六
「あンの馬鹿野郎! 無鉄砲にもほどがある!」
苦虫を噛み潰したような顔で毒づくヴィトーリア。その言葉が耳に届くよりも前に、ステラはもう宙を舞っていた。
気付いた敵船員が、ステラに向かって弓を構えようとしている。腰のダガーを右手で抜くとともに、鋭く投げた。矢をつがえようとしている相手の顔に見事に命中。たまらず手を放して、仰け反っていく。
隣には、着地を狙ってカットラスを構える大男が一人。左手でもう一本のダガーを抜いて備えたが、必要なかった。ステラの視界の先で、男の眼に深々と矢が突き刺さる。
「ありがとー! ドミンゴさん!」
前転をして速度と衝撃を殺しつつ、ステラは敵船首甲板へと着地した。投げたダガーが前方に転がっているのを見ると、その勢いのまま走って回収しつつ、低い姿勢から近くの敵の脚に斬りつける。
「野郎共! アタシに続け!」
飛び込んできたステラへの対応で、敵船はにわかに浮足立った。その間に板を渡したヴィトーリアたちが、次々と乗り込んでくる。
混乱の最中、甲板長と見定めた先程の男が、矢継ぎ早に指示を飛ばしているのが見えた。低い姿勢を保ったまま、機敏に敵船員の間をすり抜けてステラが迫る。すぐに気付いた相手はカットラスを振り上げて応じた。
方向を急転換して右へと曲がる。ステラの背中ギリギリを刃が通過していった。そのまま駆け抜けると、ミズンマストに両手をかけて、くるりと回る。
「どーん!」
両足を揃えて、回転した勢いで敵の顔面に飛び蹴りを喰らわせる。体重が軽いとはいえ、速度の乗ったその攻撃は、足場の悪い船上で敵を転ばせるのには充分。空中でダガーを抜きなおし、仰向けに倒れる相手の心臓目掛けて、落下の勢いも使って思い切り突き立てた。
「がっ!」
鈍い悲鳴と共に全身が反り、相手が即死したのがわかる。立ち上がろうとしたステラの眼に入ったのは、襲い掛かるカットラスの刃。その向こうに見える敵船員の残虐な笑みを、横から飛んできた矢が貫いた。
軌道が逸れた斬撃は避けられたものの、側転して逃げた先にはまた二人の敵船員。向かって右手の髭面だけを狙って突進する。二人が相手でも慌てることなく対応出来た。何しろ彼らの後ろには、頼もしい人物の姿があるのだから。
左の船員の頸が一撃で刎ねられる。頭がごろりと床に転がり、噴き出した血潮が降り注ぐ。身をかがめたステラが脚を狙って斬り付け、痛みでバランスを崩した残りの船員の頭上から、強力な斬撃が見舞われた。
悲鳴と共に倒れた身体の向こうに現れたのは、不機嫌な様子のヴィトーリアの姿だった。
「ステラ! お前、後でお仕置きだ!」
「なんでさ!? お手柄でしょ、これ?」
ステラは船の前方を指す。主甲板の上でも船首楼甲板の上でも、乗り込んだ味方が圧倒的優勢に立っていた。足元からも喧騒が聞こえるので、既に砲列甲板にも味方が入り込んでいるはず。
戦闘指揮官でもある甲板長がステラと戦い始めたことで、各個の判断だけで対応せざるを得なくなったのだろう。こちらはオスバルドが敵船首楼甲板の上に立って、指示を飛ばしている。
「一丁前の口を利くようになりやがって……。次あんな無謀なことやったら、女郎屋に売り飛ばしてやる! 矢に当たらなかったのは運が良かっただけ。お前を守ってくれた射手たちのおかげだ。後できちんと礼を言っておけ!」
なおも不機嫌な表情を崩さずに、ヴィトーリアは言う。ステラはそれを無視し、フォアマストの上に向かって、飛び跳ねながら手を振った。
「ドミンゴさん、ありがとー!」
「ステラ、お前、敵の船長見たか?」
「見てない。いないの?」
ぴょんぴょんと跳ねて船尾楼甲板の上の様子を覗くも、敵味方ともに誰もいない。二人の視線がその下の扉に向く。
