お買物と わんっ
2話目
悲しい事件を目のあたりにしてから数分後、どうやら俺の至高のひと時にも終わりが来てしまったようだ。俺の小さな主が軽やかに体を上下させながら、こっちに向かって手を振っている。座っていられるのも、もう終わりなのか。
いや、まだ手を振ってるだけで、こっちに来いって意味じゃないかもしれない。そうだ、きっとそうだ。ただ、ちょっと寂しくなったから、手を振っているだけだよな、きっと。これは俺も手を振り返せばいいだけだな、うん。そうに決まっている。
そう思って、俺はご主人様へと手を振り返す。これで主も満足してくれるだろう。
俺が手を振り返すと、彼女の楽しそうな動きが一気に停止した。おや?どうやら違うようだ。おかしいな。これで合ってると思ったんだけど…。
動きを止めた彼女は、よく見ればなんだかこっちを冷めたようだな目つきで見てきている気がする。でも遠くて、はっきりとは見えない。きっと気のせいなんだろう。俺のかわいい幼馴染があんな冷たい目をするわけないもの。
俺がそのまま静観していると、彼女が右手を自分の顔くらいまで上げてこっちに向かって人差し指を”クイックイッ”としてくる。なんだあれ?わからない。あれにどういう意味があるのだろう。
何度か指クイッを彼女は繰り返していたが、俺に意味が届いてないことを理解したのか、指クイッを止めた。
ふふふっ。諦めたか、そんな小手先の呼び方で俺がこの幸せを捨てると思うなよ。俺を動かしたいのなら、せめて君本人が来たまえ。ハハハハハ。
俺がそんなことを思っていると、彼女が何やら店員さんと話している。二、三話して、手に持っていた服を店員さんへと預け、こっちに…。
やばいっ!彼女が来る。逃げなきゃ。
だけどおしりが椅子を決して離さない。
なんでだっ。これが椅子の魔力とでも言うのか。くっ、図ったなっ!
「ねぇ、ルート…。」
俺が必死に足掻いていたら、目の前に飼い主様がいらっしゃった。
「なんでしょうか?わんっ。」
「かわいい…」
おっ、許してくれるか?
「じゃなくて、呼んでるのに何で来ないの?」
ちっ。ダメか。
「あれ、呼んでたんだっ!ごめん、気づかなかったよ。」
「嘘つけ。」
ギクッ。
ばれて体がびっくりするけども…
「そ、そんなことないよー。」
「ふーん…」
ミーケが全く俺の言うことを信じてくれる雰囲気はない。だけど俺には、さっき見つけた必勝法があるんだよ。
「ほんとだわんっ。許してわんっ。」
ちょっと恥ずかしい気もすけど、俺は子供。だから恥ずかしくない、恥ずかしくないもん。
プルプルとミーケが体を震わす。そして…
「やーっ、かわいいぃ♡」
効果は抜群のようだ。恥を捨てた甲斐があるよ。
「次から気をつけるわんっ!」
俺はミーケへと純粋できれいな瞳をぶつける。心が多少汚かろうがそんなもん知ったもんじゃない。大事なのは見てくれだ。
「~~~~~っ!?」
ミーケが声にならない声を上げる。いったい、何倍弱点だったんだろうか。そして…
「今日だけだからねっ!」
彼女からお許しをもらった。これでどうやら、お咎めはないようだ。やりー。
そうして、俺はミーケにお店へと連行されていく。ま、それはしょうがないか。俺がそう思っていると、彼女の口から…
「今日、首輪でも買って帰ろうかなー…」
はぁっ!?
「かわいいし、逃げられないしで一石二鳥。これは買うしか…」
「嘘だよね?ねぇ、嘘だと言ってよーーっ!!」
「………」
彼女は何も言い返してくれなかった。
明日以降もとりあえず17




