ホットケーキ ミッション
本日3話の1話目
「お腹すいたわねー。」
お昼と夕方の真ん中の時間、言い方を変えるならおやつの時間、自宅のリビングにいた俺たちへ母さんのそんな声が聞こえてきた。
「そうか?」
いつもなら仕事に行っているはずなのに、何故か家にいる父がそう返す。今は俺とミーケ、それに母さんと父の四人でリビングでのんびりとくつろいでいる。
「じゃー、あなたのはなしね。」
父のなんも考えてない一言に母さんがカウンターを食らわす。
「なんでだよっ!」
「冗談よ。もー、そんな本気にしちゃって。」
父のツッコみに母さんがコミカルに返す。でも母さんのことだから、割と本気だった気がする。
「ほんとか?」
だって、俺と同じ考えの人がいるんだもん。まっ、そんなことはどうでもいいや。問題は今日のおやつが何かってことだ。
「かーたん、今日のおやつ何?」
「ホットケーキよ。」
おっ、ホットケーキか。いいね。あのフワフワでプルンプルンの柔らかい触感に、ほのかに香るバニラの風味。その柔らかい風味を我が物顔で蹂躙するバターやはちみつ達。あ~、思い出したら、ほんとに食べたくなってきた。
でもこれには問題がある。そう、とてもベタな問題が。それは…
「もしかして、かーたんが作るの?」
「「っ!!」」
俺の心配した言葉に、ミーケと父は声には出さなかったが分かりやすい反応をした。そう、このままではまずいと。事態だけではなく、味までも。
「そのつもりだけど、どうかしたの?」
母さんが平然と返してくる。その言葉を聞いた瞬間、俺とミーケ、それに父が一斉にアイコンタクトを始めた。
俺がミーケと父を見つめる。
(やばいよっ! 二人ともどうするの?)
ミーケが決意のこもったまなざしで見つめてくる。
(おばさんに料理させるのは絶対ダメ。)
それに父が頷く。
(だな。)
でも、問題はどう回避するかだ。俺は軽く首をかしげる。
(だよね。でも、それならどうするの?)
父が一度、目をつむって何かを思案する。そして、一瞬だけ外を眺めた。
(外で食べるしかないな。)
((なるほど。))
俺とミーケの頷きに父が頷きを返してくる。
(なら、その方向で。)
((うん。))
こうして、俺たち三人のミッションがスタートした。ミッションの内容は簡単。母さんを厨房に立たせないこと、すごくシンプルだ。さぁ、初手にどう動くか。
だが…
「ねぇあなたたち、なんでみんなして目配せしてるの?」
「「「!!!」」」
まだ何にもしていない俺たち三人に激震が走る。
「い、いや、なんでもないぞ。」
父がなんとかごまかす。ほんとになんとか。
「あなた、なんでそんなに動揺してるの?」
ビクッ
確信を突かれたからか、父の体が一瞬跳ねる。
やばい、このままじゃ。頼む、頼むから耐えてくれ。
「し、してないけど。」
「そう?」
父が多少動揺するも、なんとかごまかしてくれた。
ふー。さすがだ。今まで乗り越えてきた修羅場の数が違う。さて、ここからだ。俺は母さんの方へ視線を向ける。
「ねぇ、かーたん、材料とか買ってるの?」
「「!!」」
二人から驚愕したかのようなシグナルが届く。そう、ウチの冷蔵庫はいつも間食以外が入っているところなんて見たことがない。だから、そもそも材料なんてないはずだ。そして材料がなかったら、そもそも料理なんてできない。ふふふ、俺だって無駄に五年生きてるわけじゃないんだ。
しかし、俺の思惑は簡単に崩される。
「それが今日ね、ダビーがくれたのよ。だから、せっかくだから作っちゃおかなって。」
「「「っ!??」」」
なんだ、と!?くっ、パパさん、なんでそんな惨いことを。
俺たち三人はまた見つめ合う。
(((どうする?)))
みんないっせいに、同じシグナルを飛ばす。そしてこれが意味しているのは、誰も打開策をもっていないということ。だが、俺たちは諦めるわけにはいかない。だって俺は、料理とは言えないものを口の中に入れたくないんだから。
(なんかないの?)
二人が諦めた視線をする中、俺だけが真剣に見つめる。そして、俺の視線に当てらえたのか、二人の瞳に力が戻った。よし。まだ、ここからだ。
俺たちがそう思った瞬間…
「どうしたの、ミーケちゃん?なんか、さっきから視線が右往左往してるけど。」
((っ!?))
俺たちが息を吹き返した瞬間に母さんが城の一角へと攻め込みやがった。
「い、いやなんでも、ないよ。」
(ねぇ、どうしたらいいの?ねぇっ!)
ミーケがチラチラと必死に目でヘルプサインを飛ばしてくる。
くっ、なにか、何かないのか。
俺は必死に考える。でも、何も思い浮かんでこない。俺と父が頭を捻ってる間に、母さんから残酷な一言が落ちてきた。
「もしかして、おばさんの料理食べたくないの?」
母さんがシュンと寂しそうにミーケへ尋ねる。
その言葉を聞いた瞬間、ミーケが泣きそうな顔になった。母さんの手作り料理から逃げられないことを悟ってしまったのだろう。そして、必死に抗いたい気持ちを抑えるかのように、彼女がゆっくりと口を開く。
「ミーケ、おばさんの料理楽しみだなー。」
彼女の泣いてしまいそうな声が届いてきた。
あぁぁぁぁぁぁぁ。
最後には、母さんの嬉しそうな声と、ミーケの”はは”という断続的に続く渇いた笑いだけがこの場で音を奏でていた。
残り12、18時




