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101 昼食と仲直り

3/3

「3名でお待ちの、カジタニさま」


ファミレスで順番を待っていると、俺の名前が呼ばれた。少し気がかりなのは、名前を書いたのは俺じゃなくて初愛佳さんなのに、俺の名前が呼ばれているということだ。


「あの、初愛佳さんなんで順番待ちの名前、俺の苗字なんですか?」


別に順番の名前だから、なんでもいいけど、普通に初愛佳さんの名前じゃなかったのは、気になる。


「ま、まあいいだろ別に。俺がただ書きたかっただけなんだからよ」

「別に、そこは否定しませんけど」


まあ、漢字の画数が俺の方が少なかったとか、そんな感じなんだろう。あれ、でもファミレスの順番待ちって、基本的にカタカナで書くような……



「あの、水無口さん。注文しにくいんだけど……」


そんなに初愛佳さんが怖いか、と言いたくなるレベルで、俺にずっと抱きついて、震えている水無口さん。


「水無口さん、注文する?」


あ、注文はするんだ。


震えている水無口さんに、注文のタブレットを渡すと、震えている手で画面をポチポチと押し始めた。


「初愛佳さんも、どうぞ」

「おお、そうか……」


俺と水無口さんを見て固まっていた、初愛佳さんにタブレットを渡して、初愛佳さんにも注文をしてもらう。


「水無口さん、ドリンクバー取りに行かない?初愛佳さん、何がいいですか?」


とりあえず水無口さんを落ち着かせるために、水無口さんをドリンクバーを取りに行くのに誘ってみた。


水無口さんから反応は帰ってこないけど、どうせ着いてきてくれるだろう。



「水無口さん大丈夫?」


初愛佳さんから離れると、水無口さんの震えと顔のあおさはひいて、いつも通りの水無口さんになった。


そして俺が水無口さんに体調を聞いてすぐ、水無口さんはスマホを取り出して、ゆっくりではあるもののポチポチと文字を打ち始めた。


(優よ、あれはなんだ)

「なんのこと?」


俺にスマホの画面を見せる水無口さんは、明らか焦っている。


(見えんのか、優よ。あの、人を食らう獣のようなオーラが)


まじで、水無口さんにはなにが見えてるんだ。水無口さんが、初愛佳さんの噂を知ってるのかは知らないけど、噂を知っててもそんなオーラは見えないだろ。


「そんな、取って食われるわけじゃないんだし」

(そもそも、なぜ優はあれが見えないんだ)

「俺は、最初っから見えなかったし。それ以外であげるなら、よくあってるからかな」


初愛佳さんのオーラなんてものは、俺からだと最初から見えてなかったし、正直さっきから水無口さんの反応を見てて、水無口さんが大袈裟にしているようにしか思えない。


(そういえば、優はよくういか殿にに呼び出されていたな)

「それでも、俺は元から大丈夫だったし、水無口さんもいけるって。あの人怖くないから」


なんなら、超絶少女漫画脳みたいな面があるから、手繋ぎでさえ無理なんだし。


(そうか、なら頑張ってみよう。だが、あまり期待はしないでくれ)


う〜ん、普通に心配だな。どうにか、初愛佳さんの弱点が伝えられればいいんだけど。


「お前ら戻ったか。遅かったな」

「すみません、人が並んでたり、中身の交換が重なって」

「ほんとか?ま、いいけどよ。そんなことしてる間に、料理来ちまったってだけだから」


初愛佳さんにお願いされた、飲み物を初愛佳さんに渡して、俺達は席についた。


そして、初愛佳さんの近くに戻った水無口さん、わと言うと、やっぱり俺に抱きついて震えている。


「さっきから気になってたんだけど、水無口顔青いけど大丈夫なのか?」

「どうなんでしょう」


この調子で震え続けたら、どこかのタイミングで気絶しそうではあるけど……


「ヒッ!」


唐突に初愛佳さんにおでこを触られ、変な声を上げる水無口さん。


「おい、水無口顔冷たいぞ」

「ほんとですか?」


たしかに、水無口さんのおでこを触って見ると、確かに冷たい。いや、少し熱があるくないか?


