いつもの日常 朝のひととき
父とのルーティンを終えた頃、母さんが準備を済ませ戻ってきた。
「オヤル、やっと起きたのね。ルート、いつもありがとね。」
俺は母さんのお褒めの言葉に最大限の返事と笑顔で返す。二人の会話にオヤルも加わる。
「ルシア、そろそろルートの起こし方どうにかしてくれないか?最近そのせいで、頭痛と胸やけがひどくて。」
父は昨日も母さんとの禁酒の約束を破って、飲みに行ってたみたい。だから、その言葉を聞いた瞬間、母さんの顔がだんだんと笑顔になっていく。さっきまでぱっちりしていた目なんか、もう面影がないくらい細く、感情が消えてしまっている。これはやばい。だって母さん全く目が笑ってないもん。
「頭痛と胸やけねー。昨日の夜も相当楽しかったようね?」
「そりゃ、もちろん。あいつらときた、ら…」
母の表情に気づかず、問に父が調子よく口を滑らす。口が滑ったことに気づいて、段々と語尾が小さく、顔から汗が噴き出してる。体も震え始めてる。きっと酒のせいかな。だって優しくてかわいい母さんが怖いわけないんだから。だから父よ、死なないでくれ。
「ルシア、待って…」
オヤルの言葉が最後まで続くことはなかった。まず母さんの初撃のストレートが顔面に入って、父がソファごと吹っ飛んだ。父に反撃の隙を与えないために、母さんは腕で父の首を絞める。
キャメルクラッチにチョークスリーパー。さすが母さん、多彩だ。そのせいで、父の顔が段々と青くなっていく。父はさっきからずっと地面を手でたたいている。あれはなんの仕草なんだろう。なんか、父の顔がずっとこっちを見ている気がする。父よ、ごめん。口で言ってくれないと、わからないよ。あ、今しゃべれないか。
父の助けを呼ぶ仕草もむなしく終わる。そう、止めのジャーマンスープレックス。きれいに入った。さすが母さん、洗練されている。美しすぎて拍手してしまう。母さんもひと汗かいたからか凄く気持ちよさそうだ。
仰向けになったまま、さっきから父は全く動かない。ついにか。
「ようやくかしら。」と母さんが。
「かーたん、油断したらだめだよ。とーたん、しぶといから。」
「そうね。でも浮かれちゃうわ。保険金何に使おうかしら。」
母さんと将来についての大事な話を始める。俺は何を買ってもらおうか。そんな話をしてる最中に、転がってる死体から声が聞こえてきた。
「お、お前ら冗談だよな?、嘘だよね?」
声を聞いた瞬間、母さんから舌打ちが聞こえてきた。父にも聞こえたようだ。目から汗が出てる。
「る、ルシア?え?」
「モチロンヨ、アナタ。サイアイノダンナサマナンデスカラ。」
母さんはすました顔で平然と言い放つ。ただ、なかなかの棒読みだった。
「る、ルート?」
切実に何かを願うような目で父がこっちを見て言ってくる。
「とーたんより、おもちゃがいい。」
俺の言葉に、今にでも父が泣き出してしまいそうだった。ちょっとだけかわいそうな気がしてきた、ほんのちょっとだけ。母さんもおんなじ気持ちのようだ。母さんは救急箱を持ってきて父の手当てをしていく。頬が腫れてて、たんこぶがちょっとできてるみたい。
応急処置も終わって、母さんがなんか言おうとしてる。さすがに、やりすぎてごめん、的なこと言って、仲直りするんだろうなと思ってると、
「当分お小遣いなしね。」
わーお、辛辣。
「え?今、このタイミング?」
父もびっくりしたようだ。あっけにとられて、すごく間抜けな顔をしてる。そんな顔を見て、母さんは楽しそうに笑ってる。仲良いな。両親の仲睦まじい姿を見ていても良かったけど、そろそろご飯が食べたい。
「ねぇ、そろそろご飯。」
「そうね、遊びすぎたわね。」
「そうだな、行くか。」
こうやって俺たちは、朝の運動をしてから朝食へと向かった。




