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「由乃、おはよ」
「…………」
朝、偶然では無いけれど、普通に出会った由乃に挨拶をするもフル無視をかまされた。
それもそのはず、昨日しっかり許しもらうことなく。殴られ、怒り心頭のまま由乃は帰ってしまったからだ。
まあ、最後の蛇足のせいではあるかもしれないけど。
「由乃、一緒に学校行こうぜ。今日は、いい天気だしさ」
ダメだ、全くもって話を聞いてくれる様子がない。由乃に話しかけてるけど、目で俺の方を見るでもなく、ずっと前を見て俺を透明人間かのように扱っている。
ここで、胸触ったらどうなるんだろ…………ダメだ、こんな考え持ってたら一生許して貰えなくなる。
「な、なあ由乃。昨日はごめんな。ちゃんとした話したいから、話を聞いてほし……ちょ、ちょっと由乃さん!」
しっかりとした話をしようとすると、由乃がものすごい早歩きで去っていってしまった。
これは、まじでまずいな。今まで、何度か由乃を怒らせたことはあるけど、ここまでのことは無かった。これを放置したら、多分関係の糸が完全に切れるな。
「そこのおねーさん。今日時間ある?もし良かったら、俺とお家デート、しない?」
「ッ……!チっ」
学校に着いてから、朝のHRまでの10分程の時間を使って、由乃を口説くけれど、舌打ちされた。
まず1回目は、失敗か……
「なあ由乃、この辺にぃ、旨いラーメン屋の屋台来てるらしいからさ、一緒に行かね」
「…………」
クソ、今度は舌打ちすらなかった。俺の想定では、速攻で行こう、ぐらい言われる予定だったのに……
2回目も失敗。
「由乃さん!どうか、僕の話を少しでいいので、聞いてください!」
恐らく移動教室中の由乃の前に、走っていき速攻で土下座を披露する。
「はぁ……」
え、今ため息疲れたよな。これは、どっちだろうか、呆れのため息か、根負けなのか。
「由乃ちゃん、行っちゃうの?梶谷くん、話があるんじゃないの」
「いいのあんなの、ほっといて。どうせ、まともな話じゃないし」
あ、そりゃ呆れのほうだよな。
3回目も失敗。いよいよ、手が無くなってきた。
「あぁ……全然だめ」
あれから2回ら思いつく限りで由乃へ謝罪を試みたけれど、全て無視されてしまった。
それもあって、今の俺は完全に意気消沈。力なく、自席に座り込んだ。
「元気なさそうですけど、どうかしましたか?」
「あ、刈谷さん。わかる?良かったら、相談に乗ってくれないかな?」
「珍しいですね、優くんが私を勉強以外で頼るなんて」
「まあ、今は四の五の言ってらんないからね」
「あらひどい」
いつもは、刈谷さんにあまり借りを作りたくないのもあって、助けを呼ぶのは避けてるけど、今はそんなの言ってられないからな。
「それで優くんは、私に何を求めるんですか?」
「ああ、そうそう。人への謝り方を教えて欲しいんだけど」
「謝り方、ですか?」
俺の相談内用を聞いて、刈谷さんの顔が何当然のこと聞いてるんだ、見たいな顔になった。
「それって、普通にごめんなさいじゃ、ダメなんですか?」
「ダメっていうか……その、当人に話を聞いて貰えないって感じで」
謝罪以前に、そこに至るための通路が完全に絶たれてるから、ごめんなさいができない。
「それって、謝る必要ありますか?だって、そのかたが拒んでるんですよね」
「そうなんだけど。多分今謝らないと関係が消える気がするんだよ」
このままの関係だと、気まずい空気が一生続いて、お互いが自然に会わなくなるようになる気がする。
「それなら、諦めればいいんじゃ……」
「そうするしかないか……」
でも、仲直りを諦めたとこで、最低でも高校の間は親同士の仲がいいから、強制的に合う日がある気がする。
「それか、相手のことなんて気にせず、無理やり謝るかですね」
「えっと、それはどういう……」
「要は、相手の方が逃げられない所においやって、無理やり謝罪をするってことですね。まあ、それをしたところで、相手の方に許してもらえるかは微妙ですけど」
そうか、そういう手もない訳では無いのか。ミスったら、本格的に由乃と縁が切れるけど、上手く行けば仲直りはできる。
2分の1の状況ではあるけど、やってみる価値はありそうだ。
せめて確率をあげるとすれば、しっかりと由乃の怒りの原因を解析して、そこを謝るぐらいか。
「おっけ。ありがとう刈谷さん。なんとなくの、方針は決まったよ」
「そうですか、力になれたようで良かったです。もし、謝罪に失敗して、落ち込んだら私のとこに来てくださいね、慰めてあげますから」
「それは、普通のやり方でだよね」
刈谷さんの助言もあって、とりあえずのやり方は決まった。あとは、時間を待つだけだ。その間になんとなくの、謝罪文を考えておこう。
♦
「よし、そろそろ行くか」
機は熟した。今日この日、俺にとって一世一代の勝負が始まる。このために、授業なんてフル無視で言葉を考えてきた。勝率は、少しは上がっているはずだ。
「まずは、運の勝負だ」
由乃の家の前に立って、インターフォンをおす。ここで由乃が出た時点で、俺の負けは濃くなる。
「優くんどうかした?」
よし!まずは上手くいった。由乃のお母さんなら、8割の確率で家へあげてくれる。まだ、風呂を食うには早いがとても、食いたい。
「いや、その由乃に用事があるんですけど、上がってもいいですか?」
「ほぉ……全然いいよ。鍵空いてるから、お好きにどうぞ。由乃は部屋にいるからね」
なんか、納得の仕方が気になるけど、良かった普通に第1関門は突破……なんか、由乃のお母さんがめちゃニヤニヤしてる。
由乃のお母さんのニヤニヤはともかく、とりあえず由乃の部屋の前にまで来ることができた。俺がやるべきことは、由乃を逃がさないことだ。
それさえできれば、俺の謝罪が円滑に進んでくれる、はずだ。そうだと嬉しいな。
自分で書いてて思ったんですけど、ものすごい早歩きってなんでしょうかね。