「水無口さん、大丈夫?気持ち悪いとか……」


水無口さんに、体調を聞くと、超ゆっくりと首を縦に振って答えてくれた。


「ほんとに大丈夫かよ、一応やばかったら言えよ」

「言いにくかったら、俺の事3回ぐらい殴っていいから」

「それは、お前がいいのかよ……」


水無口さんの力は、見た感じそんなに無さそうだし、さすがに力は加減してくれるだろうから、殴られても何の心配もないはずだ。


「とりあえず、料理食べましょうか」



「ごちそうさまでした」

「やっと、食べ終わったな」

「すみません、時間かかっちゃって」


俺の食べていた料理は、そこそこ量が多かったから、食べ切るのに少し時間がかかってしまった。


「水無口は、体温大丈夫だよな」


一応顔色は悪いけれど、普通にものは食べれたようで、水無口さんはお子様パンケーキをしっかり完食している。


ほんとに水無口さんは、体調が悪いんじゃなくて、恐怖で顔色が悪くなってるだけっぽいな。


「んじゃ、そろそろ行くか」

「その前に俺、お手洗い行ってきていいですか……水無口さんも来る?」


俺がお手洗い方向へ行こうとすると、案の定というか普通に水無口さんが俺に引っ付いてきた。


(我はここで待っている。だから、優は)

「はや、く……戻ってきて、ね」


それは、わざわざ声を出して言うことなのかわかんないけど、まあいいか。


「まあ、任せてよ。大きくない方だから。ごめんごめん」


俺の言ったことが下品すぎたからか、水無口さんからツッコミ的な感じで、ポカポカと叩かれた。



「痛!ちょっとあなた」


お手洗いを手をた後、初愛佳さんの居る俺たちがいた席に戻ろうと歩いていたら、水無口さんが目の前から来ていた親子にぶつかった。


見ていた感じ、水無口さんとぶつかった母親の方は、明らかよそ見をしていて、しかも水無口さんは避けようとしたけれど、唐突な方向転換で水無口さんとぶつかったという感じ。


「今のでコーヒーがうちの子に当たってたら、どうすんのよ!今年受験生なのよ!」


水無口さんに当たった衝撃で、こぼれたコーヒーについて、凄い剣幕で水無口さんをまくし立て始める母親。


「いや、今のはあなたが明らか悪くないですか?前もみずに、急に方向転換って」


ていうか、別に大事には至ってないんだし、いちいち突っかかんなくたって良くないか?


