表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/156

103 過去との決別

2/2

「はい、確認できました。それでは、ここからお昼休憩とします。一応、勉強をする人もいると思うので、静かにお願いします」


国語の時間が終わってから、英数の順で試験は進み、ようやくお昼の時間がやってきた。


今のところの手応えとしては、今までやってきた過去問と同じような手応えで、心配はないと言った感じ。


「優來ちゃん、お昼食べよ」

「準備、出来てる……」

「早いね」


遊雌が弁当箱を持って、後ろを振り返った時既に優來は、机の上に弁当を置いて、少し食べ始めていた。


「時間との、戦い」


部屋にひきこもって、時間とはそこそこ無縁な生活をしていた優來から、出るとは思えない言葉が出てきた。


まあ、この言葉は、優からの入れ知恵的な感じで言われただけではあるのだけれど。


「時間との戦いね。受験勉強中、ずっと言われ続けてもう、聞き飽きたよ。こっちだって、わかってるってのに」


相当言われ続けて、ストレスが溜まっているのか、ガチめなため息が出てくる遊雌。


「まあ、そんなことは置いといて、優來ちゃんのお弁当トンカツかー。ゲン担ぎ?」

「たぶん、恐らく」

「トンカツってことは、だいたいそうでしょ」


今日のお弁当である、トンカツは優來がお願いした訳ではなく、普通に母が作ったものだ。


「遊雌、わ?」

「私?私わねー、じゃーん普通のお弁当」


遊雌が見せたお弁当は、確かに普通のお弁当。ミニトマトにミートボール、だし巻き玉子+αという感じの中身。


ちなみに優來の弁当は、トンカツを除けばほぼ遊雌と同じ中身になっている。


「なにか交換する?て言っても、中身ほぼ同じだし、メインを交換するしかないけど」

「じゃあ、これ」


そういった優來が、バッグから取りだしたのは、ラムネやチョコと言ったお菓子類。


「なるほど、優來ちゃん天才」

「それほどでも」


提案した案を遊雌に褒められて、満更でもなさそうな優來。


「それじゃあ、なに交換する?私は、飴とか持ってきてるけど」


優來に続いて、遊雌もラムネや飴、グミを出した。


「グミ、チョコ交換」

「お、いいよ、交換しよっか」


優來と遊雌は、台形のチョコ4個と個包装のグミ6個を交換した。


「チョコ甘くて美味し。ところで、優來ちゃんはなんで、ここの高校来ようと思ったの?」

「お兄が居るから」

「へぇ、優來ちゃん、お兄さんいるんだ」

「1つ上」

「へえ、年子なんだ」


優來が優のことを話すと、遊雌はその話に興味があるのか、さっきの会話よりも、反応がいい。


「お兄さんとは、仲良いの?」

「裸の付き合いレベル」

「へ、へー。裸の付き合い……」


間違ってはいないけれど、言葉が普通に悪かったのか、遊雌は若干引いている。


「そ、そんなことより、わかりきってる話かもだけど、優來ちゃんのおにいさん、優來ちゃんと同じ中学なんだよね」

「もち」

「だよね、ありがと」


このあとも、なんどか遊雌から、優について質問が何度かされた。


その間優來は、異様に優のことについて、聞いてくるなとは思いつつも、遊雌は兄弟が欲しかったと割り切って、優について返答を返していった。


「あとは、そうだなー」

「トイレ……」

「あ、優來ちゃん。もうちょっと、聞きたいことが――」


現在の時間を見た優來は、そろそろトイレに行って次の教科の勉強をしなければ、と思い一旦席を離れた。


遊雌は、少し物足りなそうに優來を見ているが、優來は遊雌の方は見ず真っ直ぐ教室を出ていったので、わかるはずもなく。


「先輩……」


綺麗なトイレ。ここの、高校は優が入学する少し前に建て替えを行っていたらしく、校舎全体はは公立高校にしては、綺麗である。


「時間……」


中学入学時、父から自身の指針を定めるため、とプレゼントされた時計を見て、昼休憩の残り時間を確認する。残り時は、おおよそ30分意外と余っている。


「その髪、梶谷さん?」


優來名前を知る人は、少ないはずなのに、急に名前を呼ばれ驚き直ぐに後ろを向いた。


後ろを向くと、そこに居たのは優來が殴った元クラスメイト。


「やっぱりそうだ、高校ここにしたんだね……大丈夫?」


優來自身、トラウマ自体は大まか克服しているものの、記憶に根深い部分は完全に燃やしきれていないからか、吐き気をもよおして口を抑えている。


「体調悪いなら、先生呼ぶけど」

「さわ、らないで」


触られると、本当に吐くと予想した優來は、差し伸べれた元クラスメイトの手をはたいてから、1歩引いて距離をとった。


( ヘアピン……)


