シュークリームが
本日2話目
プリン騒動も落ち着き、俺とミーケはプリンを満喫している時に、母さんは台所から手に何か持って帰ってきた。茶色っぽい生地にちょっと形の崩れた丸いもののようだ。まぁ、シュークリームだね。母さんはそれを手に持って、ホクホク顔だ。でもそれって確か…。
母さんがソファに座ったタイミングで、玄関のドアの開閉音が聞こえた。どうやら家主が帰ってきたみたいだ。父がリビングまでのしのしと足音を立てて入ってくる。足音からいつもより足取りが悪いような気がする。
「ただいまぁ~。あぁ、つっかれたぁぁ。」
やっぱり、お疲れらしい。
「あふぁた、おかえりなふぁい。」
母さんがシュークリームを口にしながら、父を出迎える。でも、父は気にしてはないようだ。
「あぁ。」
「おふかれのようね?」
「あぁ、今日仕事でさぁ…。」
どうやら、仕事の愚痴が始まるようだ。今父は、この前お手伝いしたスーゲルさんが経営しているお店に、継続してお手伝いしているらしい。なんでも、スーベルさんは前々からクレーム客の多さに辟易していたらしくて、父のクレーム客への対応が気に入ってしまったらしい。やりすぎだと思うんだけどなぁ。あっ、でもスーベルさんのコオロギよりかはましか。
「二人組の女性客の話なんだけどさぁ、話に夢中になってたら、お皿落として割っちゃったらしんだよ。まぁ、ここまでなら、しょうがないよなぁで終わるんだけどさぁ。落としたのを新しいのと交換してくれとか言ってくるんだよ。どう見ても食べかけぽかったのに。この時点でちょっと頭おかしいだろって思ってたんだけどさぁ。」
まぁ、お客さんが落としちゃったなら、代わりを出してあげるかどうかって難しいよね。客側が代わり出してって言うのはちょっとあれな気がするけど。
「で、自分で割ったんだから無理って伝えたら、サービス悪いってキレらしやがってさぁ。俺じゃぁもうどうにもなんねぇから、スーベルさんに頼んだら、ちょっと険悪なムードになりながらもスーベルさんが我慢して折れたんだよ。ここまでは良かったんだよ。」
わぁ、なかなかうっとうしいね。スーベルさんは大人だね。
「問題はここからで、スーベルさんが割れた皿を片付けてたんだけど、客がスーベルさんに代わりの皿早く持って来いって言ったらしいんだよ。それでスーベルさんもうガチギレで、裏のごみ箱から料理すくってそれ出して、客もまたキレてでもう大喧嘩。ほんと勘弁してくれよって感じでさぁ。」
やっぱ、撤回するわ。あの人何してんの。コオロギならまだしも、いやコオロギもまずいんだけどさ。でもさすがに捨ててあるの出したらやばいでしょ。あの人、そんなんで人生捨てる気なのか。
「客もせめて先に謝るなり、お礼なり言ってれば多少でも話は変わっただろうのに…、ねぇ、それ何食べてんの?」
父がようやく母さんにツッコんだ。というか、食べてるの気づいてなかったのか。遅いねー。話に熱中しすぎでしょ。
「シューグリーム…。」
母さんがほおばりながら答える。
「それってもしかして冷蔵庫に入ってたやつ?」
「うん。」
「それ、俺のじゃ?」
「ほうよ。」
そうだよね。だって先週くらいに一緒の買いに行った気がするもん。母さんも、自分のじゃないって分かりながらよく食べれるなぁ。取られた人の気持ち考えてほしいよね。あっ、そういえば、母さんのプリン、とてもおいしゅうございました。
「じゃぁ、俺のは?」
「ふぁいわよ(ないわよ)。」
母さんが未だに食べ続けながら答える。口がもぐもぐと動いている。目の前で本来の持ち主がいるんだけどね。
「は?」
「ないわよ。」
母さんが口の中に入ってた分を飲み込んでからもう一度同じ言葉を返した。たぶん、口の中にシュークリーム入れながらしゃべってたから、そのせいで父が聞き取れなかったと勘違いしたのかな。そうじゃないんだよ、そうじゃ。
「なめてる。なんで食べてんの?」
「食べたかった、から?」
らしい。これで許されと思ってるのがすごい。いや、もしかしたら悪いとか思ってない可能性もありそう。
「くそが!」
「そんなに欲しいなら、はい。」
母さんが残りのひとかけらを差し出す。でも一口にも満たない。そんな量、あげてもしゃーないやん。逆になんであげた?
「それもう一口もないんだけどっ!」
父も俺と同意見らしい。なんでそんな半端に残してんのよ。
「わがままねぇ。」
「どっちがっ!くぅぅぅ。先週から楽しみにしてたのに。」
「えっ!?」
「うん?」
父の言葉で母さんがフリーズする。そうだよね。一週間くらい前に一緒に買いに行ったやつだよね、やっぱり。そうだと思ったんだよね。なんか見覚えあったし。
「先週?」
「えぇっと、10日前くらいかな?」
思ってたより前っ。なんでそんなに放置してんだよっ!ってか、そんなのまだ食べる気だったの!?
「はぁ!?」
「もしかして…、変な味とかする?」
「そういえば、なんか酸っぱい気がぁ…。」
酸っぱいそうです。これは後が大変だぁ。