「なによ、避けないそっちが悪いんじゃない」

「えぇ……」


多少なりこっちにも非があるとしても、割合でみるとあっちの方が悪い気がするんだけど。


「だから、謝って。私の子が、危なかったんだから」


なんとも、暴論としか言いようがないな。そもそも、謝ったからって、あつあつコーヒーが戻る訳でもないだろうに。


「ほら、早く謝りなさいよ。黙ってないで、早く」


水無口さんは、明らかな暴論にどうすればいいのかわかっていないようで、あたふたとしている。


逆にここで謝らないのは、正解だと思う。水無口さんが謝った時点で、水無口さんが悪だと認めることになる訳だし、ここで謝らないのは正解……のはずだ。


「水無口さんいいよ、行こうか」

「ちょっと、何逃げ用としてのよ!」


別にただコーヒーこぼれただけだし、無視して戻ろうとするも、俺の腕が強く捕まれその場に引き止められた。


「あの、痛いんですけど」

「私の子が火傷してたかもしれないのに比べたら、全然でしょ」


何を言ってるんだマジで。可能性の痛みの話をされても、まじ困るんだけど。


「お前ら、大丈夫か?」

「あ、初愛佳さん……」


母親と軽く口論になっていると、騒ぎを聞き付けた初愛佳さんが、こっちにまでやってきた。


「店中に声響いてんぞ。もう少し、ボリュームを……」

「なるほど、あなた達もしや、最底辺ね。だから、まともに謝れないのねなるほど」


たぶん初愛佳さんの姿を見てか、俺たちの戦闘力を見きったかのような反応をする、モンペ母親。


「なあ、優このばあさん何言ってんだ」

「ば……」

「初愛佳さん、それは失礼ですって」


失礼バトルしてる訳じゃないんだし、そこまで言わなくてもいいと思う。俺は、少しよくやったと思うけど。


「ま、まあいいわ。あんたたちに比べたら、うちの子は相当勝ち組な人生送れるんだし」

「なあ、ほんとに何言ってんだこいつ」

「自慢話……ですかね」


明らかに俺たちを見下す発言。そして、モンペ母は自慢話を続ける。


「うちの子はね、あの東百合花に合格する予定なの、あんたたち底辺校に比べて、人生勝ち組わかる?」


あ、合格はしてないんだ。それなのに、自慢話にするって相当、自分の子に対して期待というか、自信があるんだな。


にしても、ずっとモンペの子のほうは、ずっと横でスマホ見ながら話しを聞いてるだけだな。


「東百合花って、どこでしたっけ?」

「あれだろ、私立の黒女ほどじゃないけど、頭のいい」

「そういえば、そんなのも」

「そうなのよ、うちの子はそこを受ける予定なの。あなた達みたいな、底辺の高校じゃなくてね」


初愛佳さんの説明が入ると、鼻高に自慢を繰り広げるモンペ母。


「つっても、俺そこ受かってたんだけどな」

「「え?」」


モンペ母の話を聞いて、初愛佳さんがなに食わぬ顔で普通に合格したといった。


「嘘はやめなさいよ、あんたみたいな髪のやつがあの高校に合格貰えるわけないじゃない」

「つってもな、ほら」

「う……」


めんどそうに初愛佳さんがみせた写真には、確かに初愛佳さんの名前と東百合花合格と書かれている。


「初愛佳さんここ、受かってたんですね」

「まあ、半分運だろうけどな。とりあえずで、受けてみたら合格って感じだったし」

「すごいな、なのによくうちの高校来ましたね」


それ以前にそこに受かるレベルなのに、よく今いるとこを受けようと思ったな。


「まあ、元からそこ行こうって、佐藤と約束してたからな」

「なるほど」


そういや、2人とも幼馴染って言ってたもんな。高校は、2人で決めてたのか。俺は、偶然由乃と被ったんだけど。


「だから、おばさん別に手を火傷した程度じゃ、多分受かるぜ。俺みたいな、見た目最悪なやつが、受かってるんだしよ」

「くっ……」


すごいな、見た目の割に料理を除いてハイスペックな初愛佳さんがいるおかげで、モンペ母のペースが崩れ始めいる。


「そ……なの……」

「ん?なんだ?」

「そんなの、いくらでも偽装できるじゃない!だから、それは嘘、真っ赤な嘘!」


初愛佳さんが、そこそこ頭のいい高校に受かっているのが信じられないからか、そこそこ変な理論で嘘を主張し始めた。


「ていうか、話をそらさないでよ。こっちは、そこの子に謝ってくれるだけでいいの。それだけなの、わかる?」


モンペ母に言われ、俺に隠れていた水無口さんが1歩前へ出た。けれども、水無口さんの手は初愛佳さんの時ほどでは無いものの、震えている。


「あら、やっと謝ってくれるのね。ほら、早くあやりなさいよ、早く」

「ご、ごめ……」

「水無口、別に謝らなくていいぞ」


震えている水無口さんの、肩をもった初愛佳さんが、親子の方ではない、別の方向を向いた。


