ホットケーキ キツネ色
本日3話目
俺と父が気まずい雰囲気の中いる時に、この雰囲気をぶち壊してくれる人がいた。
「みんなーっ、できたわよーっ!」
台所から、母さんのそんな言葉が飛んでくる。一瞬、あっ、救われたと思ってしまった。でもすぐに思い出してしまう。母さんが今何をしていたのかを。この言葉は、俺たちを救ってくれる言葉なんかじゃなく、俺たちをどん底へと叩き落す地獄の…。
母さんの言葉を聞いた直後、ミーケと父に動きがあった。ミーケはより三角座りを固くして、まるで脅威から身を守るように、父はさっきまでしていた両手で頭を抱えていたポーズをブルブルと震えながら再度とりだす。
あぁ、良かった。死に近いのが俺だけじゃなくて。俺には仲間がいる。
そんなことを思っていたら、母さんが魔法で4枚の皿を浮かせてこっちへやってきた。そして…
「これはあなたので、これは…」
母さんはそう言いながら、俺たちの目の前に皿を置いていく。
コトッ
そして、俺の目の前にも皿が置かれてしまった。俺は恐る恐る皿をゆっくりと視界に入れる。そこにあったのは、真っ黒い円盤だった。茶色い部分が全くといってない。俺の知っているホットケーキとは全く違う。もしかして、この色が本来の色で、俺の知っているのが別物なのか知れない。
「さぁ、召し上がれ♪」
俺が真っ黒いものを眺めていたら、母さんから言葉が飛んできた。
召し上がれ?これを?食べるの?捨てるのと勘違いしてるんじゃないのか?
「ルート、早く食べないと、冷めておいしくなくなるわよ?」
俺がじっと動かないでいると、母さんから急かす言葉がかけられる。
おいしくなくなる?こんなの温くても、冷めててもどっちにしてもまずいだろ。なんでこんなものを口に入れないといけないんだ。俺何か悪いことした?
ただ、これ以上時間をかけても、なんもことが良い方に転ぶことなんてない。だから俺は皿に乗っているフォークを掴む。そして、ホットケーキへとフォークを入れる。
ガリッ
フォークとホットケーキの接しているところからそんな音がした。違う。俺が知ってるホットケーキが割ける音じゃない。こんなの人が食べていい音なんかじゃない。
嫌だ。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。食べたくない。絶対に食べたくない。
俺は母さんの方へ視線をやる。母さんはずっと、俺が食べるのをにこやかとしながら眺めている。ははははは。こんな視線の中ごねる?無理だよ。
俺は諦めて、一口にした例の物を口へと持っていく。自分のが手がブルブルと震えているのが分かる。でも、もうどうにもできない。だから俺は口の中へと一気に突っ込んだ。
バリバリ ガサガサ ジャリ
噛むと、俺の鼓膜へと咀嚼したときの音が響いてくる。でも俺の知っている食べ物の音じゃない。こんなのただのコゲだ。噛めば噛むほどに味が口の中に広がっていく。
焦げてできる圧倒的な苦み、それが口の中のすべてを蹂躙する。ホットケーキの甘み?そんなものこれっぽちりも感じれない。だから全く、これぽっちもおいしくない。いや、”おいしい”という言葉と比べること自体が”おいしい”という言葉に失礼なのかもしれない。
俺はただただ、圧倒的な苦みに我慢しながら物を飲み込むために小さくしていく。最初は噛むのを諦めて、飲み込むことも考えた。でも、最初の一噛みで味わった苦みで脳が、体が飲み込むことを拒否してしまった。だから、噛んで小さくするしかない。だから、俺はずっと噛み続ける。なんでか視界が歪む。
ようやく固形物が口の中からなくなった。ただ、さっきから飲み込もうとしても、全く飲みこめない。ずっと、喉から口の中へと戻ってくる。俺は大変な勘違いをしていたみたいだ。固形物だろうとなかろうと、最初の苦みで体が拒否してしまっているのだから、飲みこみやすさなんて今更もう関係なんてない。
でも、この苦みをずっと口の中に入れておくなんて嫌だ。だから俺は意を決して、意を決して苦みを飲みこむ。喉を通って、体の中心へと毒が回ってしまった感覚だ。味覚がないはずの胃の中でも、苦みが感じ取れる気がする。なんで、俺がこんな辛い目に合わないといけないんだ。
俺がそんなことを思っているとき、目の前と横にいる女たちから、信じられない言葉が飛んできた。
「「おいしーーーっ!!」」
はっ!?これがおいしい?
意味が分からない。俺は自分の耳を疑ってしまう気持ちで、女性陣を見る。そしたら、二人の皿の上にはきれいな茶色色の生地が乗っていた。
俺や父が今食べている、真っ黒で厚さなんてほんとぺっらぺらのただのコゲとは違う。色はきれいなきつね色で、厚さなんて数センチはありそうなほどに肉厚だ。しかも、彼女らがフォークを当てる度にプルンプルンと揺れている。それが重ねて二枚、斜めに倒しているのが一枚ときれいに飾られている。
なんだあれ?俺や父のとは全く同じものに…、同じ人が作ったものには到底見えない。だから、俺は自分の疑問を晴らすために、俺の身体に毒を追いやった人物へと真相を尋ねる。
「ねぇ、それ、何?」
心が少しやさぐれてたのかもしれない。ちょっときつい口調になってしまった。でも…
「ん?ホットケーキだけど?」
母さんはなんも気にした様子はなく、ほっぺたに手を当ててすごくうっとりしたまま、俺に返事してきた。
そんなの知ってるわ。こっちのゴミとの格差を聞きたいんだよ。
「なんかそっちの方がおいしそうじゃない?」
「だって…」
母さんがちょっともったいぶるように溜めてくる。
「だって?」
「ケーキ屋さんのやつだもの。おいしいに決まってるじゃない?」
はーーーーーーーーっ!?なんで、自分らだけケーキさんのやつ食べてんだよ。こっちはコゲなのに。ふざけてる!俺だって、そっちがいいよ。
「なんで二人だけケーキ屋さんのなの?おかしくない?」
俺は母さんへと理由の言及を要求した。そしたら…
「ほんとはね、三人分のホットケーキ買ってたのよ。でもオヤルが帰ってきちゃったから、しょうがなく、ね?」
母さんの言葉を聞いた瞬間、俺は父の方へと視線を向ける。
こいつが…、こいつが早く帰ってきたせいで俺がこんな素材ゴミを食べる羽目になったのか。憎らしい。なんで。なんで。なんで。なんで!!!
俺の視線が相当きつかったのか父が俺に向かって首を振ってくる。
(俺っ!?俺、別に悪くなくね?)
俺は皿を父の方へと差し出す。
(知らない。そんなのどうでもいいから、とーたん食べて!)
さっきよりも必死に父が首を振ってくる。
(俺も嫌だよ。こんなの食べるなんて。)
父も食べるの嫌だったみたいだ。それはそう。
俺と父が二人で無言で話し合っていたら、母さんが割り込んできた。
「こらルート!好き嫌いしたらダメでしょっ?」
こんなのに好きも嫌いもねぇよ。あるのはただ、まずいだけなんだからっ!!!
こうして、俺の嫌いな食べ物が一つ追加された。




