いつもの日常 朝起きて
→メインストーリー開始です
俺が生まれてからかなりの時間がたった。なのにまだ、せっかくの異世界なのにまだ異世界らしいことをしてないことが寂しい。
朝目覚めて、寝間着からTシャツみたいなのと黒いパンツに着替えていく。よくある変…、間違えた。ちょっと変わった民族衣装みたいなものも良くあるが、作者が名前を調べるのがめんどくさくなったわけでは決してない。決して。
着替え終えたら部屋を出て、階段を下りていく。日本に比べたらかなり段差がきつくて、この体で降りていくのはかなりきつい。
一歩、また一歩、ぎしぎしと音を立てながら降りていく。朝ならなんともないが、夜だとマジで怖い。両親が、ちゃんと俺が寝ているのか確認に来たら、逆に目が冴えて寝れなくなったこともあった。あの時は本当に怖かった。
階段を終えたら、リビングへたどり着いた。リビングはいつ見渡しても広く感じる。たぶんこの部屋だけで10平方メートルくらいあるんじゃないかと思う。
部屋の中央付近には長方形の机が陣取っていて、それを囲うようにソファが3つある。その一角で家主が寝ている。いや、あほが飲みつぶれてる。
「はぁー」
「あら、ルートおはよ。いつも偉いわね。こいつと違って。」
母もいたみたいだ。
「かーたん、おはよう。」
母の名前はルシア。茶髪のセミロング、だいたい肩に髪がかかるくらいの長さで、目はぱっちりしていて、鼻は日本人的にはちょっと高いかなって感じだ。全体的に整っていて、可愛い系だ。
「そろそろご飯食べないとだよね。オヤルまた起きないんだけど。」
オヤルというのがそこでまだ寝ているあほの、間違えた父のことだ。最後まで言ってないからセーフだよね。あぶない、あぶない。
「母さん準備しないといけないから、ルート、オヤルのこと任せて良い?起きないならいつものやって良いから。」
「ん、わかった。」
俺の返事を聞いて自室に向かった母を見送ってから、恒例作業に移る。
「とーたん、起きて。」
寝ている父を呼びながら何度も体を揺らす。どんだけ飲んだんだろ。酒臭い。嫌な思いをしながらも揺らし続ける。ぜんぜん起きる気配がない。でも続ける。
「とーたん、とーたん、こいつ、ほんま起きないな。」
「ん゛ん゛」 「っ!」
タイミングの良い父のうねり声にびっくりしてしまった。無駄にタイミングの良い。しょうがない、やるか。
俺は小さい身体に鞭打って、父を踏みながらソファの背もたれへ登っていく。途中下から変な音が聞こえたが気にしない。起きないやつが悪い。そうに違いない。やっとのこさ、登りきって、背もたれに立つ。今日も良い景色だ。
父を見下ろしてると、父がようやく起きたみたいだ。瞬きしながら、こっちを見てる。でもまだ、ピントが合ってなさそうだ、寝ぼけてる。そろそろ行くか。俺は勇気を振り絞る。
「とーたん、いくぞい。」
俺はそういうと、背もたれから飛び跳ねる。寝ぼけた父がそれを見て、目が大きく開く。
「まっ!!」
父の言葉が最後まで続くことはなかった。きっと父の腹に勢いよく俺が着地したからだろう。かわいそうに。でも起きない父が悪い。そうに決まってる。今日もきれいに父がVの字になっている。満足だ。
「とーたん、起きた?」
「おぎた、起きました。」
痛みの中、必死に声を絞り出す。辛そうだ。なんでこんなことに。きっと、かわいい息子に起こされたのに、起きなかったからこんな目にあったんだろう。
「おはよう。」
俺はできる限りの最大の笑顔で父に挨拶をした。父も泣きながらも、笑顔で同じように返してくれた。悪くない。これが幸せか。
俺が父のお腹の上に立って、幸せをかみしめている中、ようやく父が起き上がる。その反動で体勢を崩した俺を父が腕で受け止める。金の短髪で、男前でかっこいいのに、それをぶっきらぼうなひげが台無しにしてる。勿体ない。
「まったく、この酒かすニートが。」
「る、ルート、なんか凄く辛辣な言葉が聞こえた気がするんだけど。」
声に出てしまった、俺の言葉に父がうろたえながらも反応してくる。
「とーたん、気のせいだよ。」
「そーだよな、家のかわいいルートがそんなこと言うわけ…。そうだルート、そろそろもっと優しく起こしてくれない?」
「やだ、かーたんがこうやれって、言ったもん。」
父が泣きそうになっている。かわいそう。もうあきらめなよ。
こうやって、父へのいつものモーニングコールが過ぎていった。