「お客さまぁ、店内で騒がれると他のお客様に迷惑なので、控えていただけませんか?」


初愛佳さんの向いた方向には、めちゃくちゃ怒っていそうな店員さん。


店員さんに言われて、周りを見てみると、俺たちの方に視線が集まっている。


「とりあえず、どちらかはご退店願います」

「「わかりました……」」



「いやー、水無口も災難だったな」

「それは、俺達もですけどね。まあ、学校に報告されないのは、不幸中の幸いですけど」


店員さんに退店をお願いされたけれど、こっちの言い分がわかってくれたみたいで、高校には連絡しないと言ってくれた。


「それはそうだな、いやーよかったよかった」

「初愛佳さんは、次問題起こしたら何があるかわかんないですからね」


正直これくらいなら、説教で済みそうだけど、初愛佳さんは1回暴力沙汰起こしてるし、何があるかわかんない。


「マジでそれなんだよな、命拾ったなー」

「水無口さんは、大丈夫?」


今日の水無口さんは、初愛佳さんへの恐怖、モンペに執拗に迫られた謝罪といい、水無口さんの心は相当疲れているだろう。


「あれ、水無口さん」


基本他人の前じゃ、スケッチブックでも会話をしようとしない水無口さんが、初愛佳さんがいるというのにスケッチブックを使おうとしている。


(少し疲れたが、そこまでの心配は要らないぞ)


そういえば、初愛佳さんがいるというのに、全く震えてないな。


「おい優そのスケッチブック、絵を描くようじゃないのか」

「水無口さんは、会話が苦手なので、基本スケッチブックで会話してるんですよ」


水無口さんを持ち上げて、初愛佳さんに今の水無口さんをよく見せる。


「おう、そ、そうなのか……」


初愛佳さんにとって水無口さんは、初めての人種だったからか、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしている。


「でも、水無口さんさっきまで怖くて震えてたのに、いいよ?」

「こ、こわ……」

(まだ、少し怖いが、初愛佳殿の良さが見えてきたから、少しは大丈夫になった、それに)

「たすけて、くれ、た……時は……かっこ、よかった」


なるほど、初愛佳さんはそれで水無口さんからの、信用を獲得したのか。でも良かった、初愛佳さんに見えていたらしい、謎のオーラが薄くなったみたいで。


ずっとあのままだったら、マジで水無口さんがどうにかなってそうだったし。


「優、俺ってそんなに怖いか?」

「俺はそんなですけど、水無口さんにはそういうオーラが見えるみたいで」

「オーラってなんだよ」

「それは俺にも」


ほんとに初愛佳さんから、そういう怖いオーラなんて俺には見えないし、逆にオーラが見えないのが普通だと思うんだけど。


「そうか、俺怖いのか。なら、今までごめんな水無口」

(我もすまなかった、全ての話を無視してしまって)

「まあ、いいんだ。気づかなかったのは、俺だしよ」


水無口さんにフル無視されていた理由を聞いて、普通に落ち込み始めている初愛佳さん。


「あ!初愛佳いた!」


そう、大声をこっちに向けて放ってきたのは、初愛佳さんと同じ髪色けれども、ショートヘアの女性。たぶん、初愛佳さんのお母さんだろう。


「あんたどこいってたのよ」

「それはそっちだろ、電話しても出てこないし」

「それは、ごめんなさいね。この人達は?あ、もしかして初愛佳のしゃて――」

「友達だ」


初愛佳さんが友達と言うと、一気にお母さんの目が輝き始めた。


「ええ!あなた、友達いたの!?」

「な、なんだようるせぇな」


お母さんに顔をググッと近づけられた初愛佳さんは、耳を塞いでめんどくさそうな顔をしている。


「もう、反抗期なんだから。あなた、これからも初愛佳のことよろしくね」


次なる標的を俺に定めたお母さんは、俺の片手を両手で握り、激しく上下に振り始めた。


「は、はい……」


この人は、今まであったご両親に比べたら、健全そうではある。でも圧がすごいな。


「あ、これからって結婚ってことじゃないから。したかったら、私を通してね」

「お、おい!母さん!もう行くぞ」

「ええー、もっと話さないの?せっかくの、旦那様候補なのに」

「下見ろ下」

「あ、もう1人居たのね。これからも、初愛佳のことよろしくね」

「もう行くぞ」


そう言いながら、初愛佳さんのお母さんは俺たちに何かいいながら、初愛佳さんに引きずられて、連れていかれてしまった。


「凄かったね」

(まさしく、嵐のようだったな)

「とりあえず、俺行きたいとこあるから、着いてきてもらっていい?」


過ぎ去っていく初愛佳さんを見送りつつ、俺達はそのままデートを再開た。

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