リンケージ 父が
2話目
ミーケとの騒動が過ぎ、今は昼時。お客さんも増えてきて、かなり忙しくなってきた。俺とミーケの仕事は注文を聞くだけだから、なんとかなっているが、父の方はかなり忙しそうにしている。そのはずなんだけど、なんだか余裕そうだ。というかすごい。
料理を乗せたトレーが数個、父の周りで浮いている。父が歩くと、トレーも父との距離が変わることがなく、父の進行と同じように進む。父が数メートル進めば、すべてのトレーも同じように数メートル進む。しかも浮いてるトレーは多少の浮き沈みはしているだけだ。完成された盛り付けを全く崩すことがない。
なにあれ、めちゃくちゃすごいんだけど。でも母さんだって洗濯の時とか普通に衣類浮かしてるのか。そう考えると、魔法を扱えるなら、できて当たり前なのか。えー、でもやっぱうらやましい。うわぁ、やっぱり魔法使えるようになりたいなぁ。
俺がそんなこと考えながら、父…、魔法を眺めてたら、魔法が帰ってきた。あ、魔法じゃなくて、父か。お客さんが食べ終えた皿を重ねて、魔法で浮かせている。
「魔法すごいねっ!」
俺が父にそう言うも、父は最初なんのことかわからなかったようだ。一拍の間が空いてから、父が返事をした。
「あっ、これのことか!こんくらいなら、ちゃんと魔法を勉強した奴なら余裕だぞ。」
「そうなんだ。それでもすごいよっ!」
「そっかぁ、そうかもな。」
いつもは自慢げな父が、さも当然だって態度をとる。初歩の初歩だから、誇ることですらないってことなんかな。いつもだったら”俺すげーだろ”みたいな感じなのに。ちょっとしたギャップで、なんだか大人に見える。大人なんだけど。
はー、母さんじゃなくて父でもいいんだよなぁ、魔法教えてくれるの。でも父には、母さんに教えてもらえって言われるんだよなぁ。父は感覚派だからって。まぁ確かに、父に、俺は理論派ですって言われても解釈不一致ではあるんだけど。はー、むなしい。俺はお客さんに呼ばれたから、しぶしぶと呼ばれた方に向かった。
昼のピークにもやっと慣れてきた。そんな時、男女二人ずつ、四人組のお客さんが店内に入ってきた。駄文全員が二十歳前後。そしてかなり騒がしい。店内自体が静かというわけではないんだけど、そのお客さんたちだけは数段やかましい。そして座るなり、男の一人が大声で叫ぶ。
「おーい!早く水もってこいやっ!」
うるさっ。急な大声にみんなもびっくりしたのか、さっきまでの和気藹々としていた雰囲気から一転、店内が一瞬で静かになった。彼らのテーブルを除いて。彼らは店内の雰囲気が変わったのなんて、気づいてないのか、自分たちは楽しそうに談笑を続ける。そんな雰囲気の中、父がやかましいテーブルにグラスを持っていく。よく見たら、グラスに中身が入っていない。
「お待たせしました。」
父がぶっきらぼうにそう言って、グラスを”ガンっ”と机に置いた。テーブルにいた四人組は急な物音にびっくりしている。そして物音がしたものに視線を向ける。少しして、一人が強い声で父に言葉を投げる。
「おい、中身は?」
俺ならひるんでしまうようなその声に、父はまったく動じていない。
「当店は、セルフサービスとなっています。」
父がそう返す。まぁ、この店、飲料サーバーもピッチャーもないから、キッチンで注ぎのなしなら、トイレでしか注げないんだけどね。そして男と父の言葉の応酬が始まった。
「何飲めばいいんだよっ!」
「セルフサービスです。」
男の顔が、父の言葉を理解できないことへの苛立ちからか、より眉をしかめる。そして我慢の限界が近いのか、父をがなり立てる。
「それはもう聞いたわ!!」
でも父は動じない。
「だから、自分らで用意しろってことだよ!」
「は?」
まだ、父の言葉を男は理解できなかったようだ。男が言葉を続ける。
「だからどうやってっ…。」
「魔法なり、排尿なり好きにすればいいだろ。」
男の質問に父がそう返す。その言葉に他の三人は黙ってなかった。一斉に捲し立てようとするも、父が一言で黙らす。
「うるさい、だまれっ!」
父の明確に敵意を持った声に、その言葉に四人全員とも黙ってしまった。そんな四人に、父が続けて言葉をかける。
「で、メニューは?」
父が、俺やミーケの代わりに注文を取ってくれるようだ。俺たちが注文を聞きに行ったら、八つ当たりされそうだもんね。気が利く。急にどうしたんだよ。
「いや、まだ…。」
一番やかましかった男が時間の猶予を求めるも、
「今決めろ。」
父はそれを許さなかった。父が怖かったのか、四人組はせかせかと注文し、父が確認を取ってから帰ってくる。
どしたんだ、今日。めっちゃかっこいんだけど。もしかしてあれか、仕事中はスイッチ入るてきなあれか?すごい頼りがいあるんだけど。いつものニートぶりはなんなんだよ。生まれて初めて、かっこいいと思ったよ。まじで尊敬度が30くらい上がったよ。元が0しかないんだけど。
父が凛々しい顔で帰ってきた。そして、父が俺の頭を撫でる。かっこよすぎだろ。あれか?大声に俺が怯えてたの気づいたんか?ほんと、どしたんだよ。
ただね、父よ、後ろを見てくれ。いるんだ、いるんだよ、後ろに。そこに、スーベルさんが…。
スーベルさんの表情はさっきから全く崩れる様子はなく、何も言わない。まるで笑顔の仮面でも着けてるようでなんだか怖い。もしかしたら、ほんとは幽霊なのかもしれない。きっと俺たちを襲いに来たんだ。すごい緊張感の中、幽霊が動き出すのを待った。
きっと人間です