前回のことを思い出して、急いで前髪につけているヘアピンを取って、握りしめる。


不思議なことに、ヘアピンを握りしめると、少し心が安らいだような感覚がしている。


「ていうか、梶谷さん学校来てないのに、受験はするんだね。いや、それともちゃんと復学したのか」


相手の子は、クラスが違うからか、優來の現状を知らないようだ。


「梶谷さん心配したんだよ、なんせ急に不登校になっちゃうんだもん。私のこと、殴って謝りもしないで」


嫌味っぽく、優來が殴った方のほっぺをさする元クラスメイト。


「まあ、確かにね私も、悪かったとは思うよ。落ちてたヘアピンを、踏んじゃったわけだし。でも、まさかそれが梶谷さんのだったとわね、偶然の出来事たししょうがなくない?」


最後半笑いになりつつ、優來を見下すように話し続ける。


「いやー、ほんとに痛かった。ただ、私がヘアピン踏んだだけだってのに。てか、あんなヘアピン大事にしてるとか、子供すぎ」


優來が何もできずに黙っていると、いい気になったのか、どんどん言葉の暴力で殴ってくる。


「あんなの、どこでも買えるでしょ、それを壊しただけで私殴られたなんてなー」

「さい……」

「え?なに?」

「うる、さい!!」


トイレの外に聞こえるくらいの大声を、出す優來。優來が、ここまでの大声を出すとおもってなかったようで、元クラスメイトはうるさい口を閉じた。


「な、なに急に」

「私をいじめてたのは、そっちだし!何もしなかった、私も悪い。でも、ヘアピンだけはバカにしないで!」


優來にとって、自分のことはどう言われても良かった。でも、優からもらったヘアピンだけは、絶対にバカにされたくはなかった。


「そ、そんなムキになっちゃって。ただのヘアピンの話なのに」

「それ、でも。もう、関わらないで」

「そっちが言わなくたって、こっちも関わらないよ。それじゃあ、行くから。受験、受かるといいね」


そう言ってそそくさとトイレから出ていく、元クラスメイトの子は、優來に言われると思ってなかった、ことを言われたからか少しぎごちない歩き方をしていた。


優來は思いの丈を話せて、まだ受験中だと言うのに、やりきった感覚に満たされている。


「優來ちゃんおかえり。遅かったね、体調大丈夫?胃薬持ってるけどいる?」

「もらう……」


思いっきり、思いを話してやりきった優來ではあるけれど、まだ少し気分が悪く、吐き気は残っている。


遊雌から、胃薬を受け取って飲むと、吐き気は多少治まってくれた。



「はい、確認できたので真っ直ぐご帰宅ください」


残りの2教科を終わらせ、試験監督の指示で試験会場にいる受験生達がそれぞれ、問題用紙をバッグにしまって、教室を出ていきはじめた。


「多分途中まで、一緒だろうし帰ろ優來ちゃん」

「遊雌、友達と、帰らない?」


優來は、今日話し始めただだから、同じ学校を受けている友達と帰った方が、いいと思って優來は聞いた。


「ああ、友達ね。別にいいの、今日は優來ちゃんと話したいし」

「なら、いい」


遊雌にそう言われて、優來は少し浮ついた気持ちで、筆記用具等の片付けを始めた。


「ただいま……」

「優來、おかえり」


玄関を開けて、家の中に入るとただいまの声と同時に、優がリビングの扉を開けてい急いできた。


「手応えはどうだった?」

「練習以上……」


自信満々にサムズアップで、優へ答える。


「そりゃあ良かった」


そういった優は、優來の頭へ手を伸ばして、優しく優來の頭を撫でる。


これは、いつも感じることではあるけれど、やはり優に頭を撫でられると、心がホッコリする。


「ありがと……」

「まだ合格はしてないから、油断はできないけど」


優へのありがとうは、いままでの勉強と、ヘアピンに対するそんなありがとうだった。


「これ」

「え?なんでバッグ?」

「寝る」

「えぇ……」


試験の問題や文房具諸々が入った、バッグを優へ渡して、暖かい心を持って自室へ戻っていく優來だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