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落日の紅が映す心の意味は  作者: 月夜野桜
第四章 その涙は罪を洗う
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 サン・マルコ広場の海の前で、処刑台に吊るされたヴィトーリアは語り続けた。ドゥカーレ宮殿の柱の陰に隠れ、その話に耳を傾けながら、ステラはじっと機会を窺う。


「アタシを拾ったのは、シルヴェリオ・テッラノーヴァと名乗るスカした海賊でな、ヴェネツィア人を自称していたが、ありゃイスパニア生まれじゃないかと思う。へったくそなヴェネト語でなあ。まあ、海賊の割には紳士的な奴で、アタシの事情を色々と聞いてくれたよ」


 ここからが大事なところ。いざという時すぐ動き出せるよう、ステラは服の下に忍ばせたスローイングダガーに右手を掛けた。


「しばらくは船にいろって言われたよ。エーゲ海の島々の統治は、実質的にはまだヴェネツィアが行っている。どこかに流されたと考えて、捜索しているかもしれない。上陸するのは危険だと。最初はアタシを騙して慰みものにでもするつもりかと思ったが、指一本触れてこなかった」


 ステラの視線の先で、処刑台の下の執行人が身動ぎをした。向こうも備えている。ヴィトーリアの発言次第では、すぐさま足場を外し、死刑を執行するために。


 その動きを慎重に監視しつつ、ヴィトーリアの昔話に耳を傾け続けた。


「しばらくして、船員たちが街で情報を仕入れてきた。アタシの父は、反逆罪で処刑されたと」


 ダガーを握る指に力が籠もる。執行人が足場に手を掛けたのが、兵士たちの隙間から見えた。判事の顔にも緊張が走っている。


 しかし、その先ヴィトーリアの口から出た言葉は、ステラにとっては意外なものだった。


「まさか父がオスマンと誼を通じるつもりだったとはなあ。心底見損なったよ。青年派の代表として、国のために尽くしていると思い込んでいたのに。国を売って、自分だけオスマンでいい身分を手に入れようなんてなあ」


 老人派の陰謀の話が出てこない。父の裏切りを本気で信じているかのような言い分。


 恐らく判事や執行人にとっても、想定外の発言だったのだろう。拍子抜けしたような、それでいて不審そうな表情に変わって、ヴィトーリアの話を聞き続ける。


「アタシはもうヴェネツィアには戻れないと知った。シルヴェリオの奴は、イスパニアかフランスまで連れていってくれると言ったが、アタシは船に残る道を選んだ」


 そこから、シルヴェリオとの思い出話が続いた。ヴィトーリアは、いつか見た乙女のような表情をしていた。当時のことに想いを馳せているのだろう。まるで目の前にシルヴェリオがいるかのように、恍惚とした表情で語る。


「男だけの海賊船で、女のアタシが身を守るのは難しい。だがアイツは、海賊のくせに妙に紳士的な奴でなあ。一切手を出すことなく、特別扱いして守ってくれた。海賊なんてのは嘘だと思った。アタシには英雄に見えたさ。オスマンの船だけを襲い、奴隷たちを解放していた。当然船の皆にも慕われていた。アタシもいつの間にか、アイツに惚れちまってた」


 ヴィトーリアは、やはりシルヴェリオのことを深く愛していた。一人の女として。船の上で色々な人たちに聞いた断片的な話から、感じていた通りだった。


 それでも彼女が女を捨て、船を降りなかった理由は、今ならステラにもわかる。ステラにとってのヴィトーリアが、ヴィトーリアにとってのシルヴェリオだったのだろう。


「その後、オスマンが神聖ローマ帝国と和平条約を結ぶと、エーゲ海方面への圧力が強くなった。キプロスの獲得に興味を持ったらしいな。バルバリア海賊もよく現れるようになって、イスパニアの影響の強い、マルタやシチリアに拠点を移した」


