リンケージ ミーケが
本日3話の1話目
店がオープンしてから、そこそこ時間がたった。とは言っても、まだ昼前だから多少の余裕はまだある。だから、手が空いてるときには、少しくらい談笑することもできる。
「どうだ?運ぶ姿もなかなか様になってきただろ?」
父が俺とミーケにまたアピールしてくる。あんたどんだけ褒められたいいんだよ。父の褒めてほしい病にちょっとだけ思うところもある。ただ、ウエイターが料理を運ぶのって絵になるから、確かにかっこいいんだよね。憧れる気持ちはわかるし、あんな感じで、スタイリッシュに料理を運んでみたさはとてもある。でも、この身長でやっても、お手伝い感が抜けないんだよなぁ。俺が父の姿を見ながら考えてると、父から言葉が飛んできた。
「なんだ、ルートも料理運んでみたいのか?」
父は、俺が料理を運んでみたいって思っていると、勘違いしたようだ。俺はスタイリッシュにやってみたいだけだから、微妙にズレてんだようなぁ。いやズレてないのか。まぁどっちでもいいや。正直、今やっても上手くできないだろうから、どっちでもいい。
「かもねー。」
だから俺は、父に曖昧な言葉を返した。そしたら、
「でも、おこちゃまに任せて、こけたりしたら大変だからなー。」
父からそんな言葉が返ってきた。なにこいつ、めっちゃ腹立つんですけど。俺が父を見て、むっとしてると、俺の顔を見ながら父がニヤニヤしてる。こいつほんまにいい性格してるわ。
俺の表情で十分楽しんだ父は、今しがた出来上がった料理を受け取る。それを運ぶために歩き出したとき、つま先がフローリングに引っかかる。「うわっ!」父がそんな声をあげながら、正面から倒れていく。倒れていく体を支えるために足を前に出すことができず、両手もふさがっているから、地面に顔からぶつかった。そして、料理も一緒に床に散らばった。あーあ、かっこつけて運ぶから。しかも顔からいったから、これは痛いぞー。
予想通り、父が「いったぁああ。」と唸り声をあげる。近くにいた人が父に注目するも、父はそれを気にする余裕はないみたいだ。ずっと痛みにもだえてる。
数分たって、ようやく痛みも落ち着いたみたいだ。父が自分の座ってる周りの惨状に気が付く。額や生え際から汗が噴き出して、顔には”やっべ”って文字が書いてある。わかりやすいなぁ。そんな父が俺に猫なで声で話しかけてきた。
「ねぇ、ルート君。おねがいがあるんだけど…。」
きっも。
「なーに?」
「これ、ルート君がやっちゃたことにしてくれない?」
こいつ、ろくでもねぇな。俺はそんな父の頼みを一文字で返す。
「や。」
「そこをなんとか…。」
「や。」
嫌だよ。なんで俺があんたの濡れ衣かぶらないといけないんだよ。俺の意志が伝わったのか父が内容を変えてきた。
「じゃぁ、一緒に謝ってくれない?」
普通それだろ、頼むとしても。でも、さっきまであおってきてた人のこと助ける必要あるのかぁ。ないな。俺が結論づけたとき、お客さんの呼ぶ声が聞こえてくる。ちょうどいい。ミーケも今は他のお客さんに呼ばれていていないし。だから、俺は父に告げる。
「あ、お客さんに呼ばれたから行ってくるね。」
「まって。ルート、俺を一人にしないでくれぇええぇぇ。」
俺の別れの言葉に父が悲痛な声をあげる。ざまぁみろ。息子で遊んだ報いだよ。俺は心の中でそう思いながら、父から離れていった。残された父の姿がすごく悲し気に見えた。これが流行りのざまぁ系か。うん、弱いな。
父を見捨てた俺は呼ばれたテーブルに向かう。そこには15歳くらいの少女二人がいた。少女って言っても、今の俺より全然年上なんだけどね。俺がテーブルに着くなり、彼女らから話しかけられる。
「うわぁ、かわいい。」「ね。」
