母さんのお腹と ハンバーグ
本日3話目
プリン・シュークリーム騒動から少し経って、夕飯の時間。俺たちはいつものように、ミーケのお父さんであるパパさんのご飯を食べるためにお隣の食堂へと伺う。夕方のいい時間なのもあって、かなり繁盛している。グループのお客さんが多いためか、テーブル席が埋まっているので、俺たちはカウンター席へと座った。父がパパさんへと話しかける。
「ダビー、今日の晩飯はなんなんだ?」
「あぁ、今日はな、ルシアとルートが好きな…」
パパさんがそこまで言ったところで母さんの肩がピクッと動く。それもそう。腐ったシュークリームを食べてしまってから、母さんのお腹はもうずっと臨界点なんだから。いつもなら、良い反応が飛んでくるはずの母さんからなんも返ってこないことにパパさんが戸惑っている。
「なんかあったのか?」
パパさんの言葉に俺と父はそっと母さんの方を見る。母さんは下を向いたままで大きな反応はない。ただ、母さんの表情までは怖くて見れない。目をつけられたら最後、どうなるかわかったもんじゃないから。俺たち家族が何にも言わないからパパさんが話を再開する。
「今日のメインはハンバーグだ。」
わぁ、いいね。オーソドックスで。父はそんなに好きな印象ないけど、俺と母さんの大好物だ。そう俺と母さんの…。
「わぁ、たの…」
「………」
俺がパパさんへと返事しようとしたとき、横にいる下をむいたままの女性が小さい声でつぶやいた。話すタイミングが被ってて、俺にはなんて言ったのか聞き取れなかった。父やパパさんも同じように見える。声を発した女性をみんなで眺める。
「なんで…」
次は聞き取れた。小さい声でかすれ気味な声だった。だが、なぜかしっかりと耳はに残る。なんというか、怨念でも込められているかのようだ。
「なんで今日なのよっ!」
「いや、この前食べたいって言ってたから…。」
「今日じゃなくたっていいじゃない。なんで、なんで今日なのよおぉぉ。」
母さんがパパさんへと当たる。ガチの八つ当たりだ。なんかパパさんの顔がさっきと比べて、ちょっとだけしょげてる。うぇ、かわいそ…。しかもリクエストされたから出したみたいなのに。
「なんかすまんな…。」
「すまんで済んだら、私のハンバーグはどこにも行かないのよっ!!!」
「お、おう。」
「返して、私のハンバーグ返して!」
パパさんが未だに質の悪いクレーマーに捕まっている。なんか母さんが悲痛な叫びを訴えてるけど、どう見ても可哀相なのパパさんなんだよな。そんな可哀相なパパさんが父の方を見る。いい加減お前の嫁をどうにかしてくれってことだろうな。
「ルシア、もうそん辺でいいだろ。また明日にでも食べればいいさ。ダビー、明日に一人分残しといてくれないか?」
「あぁ、いいぞ。」
いい解決法だね。明日食べれるなら、母さんもこれでなんとか丸くお…
「嫌よ…」
収まらないらしい。
「私は今日食べたいのよ!」
なるほど。
「でもお前、お腹が…。」
「誰か偉い人が言ってたわ!好きなものを食べるのは健康に良いって。だからきっと、ハンバーグを食べればお腹も治るわ。きっとそうよ、そうに違いないわ!」
父が気遣うも、母さんからなんかトンデモ理論が返ってきた。なんか…、そうだといいね。きっとそうだよ。
「ダビー、私にも一人前ちょうだい!」
「お、おう。いいのか?」
「客がいいって言ってんだから、出せばいいのよ。」
「あぁ、わかった」
ほんと悪質なクレーマーみたいだよね。パパさんも諦めて母さんの分の料理も準備し始めた。
「あぁ、楽しみねぇ。ダビーのハンバーグはほんと絶品だから。」
「そ、そうだな…。」
母さんの楽しそうな言葉に父が曖昧に返す。まぁ、なんか返しにくいよね。今まで発狂気味だったのに、急にニコニコされても。
「付け合わせは何かしら?やっぱりベタにポテトかしら。ハンバーグの余ったソースをポテトにしみこませるの、私好きなのよね。日頃食べないあのサイズのポテトって、ソースがしっかりとしみ込むからおいしいし。さらに食べ終わったハンバーグの余韻も楽しめて、二度おいしいって言うのかしら?あぁ、早く来ないかしら。私のハンバーグ…。」
「そうだな、おいしいもんな。」
熱く語ってくる母さんを不快にさせないように、父が無難な言葉で返す。まぁそうなるよね。さっきまでのヒス具合見てたら。しかも父は別にハンバーグ好きじゃないから、同意する気持ちあんまないだろうし。
「はいよ、お待たせ。」
父と母さんのやり取りを眺めてたら、割とすぐに今日の夕飯が出てきた。熱々でおいしそうだ。
「はぁ、私のハンバーグ♡いただきまーす。」
母さんがおいしそうにハンバーグを食べる。頬に手を当て、とろけるような顔をしている。
「あぁ。おいしい♡」
母さんは満足そうだ。今だけは。




