母さんのお腹と 二人分
ブスー。
普通にソファに座っている俺の足に、ひじ掛けに背中を預けながら俺の足の上に足をのせている少女の顔からまるでそんな効果音が聞こえてくる。なんでこんなことになってしまったのだろう。ちゃんとお願い通り水は汲んできたのになぁ。しかも二回も。すっごい優しくないか?まぁ、そのうち一回は俺が飲んじゃったんだけどね。
彼女の顔をムッと見つめてみるだけど。目が合うとすぐに、そっぽむかれてしまう。どうやら自発的にのけてくれるのは当分先のようだ。
それにしても、ずっとミーケの足が視界に入ってくる。いい加減邪魔なんだけどなぁ、これ。重いし。口に出したらのけてくれたりしないかなぁ。それはないかぁ。逆にもっとやばくなりそうだよなぁ。母さんがキレ出すのと、よりミーケの顔が膨らみそうなのはなんとなく予想できるし。でもミーケの顔がこれ以上膨らんだのはちょっと見てみたい気もするんだよなぁ。どこまで膨らんでいくのだろう…、試してみたい。浮いたりしないかなぁ。
「………。」
その肝心のミーケはずっと黙ったままだ。機嫌取りした方がいいのはわかるけど、それが難しんだよなぁ。下手うつと、もっと機嫌悪くなっちゃうだろうし。一番楽なのはこのままでいることなんだけど、長引くことが多くて嫌なんだよなぁ。しょうがないかぁ。
俺は足をのけてもらうのを諦めてミーケの方をもう一度確認する。未だに顔がぷくっと膨れている。
ツンツン。
ぷくーっと膨れてる顔って、なんだか触りたくなるよねぇ。触ってみると思ったよりも柔らかい。押したら思ったより深く押し込めるけど、すぐに押し返される。ミーケが頑張ってやってると思うと、なんだか可愛らしく感じる。ほっぺだけじゃなくて、ミーケの顔全体を見ながらやると、押すと顔の反対側だけが大きく膨れるけど、またリスみたいに戻る。面白いなぁ。何度もつついてると、プッという音とともにはじけちゃった。あー。
「ル~トぉ、ミーケ怒ってるんだけど~。」
ミーケはそうは言うけど、すごく言い方が柔らかい。
「あっ、そうだったんだ~。」
「もぉ~。」
「ルートっ!!」
俺とミーケが座っているソファとは違うソファから俺を呼ぶ声が飛んできた。
「ミーケちゃんに、イタズラしたらダメでしょっ!」
声色的に俺を叱る声みたいだ。どうやらミーケの言葉を額面通りに受け取ってしまったらしい。俺とミーケは母さんの言葉を聞くや否や、母さんの方へ二人して振り向いて、母さんを見つめる。
「えっ!?あ、え゛?」
じぃ~~~~~~~~。
母さんの額から汗が流れ落ちる。
「もしかして私、何かしちゃった???」
元はあんたが発端だろ!!!
どうやら自分が何をしたか記憶になかったらしい。
母さんのポカから少し経った頃、玄関のドアのガチャッという音が聞こえてきた。
「ただいまぁ~~。」
玄関から聞きなれた男の声が聞こえてくる。どうやら父が返ってきたようだ。
「おかえり、あなた。今日は早かったのね。」
「あぁ、なんか昼過ぎから客足が少なかったから早めに上がることになったんだよ。」
スーベルさんのとこを手伝う日は、いつも夕方過ぎに帰ってきているから、今の時刻が15時前なのでいつもよりぼちぼちと早い。通いだしてまだそんなに月日は経ってないけど、もう戦力外みたいな扱いは受けえてないよね?さすがに…。
「そうなの…。ところで手に持っている箱はなぁに?」
父の右手には、洋菓子店で買い物をしたら入れてくれるような、厚紙の小さい箱を下げている。というか、その箱どこかで見たことある気が…。
「あっ、あぁ、これはなぁ…」
「もしかして、お土産っ!?」
母さんの瞳が一瞬で光輝く。
「ま、まぁそんなところかなぁ。」
「あなたにしては気が利くはねぇ。」
そう言って母さんが、父が持っているお土産を奪って、机の上で箱を開く。
「うわぁ、これってもしかしてケーキっ!?」
中に入っていたのは、箱の見た目通りケーキだったらしい。あぁ、前にシュークリームを買ったお店か。あの時は手持ちのお金が足りなくて、結局シュークリームを買ったんだよね、たしか。今回はあの時のちょっとした埋め合わせも入っているのかな?
「ああ、そうだよ…」
「すごくおいしそ…、ねぇ、あなた?…」
ケーキを見てテンションの上がっていた母さんの声が何故か一気に冷める。なんか、嫌いなものでも入ってたのかなぁ。でも、母さんが嫌いなものって聞いたことないんだけど…。さっきから父が微妙にしどろもどろなのも気になるし。
「な、なんだ?」
「なんで、ケーキが二個しか入ってないの?」
二個?二個!?????
家は三人家族なんだから、少なくとも三個以上はいるはずだんだけど…。
「え、あぁ、えっとなぁ…」
「何?はっきり言ってよね。」
母さんの口調が段々ときつく、責めたてるような言い方になっている。
「えっ、えっと…、おっ、お土産に、皆へのお土産になっ。」
「ふーん、で、ほんとは?」
「ほ、ほんとに何も…。」
「それだと二個なわけないでしょ。で?」
母さんが父を鋭い眼光で見つめる。これはそう簡単には逃がしてもらえなさそうだ。
「………。」
父はだんまりだ。
「もしかして、この前のステーキと関係があったりしてないわよね?」
ピクッ。
父の体がかすかだけど跳ねた。
わぁー。ステーキの仕返しにお腹の弱った母さんの目の前でケーキ食べてやろうってことか。ようやるねぇ。
母さんが父の方へと近づいて、父の瞳をじっと見つめる。
「へー。」
「いやぁ、あのぉ…」
「何?」
顔と顔とが近すぎて、ちょっと怖い。いや、一番怖いのは父なんだろうけどね。
「る、ルシアもケーキ食べるか?」
「私がお腹痛いの、ちゃんと分かってそう言ってるのよね?」
「そっか、ルシアはお腹痛いんだったな…。」
父がまだ頑張って、”忘れてた”みたいな体を取っている。ただ、ちょっとだけ声が震えていて、緊張しているのが伝わってくる。いや、単純に至近距離で見つめられて怖いだけの可能性もあるけど。
「白々しい…。」
「うっ…。」
二人が見つめ合い、”つー”っと父の頬に汗が垂れているのが見える。そして…
「ルートっ!」
「はいっ。」
急に母さんが俺を呼んだ。急なことで、びっくりしたものの…
「これ、ミーケちゃんと二人で食べていいわよ。」
やったね!
「ちょっ!?」
「うん、わかったー。」
「まっ…」
父が必死に止めよとしてくるが…
「あなた、うるさい。」
母さんに止められてしまった。
こうして、俺とミーケの二人でケーキを食べた。目の前で”両親”がうらやましそうに指を咥えながら。