子供の接客が珍しいからだろう、彼女らがすごく盛り上がってる。ちょっとやりづらい。しかも、かわいいって言われると、照れ臭くて反応にも困る。だから俺は仕事を優先した。
「ご注文、どうしますか?」
俺がそう聞くと、彼女たちから感嘆の声が上がる。
「おー。」「かしこー。」
褒められるのは当然嬉しい。けど仕事だ、仕事。だから俺は話を進める。
「ありがとー。で、どうします?」
そう言うと、彼女たちが今度は注文するメニューを教えてくれた。注文を聞き終えた俺は、キッチンに伝えるために戻る。伝え終えるとミーケがこっちをじっと見ていることに気づいた。
「どうしたの?」
俺がそう聞くも、彼女は「べつにー。」と言って、教えてくれない。絶対なにかあるやつやん。顔だって膨れてるし。もしかして、さっきの彼女たちに妬いちゃった感じなのかな。俺が勝手にそう解釈していると、お客さんから呼ばれた。さっきの彼女たちだ。うわー、行きにく。ミーケの方を確認すると、目が合うと同時に顔を逸らされた。これは後が大変だ。俺は渋々、さっきの彼女たちのテーブルに向かった。
テーブルに着くなり、俺は早々に要件を確認する。ミーケのこと後回しにしすぎたら後が怖い。
「どうしました?」
「時間あるなら、ちょっとだけお姉ちゃんたちとお話ししない?」
そう言われる。仕事中に、話に付き合うのはあんまり良くはない気がするけど、こっちの世界での基準が分からない。俺がどうしようと考えてる間に、彼女たちから話を振られて断る機会を失ってしまった。
「ぼく、よくここ手伝ってるの?」
「今日が初めてだよ。」
「えっ!?」「天才?」
俺の答えに彼女らが驚く。彼女らの反応に悪い気はしないけど、前世も合わせるといい大人だから、そんなにすごいことではないと思う。
「えらいね。」
「ありがとう。」
彼女たちの誉め言葉に俺はシンプルに返す。そろそろ切り上げたいなぁって思うも、彼女たちはもう少し話したいみたいだ。
「どうして今日手伝ってるの?」
「とーたんについてきた。」
「とーたんだって。」「ほんと、かわいい。」
しょうがないじゃん、まだきれいに発音できないんだから。自分で言ってる分にはあんまりなんとも思ってなかったけど、人から言われるとかなり恥ずかしい。俺が恥ずかしさでもだえてると、急に頭を誰かに触られる感触があった。
「パパのお手伝いなんて、えらいね。」
彼女らの片割れが、そう言って俺の頭を撫でていた。急なことでびっくりしたけど、悪い気はそんなにしなかった。ただ、すぐに誰かの腕を引っ張られた。引っ張ってたのはミーケだった。すごく不機嫌そうな表情をしてる。俺はそのまま端に向かって引っ張られる。痛い、痛いから。
「ミーケ、ちょっとっ!」
俺が呼びかけるも彼女の歩みは止まらず、そのまま引っ張られる。端まで来てようやく、彼女の足がとまった。そして彼女がこっちを振り向く。彼女と俺の顔が向かい合う。彼女の目には怒りと嫉妬の気持ちがこもっているようだった。その表情のまま彼女が俺に向かって口を開く。
「ルートは私のっ!!!だから、他の誰にも触れてほしくないっ!」
彼女が段々と目に涙を溜めながらも、必死に告白していた。彼女がなんで心の中をここまで曝露するか分からなかった。ただ、俺は無意識に彼女の頭を撫でる。そして自然と口から言葉がこぼれた。
「はいはい、わかったよ。」
ミーケは落ち着いたみたいだけど、周りからの視線がとても恥ずかしかった。それに遠くから声も聞こえてきた。
「お前ら、そろそろ働いてくれ。」
と、父の声が。ごめん、忘れてた。
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