モテ期が
本日2話の1話目
店を出ると、もう夕方だった。そろそろ帰らないとご飯が遅くなって母さんにどやされる。
「セリアちゃん、ごめん。時間やばいから、僕もう帰るね。」
「うん、わかった。ねぇ、ルート君。」
「なに?」
「さっきのって、ミーケちゃんに?」
「買ったやつのこと?そうだよ。」
「そっか、そうだよね。」
そう言葉発した彼女の顔を見ると、一瞬だけ彼女の顔に影が差していたように見えた。ただ、すぐいつもの彼女に戻る。
「ごめんね、引き留めて。今日は楽しかった。ばいばい。」
「うん、ばいばい。」
こうして俺たちは別れた。最後の彼女の言葉がなんか引っかかる。どういう意味だったんだろう。俺はそんなことを考えながら、家への帰路に就いた。
ようやく家にたどり着くも、すでに電灯が消えていた。どうやら先に行ったみたいだ。俺はそのままミーケの家に向かう。ミーケの家の扉を開けると、二人ともやっぱり先に来ていた。両親も俺に気づいたみたいだ。父が俺に向かって言葉を発する。
「ルート遅かったな。」
「うん、偶然友達と会って、商店街回ってたら、遅くなっちゃった。」
「女か?」
「そうだけど…。」
質問に肯定で返すと、父がニヤニヤし始めた。
「お前も隅におけないなぁ。」
父がニヤニヤした顔のままそんな言葉を投げかけてくる。言葉自体はそこまでだが、あのにやけ面がすごい腹立つ。ほんま、いい性格してるよ。
「えー、じゃぁ僕、とーたんに似てないのかなぁ。」
俺がそんなこと言うと、父のにやけた面が、一瞬だけキョトンとした表情に変わる。反撃されると思ってなかったのかな。そして、口元があたふたし始める。口元から、「いやな」とか「あのな」とか必死な言葉が出てくる。あれ、もしかして、図星だったか。
「やっぱり、もてたんだよね?」
俺がそう言うと、父の目線があっちこっちに行く。ありゃまぁ。
「も、もちろんだぞ。あれはいつだったけなぁ…。」
もう焦点が定まってないよ。というか、そんな必死に思い出さないといけないことなのか。悪い事したかなぁ。しかも母さんが横にいるし。
「ふーん。」
父の言葉を遮るように母さんの方から音が聞こえてくる。なんかいつもの声より低い音だったのが、少し怖い。母さんの言葉に父がビクッとなる。
「いやなぁ、ルシア、あのな…。」
父がちょっと不機嫌になりつつある母さんへ必死に取り繕う。でも母さんにそんなの効かないようだ。母さんが父へ言葉を投げる
「で、もてたの?」
「いあ、あのな…。」
父が一瞬だけ、こっちをチラ見してきた。もしかして、”もてない”ってこと子供の前では、言いたくない的な、あれか。ただ母さんはそんなこと気にしない。
「で?」
「もててません。」
父は諦めたようだ。なんか頭が下に落ちて悲しそうに見える。なんかごめんよ。
「それは、それで嫌だわ。」
「どっちだよっ!!」
母さんの難しい女心に父がツッコむ。まぁ、母さんからしたらどっちも嫌だよね。息子からしたらなんか悲しいよ。顔は整ってる方に見えるから、やっぱ性格なんだろうな。俺は心の中で父のもてなかった理由に勝手に納得した。
家族団欒の会話に一区切りついたころ、お手伝いしてたミーケがこっちにやってきた。
「ルートおかえり。」
ミーケがそう言いながら、近くまでやってきたが、急にピタっと止まった。そして俺の方に向かって鼻をスンスンってし始めた。前を嗅ぎだしたと思ったら、横・後ろと移動して、においを嗅ぎながら一周する。ようやく、においを嗅ぐのが終わったと思ったら、彼女が俺の目をじっと見つめる。いや、睨みつけてくる。
「今日セリアちゃんと会った?」
なんでわかんだろ。こわいな。
「会ったけど…。」
「へー。楽しかった?」
「まぁ、一応。」
「ふーん。」
ミーケから聞いたことない声がずっと飛んでくる。なんか今日のミーケが凄く怖いんだけど。なにこれ。すごい、浮気したの咎められてる気分なんだけど。これは、早々に謝るのが吉か?