 それは聞いた。何故神聖同盟の艦隊に参加するのか訊ねた時、教えてもらった。


「そこでも、オスマンの支援を受けたバルバリア海賊との抗争が待っていた。その最中、シルヴェリオの野郎は死んじまった。当時右腕的存在になっていたアタシは、生き残った奴らをまとめて、地中海から逃げ出した。それで、海賊の女船長ヴィトーリアの誕生ってわけさ」


 それも聞いた。最初から知っていた。ステラが知っていることだけを、知っている通りに、ヴィトーリアは語っている。たった一つのことを除いて。老人派による陰謀の話。それだけは、ヴィトーリアは口に出さなかった。


 知らなかったのだと、ステラは結論付けた。ヴィトーリアは知らなかったのだ。あれがジャンドナート家と老人派による陰謀だったのだということを。


 そして自分も知らなかった。その陰謀の証拠となる、イスパニア王への偽の親書なんて、ヴィトーリアは最初から持っていなかったことを。


 いつしか、ステラの眼からは、涙が溢れて止まらなくなっていた。翠の瞳は大粒の水滴で歪み、大声は上げぬよう注意しつつも、幼子のように泣きじゃくった。


 自分のしでかしたことの意味を、やっと知った。もっと早く違和感を抱いていれば良かった。そんなものが手元にあるのなら、八年も隠したままにしておくわけがないと、契約を結ぶ前に気付くべきだった。ヴィトーリアが海賊として生きていく必要などないという考えに、行きつくべきだった。


 ジャンドナートは知っていたに違いない。ヴィトーリアは恐らく、そんなものを持っていないと。だが保身のため、念を入れて探させたのだ。最終的には本人の口封じもしてしまうつもりで、確実に捕らえられる機会をも待った。


 そうすると、あの箱の中身は一体何だったのだろう。開封していなかっただけで、本当に証拠が入っていたのだろうか? それとも――


「ステラ・アルベルティーニ。例の箱の回収と、本人の逮捕ご苦労だった」


 声を掛けてきたのは、シニョーリア・ディ・ノッテの諜報員の一人。ジャンドナートの息のかかった者で、ステラの教育や、ヴィトーリアの下へ送り込むための手配もこなした人物だった。


「お父さんとお母さんは?」


 諜報員は後ろを指差した。ドゥカーレ宮殿の端、水路沿いの辺りにステラの両親が立っていた。かなりやつれた様子だが、弟や妹たちとの再会を喜んでいる。


 ジャンドナートは約束を守った。ステラの両親が背負った借金を帳消しにし、牢獄から解放してくれたのだ。


 しかしステラは、今になって疑問に思う。果たして父の船は、本当にバルバリア海賊に襲われたのだろうかと。あの残虐な海賊たちに襲われて、生きて帰ってきたのはおかしい。


 商品を仕入れるための金や船を借りた相手が、ちょうどジャンドナートだったというのも出来過ぎている。初めからすべて仕込みだったのかもしれない。ステラを操り、ヴィトーリアを陥れるための。こんな小娘ならば、ヴィトーリアも油断すると思って。


 こちらに向かって手招きする両親に手を振り返しながら、ステラは問う。一つだけ腑に落ちていないことについて。


「ねえ、箱の中身はなんだったの?」


「さあな。俺は見せてもらっていない。しかし、回収を命じていた例のブツで間違いないだろう。違っていたら、何か言われているはずだ」


 ではヴィトーリアは中身を知らなかっただけで、やはりあれは偽の親書だったのだろうか? それはまだ確定出来ない。ステラは代わりに別の質問をした。


「なんで姐御は、箱の中身の話をしなかったのかな?」


「施錠されたままだった。鍵は預かっていなかったのかもしれないな」


 確かに鍵は掛かっていた。しかし、あの時ヴィトーリアは、生命よりも大事なものと言っていた。中身を知らずに口にするとは思えない言葉。


「そう。じゃあ、別に処刑する必要はなかったんじゃない?」


「知らぬふりをしているだけかもしれん。あの状況では、迂闊なことは言えまい」


 諜報員は、今度は処刑台の方を指して答えた。確かにそう思える。処刑人が足場を少し押すだけで、ヴィトーリアの生命は終わる。


 どちらにせよ彼女を見逃す気はなかった。話そうとしたら、何か理由をつけてすぐに処刑してしまい、口封じするつもりだったのだろう。だから確定前から首に縄をかけ、即座に執行出来る状態で裁判が開始された。


