母さんのお腹と ミーケが
今は正午、母さんがソファで不機嫌そうにミーケを膝に乗せて抱きかかえてる。何でこうなってしまってるのか、話は簡単、朝と昼ご飯を母さんはお腹の調子が悪くて、消化の良い物しか食べれなかったからだ。機嫌の悪い母さんに絡まれたくなかったから、父は昼を食べ終わったらすぐにスーベルさんのお手伝いに、俺もミーケと遊びに行こうとしたら、ミーケが母さんに自宅へと連れ去られてしまい、なし崩し的に俺も家でいることになった。
母さんとミーケを追いかけて、自宅へと入っていくとミーケが母さんの抱き枕になっていた。まぁ、母さんのストレス発散だよね。俺と父じゃぁ、どうにもできなかったし。俺にとっても母さんの機嫌が良くなるのは助かるから、ミーケにはそのまま人柱になってもらった。ミーケありがとう。ほんとうに。
そもそも昨日の夜、我慢してハンバーグ食べなかったら今日には治ってたかもしれないのに。なんで食べちゃうのかなぁ。まぁ、見るからにおいしそうだし、実際においしかったから、俺たちが食べるのを横で見てたら我慢できなかったとは思うけどね。まぁ、やってしまったことはもういいか。俺もソファに座って、二人を眺める。
今は母さんが、ミーケの頭を撫でている。長くて茶色いきれいな髪を傷つけないように、優しくそーと。頭のてっぺんから首元くらいまで、手をゆっくりと下ろしてはまたてっぺんに戻す。母さんの手がそれを繰り返す。無理やりやられてるミーケもけっこう気持ちよさそうにしている。目はもうつむってしまって、口元は緩んでいて、口角は自然と少しだけ上がってる。お風呂に浸かって緩んだ表情みたいになっている。
時折、母さんの手がミーケの頭を優しくポンポンとしたり、髪に指を通したりする。ミーケにとっては、物理的にも気持ちいいのだろうが、おそらく心理的な心地よさの方が上なんだろう。ミーケが母さんにゆっくりと抱きかかえらえる形で体重を預けていく。母さんもミーケのお腹に手をまわして、ミーケが落ちないように片手で抱いている形になる。
二人が落ち着く形にたどり着いたのか、さっきよりも密着感強めで、母さんの撫で攻撃がミーケをまた強襲する。ミーケはそれに対して、もうなすがままだ。母さんのいいようにされている。母さんの手が縦横無尽に優しく動き、ミーケがリアクションをとる。リアクションといっても、二へへと顔をゆるくして気持ちいいですっていう反応だけだけど。
母さんとミーケしかいないような、そんな時間が長いこと続く。母さんの機嫌もすっかり良くなっているように見える。そんな母さんは目元が気になるのか、ミーケを撫でていた手で目元をこする。母さんが撫でるのを止めたのが嫌だったのか、ミーケが頭を母さんの胸のあたりに押し付ける。もっと撫でろってことだろう。なんだか猫みたいだ。それがどうやら母さんにはだいぶ効いたみたいだ。
「~~~~~~~~~~~~~っ!!♡」
母さんが声になっていない声をあげる。カッと一瞬で顔は紅潮し、表情がとろけていく。口元までも緩みまくって口からよだれが垂れ、ミーケの髪へ落ちそうになる。だらーんと段々落ちていき髪につきそうになるが、母さんが気づいてよだれを吸い取った。
「ふぅーーー。」
母さんの口から安堵の声が漏れる。まるで危機一髪だったみたいな表情をしている。なんか、ミーケに嫌われたら本気で悲しみそうだもんね。そのあとすぐ、何故か無駄に四苦八苦している母さんの方へミーケが身体ごと向けた。二人が向き合っている。ミーケのことは俺からは背中しか見えていないけど、きっとくりくりとしていて、澄んでいるミーケの目が母さんの目をじっと見つめているのだろう。
秒針のカチカチカチいう音とともにと二人が向き合っている時間が過ぎていく。一体何の時間なんだろう。母さんからしたらきっと、かわいいミーケを間近で眺めれる幸せな時間なんだろう。だけど、ミーケとしては何の時間でもない気がする。だからか、ミーケが首をコテッと右に倒した。その瞬間、
「はぁ゛っ!」
母さんが息を吸うと共に上を向く。表情からは、なんかもう満たされたみたいな満足した表情をしている。そして、母さんの周りだけ上から光が照らされていて、周りには翼の生えた子供が二人見える。それって…。
「天使が一人…、天使が二人…、目の前に天使がもう一人…」
母さんにも見えてるようだ。俺よりも一人多く見えてるみたいだけど。今にも昇天しそうな母さんに目の前にいる天使が声をかける。
「おばさん、大丈夫?」
「天使がしゃべったっ!???」
どうやら家の母さんは頭がやられてるみたいだ。いや、きっと元々やばいのだろうけど。
「おばさーん!」
ミーケが母さんを揺さぶる。そしたら「はっ!?」という声と共に目が正常に戻った。
「ごめんね、ミーケちゃん。なんだかおばさん…、ちょっとボケーっとしてたみたい。」
「そ、そうなんだ…。元に戻って良かった。」
もしかしたらミーケにも天使が見えてたのかもしれない。
「ミーケちゃんはやっぱり優しいのね!」
そう言って母さんがミーケの腰を支えてた手を使って、ミーケの体を抱き寄せた。そしたら俺と母さんの目があった。今までとは違って、母さんとミーケとの距離がゼロ距離だから、ミーケを視界に留めたままでいることが難しかったのかもしれない。母さんが俺を見ながら、目をぱちぱちと見開く。そして、
「ルート、いたの?」
そんな言葉が飛んできた。どうやら俺は母さんから認識されていなかったみたいだ。ははは。笑えねぇ。