「まさか、この中に?」
通常、船尾楼甲板の下は船長室。不利になった途端、中に籠もってしまったのかもしれない。
「オスバルド! あとは任せる。いつもの手筈で!」
船首楼甲板の上にいるオスバルドに対して、ヴィトーリアがジェスチャーも加えながら呼び掛けた。オスバルドからもジェスチャーが返ってきたのを確認してから、ヴィトーリアはステラを見る。
「ついてこい」
そう言うなり大きく全身を回転させて、強烈な後ろ回し蹴りを船長室の扉に見舞った。一撃で蝶番が弾け、扉が中へと吹き飛ばされる。
「降伏する! 部下たちも降伏させる!」
中に乗り込む前にもう叫び声が聞こえ、ヴィトーリアはつまらなそうに肩を竦める。ステラが横から顔だけ出して覗き込むと、部屋の隅で頭を抱えて蹲っている男が見えた。
なんとまあ情けないことだと思う。よくこれで船長をやっていられたものだと、ステラは呆れた顔で男を眺めた。
海賊船というのは、意外にも民主的な仕組みで動いている。船長を始め、一部の重職を除いて分配は公平。そして一番上の船長ですら、多くても一般船員二人前の取り分しかないのが通常。無能な船長は、船員たちの合議によって、無人島への置き去り刑に処されることもある。
船長は絶対権力者ではなく、多数決によって意見が覆されることも多々あった。そもそも船員の中から選出されるものであるため、実質的には古代ギリシアや古代ローマに代表される、直接民主主義の評議会議長のような存在となる。
「ステラ、誰か呼んできて縛り上げさせろ」
船長も捕らえるつもりと受け取れるヴィトーリアの言葉に、ステラは首を傾げて見上げつつ問う。
「殺しちゃわないの?」
有能な人物とも、義理堅い人物とも思えない。生かしておく理由はなく、生き残った敵船員への示しをつけるためには、殺した方が良いと考えられる。
「効果的なタイミングでやる」
ヴィトーリアはステラの耳元に口を寄せて、そう囁いた。言わんとすることをなんとなく察したステラは、小さく頷くと主甲板へと下りていった。
そこでは敵船員たちは皆、もう殺されるか降伏するかしており、シルヴェリオ号の方から縄が運ばれてきているところだった。
「ねえ、あっちにも縛り上げて欲しい人がいるの。誰かお願い!」
味方船員の一人が反応して、ステラの指差す方向へと駆けていく。それを見送ると、ステラは甲板の上を歩いて周った。破れた帆の切れ端だろうか、白い布を見つけると、それを拾ってダガーに付いた血を拭う。
カルロスとオスバルドを見つけたが、二人とも忙しく指示を飛ばしていたので、邪魔をせぬよう声は掛けなかった。船首楼甲板に上がり、手すりの上に腰かけて下を眺めながら休む。
手際よく敵船員たちが縛り上げられていき、降伏した者たちは主甲板の広い部分に集められた。総勢十二人。
その他に、まだ生きてはいるが重傷者が多数いるようだった。船員たちがそれらの間を回り、介錯を希望する者にはとどめを刺していっていた。
それを哀し気に眺めるステラの前に、オスバルドがやってきた。
「嬢ちゃん、お前もやれ」
「え?」
オスバルドに言われたことの意味が理解出来ず、ステラは困惑した表情で見つめ返す。
「儀式みてえなもんだ。やれないなら、船を降りろ」
差し出されたのは、ミゼリコルディアと呼ばれる短い刺突剣。十字架のような形をした、刃のない刺すことに特化した武器である。その名前の意味は、慈悲。主に手遅れの者にとどめを刺す、介錯のために用いられている。
ステラはそれを見て躊躇した。先程は勢いのまま、甲板長らしき男を殺した。しかし、これからやらされようとしていることは、戦いの中で身を守るため、仲間を助けるために殺すのとはまた違う。