 処刑台の上では、判事が判決文を読み上げている。


「以上をもって、情状酌量によって刑を減免した結果、それでも死刑は免れないと決定された」


 まだ足りない。酌量されたのは、ヴィトーリアが海賊にならざるを得なかった事情だけ。その後のヴィトーリアの行動が、特につい最近の行いが、酌量の対象になっていない。


 しかしそれですら、訴えようとしたところで、死刑が執行されてしまっていただろう。だからステラは何も言わずに待った。絶好の機会を、ただひたすら耐えて待ち続けた。それはもうすぐ目の前。


「一応訊いておくね。絞首刑に処しても生きていた場合、罪は許されるって法律だったよね?」


 不審気に眉をひそめつつ、諜報員が答える。


「一応そういうことにはなっているが……まさか!?」


 妨害される前に、ステラは迅雷のように動いた。懐から取り出したスローイングダガーを投げる。今まさに足場が外され、落ちていくヴィトーリアに向けて。その首を絞めるための縄を目掛けて。


 かなり距離はある。当て方が悪ければ、意図的に切ったと発覚してしまう。


 しかしこの想いはきっと届く。五か月かけて互いに育て合ったこの気持ちは、必ず届く。


 ステラの脳裏にこれまでの思い出が瞬時に蘇る。ヴィトーリアと、オスバルドと、カルロスと、ドミンゴと、そして船の皆すべてとの記憶。もう一つの家族との、幸せだった日々。


 自分は愛されていた。そして、自分も愛していた。


 それら万感の想いすべてを載せて、ダガーが鋭く飛んでいく。


 そしてステラの願いは果たされた。天は味方をしてくれた。家族を想う一人の少女の気持ちに、その愛情に、神は慈愛をもって応えてくれた。


「ば……馬鹿な、こんなことしてただで済むと……?」


 諜報員の目が驚愕に見開かれる。その先では、落下の勢いで首を絞めるはずだった縄が、途中で切れていた。生きたまま地面に叩きつけられ、横たわっているヴィトーリアの姿が、その瞳には確かに映っていた。


「あなたは何も見ていない。そういうことにしないと、地の果てまででも追って、その頸を掻き切る。それとも、今この舌を抜いてしまう方がいい?」


 翠の瞳を凍てつかせて、もう一本のダガーを諜報員の口の中に突っ込みながら、ステラは冷たい声で言い放った。見ていたのはこの男と、自分の家族だけのはず。他の皆の視線は、ヴィトーリアに集中していた。死刑執行の瞬間、余所見をしていた人間がいるはずはない。


 最後の仕掛けを発動させるために、ステラは柱の陰から飛び出した。予想外の事態に騒めく人々に負けじと大声を張り上げて、必死に訴える。


「神はお赦しになられた! 罪を認め、悔い改めたことによって、新しい生を過ごせとお示しになられた!」


 神の起こした奇跡。そう認識させる必要がある。群衆を同調させ、死刑のやり直しなど出来ない状況に追い込まなくてはならない。そのための仕込みは、既に終わっている。走り回ったのだ。ヴェネツィアの街の隅々まで、この瞬間のために。


「これは奇跡だ! その娘の言う通りだ! 神は生きろと仰っている!」


 群衆の中、最前線で聞いていた屈強な男が、ステラに同調してそう叫んだ。周囲の人々も身の上話に同情していたのか、どよめきながらも賛同を示し始めた。


 あと一押し。今真っ先に口を開いた男が、もう一度声を張り上げた。


「この女は、元は海賊だったのかもしれない。しかし今は、シロッコを倒した英雄だ! 俺は助けられたんだ。奴の船で奴隷として漕ぎ手をやらされていたが、この間のオスマンとの決戦で、この女とその仲間たちに救い出された!」


