いつもの日常 朝ごはんまでに
父と母さんがトイレに仲良く入っていったのを確認したら、俺は父がさっきまで座っていた席に座る。トイレからは和気あいあいの声が響き渡る。男の「ぎゃー」とか「助けて」とかだ。壁に何かを打ち付けているような音もする。仲良いな、まったく。これは二人目もそのうち生まれそうだ。違うか。
ま、終わってしまったことを気にしてもしょうがないので、目先のことに目を向けよう。
「ママさん、今日の朝ごはん、なぁに?」
父の安否なんかより、今は朝ご飯だ。
「ルートちゃんも相変わらずね。もうすぐ準備終わるから、それまでのお楽しみよ。あと、今日はルートちゃんの好物よ。」
ママさんがそう言って離れていく。お腹減ってるときに変に期待感あおるの止めてよ、なんか余計にお腹すいてくるもん。しかもスパイシーな香りがここまで漂ってくるし。ゲームの発売日前に新しい情報がたくさん出てくるけど、大事な情報は秘匿されてる時もこんな感じだった気がするよ。発売日が恋しかったよなぁ。あぁ、焦らしプレイか。確かにそそられるけど、焦らされる身にもなってほしいよ。あぁ、あほなことを考えるのはいい加減止めよう。お腹がすくだけだ。
ご飯のことを忘れるために、さっきからずっと視界の端で動いているものに目を向ける。やっぱりミーケだった。彼女が正面、横、後ろとガラスに映った自分を確認している。ほんと、しょうがないなぁ。
「やっぱその服かわいいよね。」
「ね!よっぱそうだよね。ママにたくさんおねだりしたんだ。がんばってよかった。」
服を褒められて嬉しいのだろう。くるくる回って服を見せてくれる。全体的に黒くて、前方のエプロンみたいなとこと裾だけが白だ。彼女のくるくると回る仕草を見てると妹を思い出す。よく新しく買った服をくるくると回って見せてくれてたっけ。懐かしいな。ミーケがもっと褒めろと目で要求してくる。まったく、しょうがないから乗ってあげるか。
「やっぱミーケはかわいいね。顔はもちろん、髪の色はきれいな茶髪で枝毛なんてまったくないし。それに、笑顔もめちゃくちゃかわいくて、性格も明るくて話しやすい。その服が似合うのだって、ミーケのポテンシャルがあるからこそだよ。」
俺の言葉に最初の方は「ふふーん」とない胸を張って、ドヤッっていたが、途中から段々照れ臭くなってか段々と顔が赤くなっていく。
「あーあ、将来こんな子と一緒になれたらなー。」
「に゛ょ!?」
俺の冗談に大きくてぱっちりとした目が、より大きくなってこっちを向く。
「ルートちゃんなら良いのよ、もらってくれても。」
気づいたらママさんがこっちに帰ってきてたみたいだ。
「ほんとですかっ?」
「ん゛ん゛っ!!??」
ママさんと俺のやり取りにミーケが声にならない声を上げる。その声にママさんと俺はついつい声を出して笑ってしまう。冗談だと気付いてミーケは顔が真っ赤になってしまう。さっきから真っ赤だったが。
「もー、ルートもママも冗談ばっかりやめてよっ!」
「はいはい。でもルートちゃんならウェルカムよ?」
「考えときますよ。」
俺の無難な返しに「ほんと、この子は。」という言葉を残して、ママさんはパパさんの方へまた行ってしまった。
ママさんが向こうへ行ったタイミングで、ミーケがポケットから何やら変な瓶を取り出した。さっきまでの可愛らしい彼女とは打って変わって、顔に陰がさしていて悪い顔をしていた。切り替えがお早いこと。
瓶の中身は赤い。それだけで彼女の意図を理解した俺はそれを受け取り「りょーかい。」と返事をした。
そんな彼女とのやり取りの後すぐに、朝ごはんが出てきた。今日の朝ごはんは野菜たくさんのカレースープとパンだった。具がしっかりと煮込まれていて、スープの味が具にまでちゃんと浸透していた。おいしい。
朝ごはんを満喫していると、両親が帰ってきた。母はなんだかすっきりとしていて、父はボロボロ、もう満身創痍だ。ただ父よ。まだ母さんの分しか終わってないらしいよ。