本人の希望とはいえ、無防備な者を自分の手に掛ける。考える間もなく反射的に行動した結果訪れる死ではなく、余裕のある状態で明確な意思を持ってやることになる。その時の互いの気持ちを想像してしまう。
すぐに手に取らなかったからか、すいっとミゼリコルディアが引かれて、諦めたようにオスバルドが振り返った。ステラは自分の頬を両手でぱんぱんと叩く。
「私、やる! オスバルドさん、それ貸して!」
後ろから聞こえる苦しそうな呻き声を聞いて、逆にステラは吹っ切れた。あのまま放っておくのは、可哀想すぎる。
振り返り直したオスバルドは、ミゼリコルディアをステラに手渡しながら言った。
「なら、あいつを楽にしてやってくれ。どうせなら嬢ちゃんがいいって、さっきから待ってるんだよ」
オスバルドが指した先で寝ているのは、黒い肌をした男。片腕が肩から無くなっている。側にカルロスが膝をついて、心配そうに見ていた。
横たわっている瀕死の男の顔には、見覚えがあった。つまりは、味方。懇願するような眼でこちらを見ている。
瞼を閉じ、大きく息を吸ってからゆっくりと吐く。再び開いた翠の瞳には、強い決意が漲っていた。
介錯を待っている相手の隣に膝をつくと、苦しそうな息を吐きつつ、何事か言われた。ステラには聞き取れない言葉。
「なんて言ってるのかわかる、カルロスさん?」
「天使がきてくれたって言ってやす」
「え……?」
「本当にいるのなら、神様とやらにきちんとお祈りしておけば良かったと」
私はそんなんじゃない。その言葉は口に出さずに呑み込んだ。もう最期なのだ。幸せに逝かせてやらなければならない。
自然と目頭が熱くなり、涙が浮いてくる。零れてしまわないように堪えながら、ステラは十字架の形をしたミゼリコルディアを左手で持ち、男の左胸の上にかざした。右手で十字を切りながら呟く。
「主よ、永遠の安息を与えたまえ。絶えざる光を、彼の上に照らし続けたまえ」
祈りを終えると、両手でしっかりと握り直して、体重を乗せて心臓を一突きした。悲鳴はなかった。一瞬の硬直の後、急に力を失って男の身体は弛緩した。先程までの苦しみから解放されたからか、その顔はとても穏やかに見える。
瞬きと共に、涙が雫となって頬を伝う。声を上げて泣きじゃくりたかったが、流石にそれは堪えた。もう子供ではないのだ。いっぱしの戦士とならなければいけない。二度と仲間の――家族の介錯など必要がなくなるように。
「終わったか? みんな集まれ」
第一甲板と主甲板の間の手すりの上にヴィトーリアが立って、皆の様子を見下ろしていた。
「今回の収穫はこれだけだ。あとは水や食料、酒。それから、銀貨が二百レアルほど。済まんな、もっと貯め込んでそうに見えたんだが」
ヴィトーリアの足元に置かれた樽の上には、金銀の宝飾品や宝石がいくつか置かれていた。船長室にでもあったのだろう。充分な価値があるように思えるが、何人か死んだことと、この半月程度での儲けがこれだけと考えると、少ない方なのかもしれない。
「ステラ、今回の一番手柄はお前だ。好きなのを取れ」
「え、ええー!?」
「一番乗りだったし、敵の指揮官を倒したのはお前だと聞いた。初陣にしちゃあ上出来過ぎる」
どれを貰っても、公平分配になどならないのは明らか。ステラは試されているのかと疑い、周囲の反応を見守った。
「貰っとけー!」
「なかなか格好良かったぜ! ふおおおおお! ってな」
仲間たちがそうやってはやし立てる。もしかしたら、恒例行事なのかもしれない。前回戦ったときは斬り込み戦にはならず、決着がつかないまま終わった。