 男は約束を果たしてくれた。ステラはその大きな眼から涙が溢れるのを、留めることが出来なかった。


 ヴェネツィアに帰り着いた後、この裁判とは名ばかりの死刑執行が始まるまでの間、ずっと走り回ったのだ。きっといると考えて。あの時シャルークの船に乗せられていた奴隷が、一人くらいは帰ってきていると思って。


「俺も助けられた! この女が、シロッコの奴の首を掲げているところを見たぞ!」


 別の声。もう一人いたのだ。何百人も乗せられていたのだから、恐らくいるとは思っていた。ステラが見つけられたのは一人だけだったが、他にもいたのだ。


 群衆のどよめきは更に増し、口々に赦免を要求し始めた。オスマン艦隊を倒し、ヴェネツィアを救った英雄を助けろと。殺すことなど、神が認めないと。


 処刑台の周囲を守っていた兵士たちを押しのけて、群衆が詰め寄る。その中から、一人の女性が飛び出した。その腕には赤子が抱きかかえられている。


「私もトルコに売られていくところを助けられました! おかげで今は、この子を授かることが出来ました! その人は、ヴェネツィアの商船なんて襲ってません!」


「俺もだ! たぶんその女だ! さっき言ってた、シルヴェリオって奴の船にいたのを覚えてるぞ!」


 ステラの手の甲に、ぽつぽつと雫が垂れていく。目の前で繰り広げられている感動的な光景に耐え切れず、その場で手をついてへたり込んでしまっていた。


 かつてヴィトーリアに、シルヴェリオに助けられた奴隷たちが、何人もヴェネツィアに住んでいた。


 それは、ステラの想定以上の効果だった。一人でも同調してくれれば、群衆も味方してくれるのではないかと考えた。だから、先程のシャルークの船にいた男を見つけて、この場面で赦免を訴えるよう頼み込んだ。もちろん、彼は快諾してくれた。


 しかし、ヴィトーリアの家族はもっとたくさんいたのだ。一人なんかではなかった。十人も二十人もいたのだ。今やこの広場の人々は、ほとんど皆が彼女に味方していた。


 自分は愛されている。ステラはそう感じた。何度目かわからないその幸せな感覚に身を打ち震わせる。しかし、それ以上に愛されていたのだ、ヴィトーリアは。


 だからステラは――


「姐御ー!」


 天を仰いで、ありったけの大声を張り上げて叫んだ。兵士たちを押しのけ、群衆が壁を作って隔離するようにして救い出してくれた、ヴィトーリアの元へと走り寄る。必死に涙を拭い、それでも溢れて溢れて止まらないのを、もどかしく思いながら。


「ステラ……お前、よく来てくれたな……」


 それほど意外そうな顔はしていなかった。きっと見ていてくれたのだろう、当て舵のジェスチャーを。聞いてくれていたのだろう、あの後の海軍とのやり取りを。信じてくれていたのだろう、小さな家族のことを。


 手足を縛る縄をダガーで切りながら、ステラは言う。泣き笑いのような表情で見上げつつ。


「私なんか来なくても、きっと誰か助けてくれたんじゃない? だってこんなにたくさん家族がいるんだから!」


 眩しそうな顔で、ヴィトーリアがステラを見下ろす。たっぷりの愛情を籠めて、ステラは向日葵のように明るい笑顔を向けた。


「おい、道を開けろ! 英雄様のお通りだ!」


 誰の言葉かはわからない。しかし、その指示に従うようにして、奥のサン・マルコ寺院の方へと向かう道が開かれていった。兵士たちから守るようにして、皆が笑顔で、あるいは涙顔で壁を作る。