「なんか、ごめん。」
「なんかって、何が?」
「セリアちゃんと二人であったこと?」
「二人きりだったんだ…。別に怒ってないよ。」
どうしたらいいの、これ。声も一段きつくなって、なんかやばそうだし。外野の大人たちは「あーあ」とか「ルート頑張れ」とか言ってるし。応援なんていいから、ミーケどうにかしてよ。俺がそう思うも、大人たちは全く助けに来ない。
これはやっぱ、真摯に謝るのが一番なんだろうな。俺はそう思うと、ミーケの正面に立つ。ミーケも正面に立った俺を見据える。良かった。拒絶まではされてないみたいだ。俺は両手でミーケの肩をそっと持つ。するとミーケから、「えっ?」という声が聞こえてきて、彼女の顔が段々と赤くなっていく。ん?なんで?
俺の理解が追いつく前に、顔がだいぶ赤くなった彼女が、気持ちを決めたかの表情をしてから目をつぶった。目を…。あぁ、なるほど。真摯すぎたのか。ははは、やっちゃたなぁ、これ。どうしよう。なんで肩持っちゃったのだか。
俺がどう切り抜けようか考えてる間にも、彼女が目を度々開けて、こっちを確認してくる。いやいや、しないからね。俺のそんな気持ちが伝わったのか、次は彼女の顔がゆっくりと近づいてくる。待って待って、見られながらするのなんて、嫌なんだけど。そんな俺の気持ちなんて伝わらず、彼女の顔がもう目の前まで来ている。どうしよう、どうしよう。なんか、なんかないか。俺は脳細胞を総動員さして回避手段を探す。そしたら、希望の光があった。
「ミーケ。」
「むぅ、なに?」
もうちょっとのところだったからか、ミーケはちょっと不機嫌そうだ。あぶなぁ。俺はポケットからアンティークショップ?で買った品を取り出す。彼女はそれがなんなのか、俺が取り出したものに気をとられている。俺はその隙に、目前まで迫っていた、ミーケとの距離をちょっとだけ取る。ミーケがそれに、言葉にならない声を不満そうに上げる。俺は気にせず、彼女へ言葉を発する。
「はい、これ、ミーケへのプレゼント。」
俺はそうやって、ブレスレットを渡す。それは、幅が1センチないくらいの、角が取れて丸みを帯びたシンプルなデザインだ。予算的に他のが買えなかったのもあるが、彼女ならシンプルなもので充分映えると思ってこれにした。
「ミーケにプレゼントしたかったんだけど、何買ったらいいか分からなかったから、セリアちゃんに選ぶの手伝ってもらったんだ。なんか気に障るようなことしてごめんね。」
いけるか?これで。正直場当たり的に買っただけだけど、よく聞く常套文句だし、これでごまかせるか?俺は、ミーケを見つめる。頼む、いけてくれ。彼女はブレスレットと俺の目を交互に見つめてくる。どきどきと、心臓が鼓動するのが分かる。やっぱ、苦しいか。彼女は俺の目だけを見つめてきて、
「そうだったんだぁ。ごめんね、疑って。」
助かったあぁぁ。あぁ、なんで、遊びに行くだけでこんな緊張しないといけないの。
「ルート…。」
「なに?」
「プレゼントすごくうれしい。ありがとうね。」
「うん、どういたしまして。」
彼女はすごくいい笑顔だった。はぁ、まぁ、喜んでくれたし、良かったのかなぁ。俺が安心したところで、父が俺の頭を軽くたたいてきた。
「よかったな。」
父が俺にそう言ったが、どっちの意味で?なんて聞かない。聞いて、ミーケにツッコまれたら次はない。俺は父の言葉にテキトーに相槌を返した。そんな俺にミーケが俺の耳横でささやく。
「次はないよ。」
その一言に心臓を鷲掴みされたようだった。セリアちゃんの件か、キスの件なのか、どっちのことなんて聞けない。両方の可能性だってある。もう、こう返事するしかなかった。
「はい。」と。
はははは。