仕掛けてきたのは相手の海賊船の方で、こちらはアフリカ大陸に連れていく途中の奴隷たちがまだ乗っていた。なので、砲撃で相手を足止めした後、そのまま逃げてしまった。ステラが乗せられていた船のときにどうしたのかは、見ていない。
「ホ、ホントにいいの?」
半信半疑のまま、樽の前に行って戦利品を眺める。金のネックレスに銀の腕輪。赤い宝石が付いた指輪に、削り出したままの状態の宝石。そっと手を伸ばして、ステラはそのうちの一つを手にした。
「これがいい!」
指でつまんで皆に見せたのは、明るく濃い緑色の小さな宝石。周囲から落胆の溜め息が流れる。
「あ、あれ? これやっぱり、貰っちゃいけなかったの?」
やはりこれは試験で、不合格なのかと思ってステラは慌てて皆を見回した。船員の一人が声を張り上げる。
「一番高いの貰っとけよ! そのでかいネックレスとか!」
「へ? どういうこと?」
更に困惑して挙動不審になるステラ。上からヴィトーリアの声が降ってきた。
「何を勘違いしてるのか知らんが、本当に好きなの取っていいんだぞ?」
「でも、分配は公平にってのが、海賊の掟じゃあ……?」
首を傾げて見上げるステラに、ヴィトーリアは優し気な微笑みを浮かべて答える。
「公平も大事だが、頑張った奴への褒美も大事だろう? 何もしなくても分け前が貰えるなら、適当に戦ってる振りしてるだけの奴が出てきちまう。うちじゃあ、活躍した順に三人が、特別な褒美を貰えることになってるのさ」
「そ、そうなんだ……」
言っていることはもっともと思える。混戦の最中、後方で消極的に戦っているだけの者と、敵陣深くへ斬り込んでいる者で分配が一緒なら、皆前者をやりたがるだろう。
「選び直せー!」
「そうだそうだー!」
船員たちから声が上がったが、ステラは自分の取った緑の宝石を示して主張し直した。
「私はこれがいいの! これエメラルド。結構高いんだよ? あのネックレスじゃ重すぎるし、これなら軽くてちょうどいいんだ。それにほら、私の瞳と同じ色」
そう言って悪戯っぽく笑うステラの瞳は、陽光を浴びて確かに同じ色に輝いていた。
「よし、ならステラはそれ。二番は誰だ?」
ヴィトーリアが周囲を見回す。誰からともなく名前が挙がった。
「ドミンゴだろ?」
「ドミンゴ! ドミンゴ!」
見張り台から降りてシルヴェリオ号の甲板にいたドミンゴは、急に自分の名前が連呼されたことで、激しく手を振って困惑を示す。言葉が通じていないはずなので、状況はまったく理解出来ていないに違いない。
黒人船員の一人が駆け寄って何事か耳打ちすると、何度も頷きながら話を聞いている。それから、遠慮がちに渡し板の上を通り、樽のところへとやってきた。ステラが場所を譲ると、ヴィトーリアを見上げる。
樽の上をヴィトーリアが示すと、特に宝石などはついていない、シンプルな銀の指輪を取った。それを持ちあげて、何事かを口にする。黒人船員の何人かがはやし立てたが、どれもステラには理解出来ない言葉だった。
そのままドミンゴは下がってしまう。ドミンゴの言葉を理解出来る船員の中には、ポルトガル語やスペイン語を話せる者もいるはず。なのに、敢えて誰も翻訳しなかったことを考えると、ドミンゴが言った内容は、大体想像がつく。
一番手柄のステラより高いものを貰うことは出来ない、といった趣旨のことだろう。それを言ってしまうと、三人目も遠慮しなくてはならなくなるので、翻訳しないのだ。ドミンゴも、他の黒人船員たちも、なんと気配りの利いたことかとステラは感心した。
