お昼と 母さんが
注文から10分程度経った頃、父が料理を運んできた。さっきのを、注文したと言っていいのかは分からないが…。
「はい、お待ちどー。」
そう言って、父がテーブルに料理を置いていく。現れたのはカルボナーラとナポリタン、それに普通のサラダだった。俺がナポリタン、母さんにはカルボナーラのようだ。父が目の前に料理が置いていく。
なんとういか、ナポリタンもカルボナーラも、ザ・普通って感じだ。いや、別にちょっと変わった料理を期待したわけではないけど、これと言って面白くもなんともない普通の料理が出てくるのはそれはそれで寂しい。いやほんと、変わった料理なんて全く期待していないんだけどね。
「なんか普通ね。」
俺が料理を見つめていると、対面に座っている母さんがそんな言葉を放った。
「それはそうだろ。」
父が冷静に母さんにツッコむ。それはそう、なんだけどどうせなら…
「どうせなら面白いの食べてみたいじゃない?」
そうなんだよ。ベタと言うか、ありきたりな料理も捨てがたいんだけど、せっかくの外食なんだから一風変わった料理だって食べたいんだよ。いつも、外食してるみたいなもんだけど。
「面白いって何…?」
父が冷静に、いやちょっとあきれてるかのように返してくる。分からないかなぁ、この気持ちが。
「知らないわよ、そんなの。」
「知らないのかよっ!!」
「当り前じゃない。そんなの私が知ってるわけないじゃない。私が見た時に”面白い”と思うものが面白い物なんだから。」
「そ、そうか…。」
母さんの癖理論にまた父が悩まされている。可哀相に。
でも、ナポリタンは面白くないよな~。う~ん。
俺がそんなことを考えてたら、ガシッと頭に父の手が乗せられた。そして…
「ナポリタン、そんなに嫌いだったか?」
そんなことを聞かれる。でもそっちじゃないんだよなぁ。単純に…
「面白くないなって…」
「お前もか…」
なんでか父が呆れている。なんか変なことでもあったのかな。
そうか…
「とーたんがこれ食べて、僕が新しいの…」
「おいっ!」
「これだっ!」
「違うからなっ!!」
いい案だと思ったのに何故か止められてしまった。なんでだ。せっかくの斬新な案を。
「あらっ、それいいわね。私も…」
「しないからな。絶対に、しないからなっ!」
「「冗談だったのに…」」
「嘘つけっ!」
ほんと、冗談だったのに。まぁ、良いよって言われたら、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ考えたけど。
こうして、父は仕事へと戻っていった。
父が去ってから、俺と母さんは普通のご飯を食べている。さっきまで、普通、普通と普通であることをちょっと普通に馬鹿にしてたけど、やっぱり…
「おいしいね。普通に。」
普通においしい。今まで普通であり続けた普通の料理なんだから、そりゃー普通に食べてみると普通においしい。それは普通に不変なんだから普通に決まっている。何言ってんだろ。
「そうね、ぼちぼ…」
俺の言葉に母さんがきっと普通と返そうとした時、さっきまでここにいた人の声が遠くから聞こえてきた。
「これはな…」
「そうなんですね。」
父が若い女の子に仕事を教えているようだ。ちゃんと仕事を教えていて、父も頑張ってるなと俺が思っていたら目の前の人からカチャカチャという食器と食器が当たる物音がし始めた。さっきまでそんな物音してなかったのに。
「どうしたの?」
「別に―。」
俺が尋ねても、なんともないといった風に返された。でも、すごくつまんなそうな言い方だったから、絶対何かあるな、これは。
そう思ったけど、何があったのか聞きだすのも難しいから、食事へと戻る。
なんかこの料理…、すごいトマトケチャップの味がするんだけど。
そんなことを思っていたら急に…
「おいしくない…」
母さんがそうつぶやいた。始まったよ。さっきまで普通に食べてたくせに。そして母さんは店員を呼ぶために手を挙げた。それを見てか、父がすぐにやってきた。
「どうした?何かあったのか?」
「おいしくない…」
「ちょっ、お前!ここ店内だぞっ。」
父が母さんの急な言葉に動揺する。
「だって、おいしくないもの…」
でも母さんはそれを気にせずもう一度つぶやく。
「はぁ~」
父はそうつぶやいてから額を手で押さえる。そして、母さんからフォークを奪ってカルボナーラを少しだけ自分の口に運ぶ。
「そんなにまずいか?普通にいけると思うけど…」
そう言いながら、父が右だけで咀嚼をする。父よ、母さんはまずいまでは言ってないぞ。
「ルシアももう一回だけ食べてみろよ。」
そう言って、父がスパゲティをフォークで巻いて母さんの口へと運ぶ。そして母さんがそれを小さく口を開いてから含む。
「どうだ?おいしいか?」
父の言葉に母さんが小さく頷く。
「そうか。なら、俺は仕事に…」
母さんの反応を見てニコッとしてから父が席を離れようとした時、母さんが父の袖をつかむ。
「どうした?」
急なことで、父が母さんの方へ振り返って尋ねる。そしたら…
「食べさせて。」
母さんがそんなことをつぶやいた。
「なんで?」
「だってそっちの方がおいしいから…」
「は?やだよ。俺がスーベルさんに怒られちゃうだろ?」
「じゃぁ、怒られて。」
「お前は鬼か?」
鬼です。
「だって、お客さんを満足させるのも店員さんの義務でしょ?だからいいじゃない。」
「良くねぇよ。」
「なんで?お客様は神様でしょ?」
「そうだけど…」
父が母さんの暴論に困っている。まぁ、いつものことか。
「分かったわ!」
急に母さんが声を上げた。父は恐る恐る尋ねた。
「ど、どうした?」
「あなたが休憩取ればいいじゃない。それで解決よね?」
ハハハハハ
父の口からそんな渇いた音が漏れた。
こうして、父は休憩を取らされて、母さんの口にカルボナーラを運んだ。
いやぁ、なんやかんやあれだよね。なんていうか、ラブラブだよね。ほんとに。