「さあ行こう!」


 ステラはヴィトーリアの手を取って駆け出した。人々の作ってくれた道を抜けて、寺院の前を通り過ぎていく。時計塔の横の小径に入り込み、その先は細い道が入り組んだヴェネツィアの街並みを抜けていった。


「次は船のみんなを助けなくっちゃ!」


 人が少ないところまで来てから、ステラが言う。まだこれで終わりではない。家族が沢山、牢獄に繋がれているはず。


「策はあるのか?」


「ないけど、姐御が考えて! お宝はまだいっぱい残ってるよ。それ使えばどうにかならない?」


「色々と工夫していたようだが、場所が知られた以上、しばらくあそこには近寄らない方がいいな……」


 想定外の答えが返ってきて、ステラは不審気に見上げる。優しい微笑を浮かべて、その亜麻色の頭をヴィトーリアが撫でた。


「心配するな。お宝の洞窟はもう一つあるのさ。あんなにたくさんは隠してないけどな」


 ぱあっとステラの表情が明るくなる。好奇心に輝く翠の瞳で、食い入るようにヴィトーリアを見つめる。


「どこにあるの?」


「ランペドゥーザ島を知っているか? マルタの西、アフリカ大陸との間にある島だ。そこに行って財宝を取ってきて、あとは金の力でどうにかしよう。奴らだってシャルークを倒した英雄さ。死刑はない。きっと酌量される。それだけでは解放されない奴がいたら、保釈金を払えばいい。無理ならば、次はヴェネツィアと戦争だ」


「か、過激すぎるよ、姐御……」


 冗談めかして言っているが、本気でやりかねないとも思える。家族のためならどんなことでもやってしまいそうだ。『アタシに続け!』などと言って、ドゥカーレ宮殿に攻め込んでいく様子が目に浮かぶ。なるべくなら、穏便に済ませて欲しいとステラは強く願った。


「あ、そうだ。もしかして、私が探してたものは、そっちにあった?」


 ヴィトーリアが頑として箱を渡さなかった理由は、結局はっきりしていない。あれが別物であったというのなら、いくつでも可能性は出てきそうに思える。


「お前にとって大切だったものは、そうだ」


「あ、姐御……それ、もっと早く言ってもらえれば……」


「仕方ないだろう。海軍まで来るなんて、思っていなかったんだから」


 それはそうだった。あの場で最初に中身を教えてもらっていても、結局外に出たら海軍がいて、逮捕されていた。結果は大して変わらなかったように思える。


「じゃあさ、なんでさっき、老人派の陰謀のこと話さなかったの? 持ってたんでしょ、偽の親書?」


「仲間を裏切るな。それがアタシの船の唯一の掟だ。お前は必ず守ると思っていた。だから待っていたのさ、お前が助けてくれるのを」


 話そうとした瞬間、刑が執行されてしまうのを恐れていたのだろう。最後のあの状況。ヴィトーリアは、あれすらも想定していたのかもしれない。かつて助けた人々の出身地くらい、聞いていただろう。だから長々と身の上話をして、群衆の同情を誘った。


 それを利用し、どうにかしてステラが赦免に持ち込むと、信じてくれていたのだ。シャルークを討ち取ったことを自分から話さなかったのも、他人の口から語らせた方が真実味があるから。


「さあ、仲間と一緒に、奪われた箱も取り戻さないとな。アタシにとって一番大切なものは、確かにあれに入っているんだ」


「あれって、結局中身なんなの?」


 小首を傾げてステラが問うと、ヴィトーリアは視線を逸らしてぶっきらぼうに答えた。


「内緒」


 翠の瞳が悪戯っぽく輝く。今度こそヴィトーリアを出し抜いてやる。ステラはそう決意して走り出した。


「絶対先に取り返して、その秘密見てやる! ふおおおお!」


 やらねばならないことは山ほどある。まずは船の調達。それから信頼出来る船員。新しい船の家族を作らないといけない。そして助けるのだ。牢獄に捕まっているだろう、愛すべき家族たちを。


 自分は愛されているし、愛しているのだから。



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