三人目がやはり安そうな小さな宝石を選ぶと、船員たちからは喝采が沸き起こった。しかしその後に続いて飛び出した台詞は酷いもので、お前に遠慮という言葉がわかるなど意外だとか、手柄の差を考えると三人目はなしにしてもいいくらいだとか、そんな内容だった。
「褒美はこれで終わり。残りはいつも通り銀貨で分配する。――次、捕虜の処遇」
縛り上げられた敵船員たちに視線が集中する。どんな処分が待っているのかと、全員が縮み上がった。
「希望者は、うちの船に乗ることを許可する。掟は、仲間を裏切るな、ただそれだけだ」
「希望する! 仲間にしてくれ! 一生尽くす!」
ヴィトーリアの言葉に真っ先に反応したのが、敵の船長。他の捕虜も口々に仲間になることを希望する発言をしだした。彼らを鎮めるように手で制し、ヴィトーリアが言葉を続ける。
「まあ、待て待て。話は最後まで聞け。希望しない奴は、近くの陸地で降ろしてやる。無人島じゃあない。ちゃんと人が住んでいる場所まで連れていく。金を恵んでやることまでは出来ないから、そのあとは自力でどうにかしろ」
通常ならあり得ないその条件に、捕虜たちがざわめく。仲間にならないのなら、殺されるか海に落とされるか、あるいは無人島に置き去りにされるかが相場。人里で解放したら、密告される可能性がある。
一度海賊になったら、足を洗うことは不可能というわけではない。しかし、一定期間または一定額を稼ぐまでは、仲間を抜けることは許されないのが通常。充分な信頼関係が構築され、密告の可能性が無くなるのを待つ。宣誓書への署名を行い、それを以て互いを縛ることも多い。
「すぐに決めなくていい。陸に着くまでに考えておけ。――だがその前に」
すらりと音がして、ヴィトーリアがカットラスを抜く。それを手に主甲板へと飛び下りた。捕虜が集められた場所へ歩み寄りながら続ける。
「すでに仲間を裏切った奴がいる。船の敗北は船長の責任。にもかかわらず、こいつは真っ先にうちへの寝返りを選んだ。しかも、戦いの最中、一人で船長室に隠れてやがった。敵前逃亡は死刑。お前らの掟ではそうだろう?」
カットラスが敵船長の鼻先に突き付けられる。血走った両目が寄り、切っ先を凝視していた。周囲では、他の捕虜たちがしきりに頷いている。刃がすいっと斜め上に移動した。
「天国に行けるといいな」
意外にもそんなことを言って、ヴィトーリアが優し気に微笑む。しかしすぐに厳しい眼差しに変わると、凄みを利かせた声で続けた。
「そこで死んだ仲間に詫びてから、地獄に堕ち直せ!」
横薙ぎに払われたカットラスが、一刀の下に敵船長の頸を飛ばす。吹き出した紅い血が周囲の捕虜たちに降り注ぎ、ヴィトーリアの顔にも付着した。妖艶に嗤いながら、その血を指で拭って舐める。
「よーく考えろ。時間はいくらでもやる。――連れていけ」
ヴィトーリアが命じると、船員たちが捕虜を促して立ち上がらせた。そのまま渡し板を使ってシルヴェリオ号へと移動させていく。残った船員たちが、船倉に下りて酒や食料、水などを運び始めた。
「ねえ、姐御。この船はどうするの?」
その様子を眺めながら、ステラはヴィトーリアに訊いた。すぐに動かせる状態ではなく、物資を移動しているところから見ると、捨てていくように思える。
「墓場にする」
「墓場……?」
不思議そうに首を傾げて見上げるステラに、ヴィトーリアはどこか寂し気な微笑みを浮かべながら言った。
「アタシらの流儀で、葬式をするのさ」
その言葉の意味は、それからしばらくしてわかった。人と荷がすべて移された後、敵海賊のものだった船には、火が放たれた。
死んだ者たちを焼いて葬送する、巨大な炎の塊。ステラたちはそれに向かって十字を切り、各々の神の下での安息を願いながら、その場を離れた。