セリアちゃんと
果物屋のおっさんの寸劇的なのも終わり、おっさんは猫を大事そうに抱えていて、猫もまんざらでもないかのように抱えられている。
「仲良さそうだね。」
「あったりめぇだ。俺たちの出会いは運命だからな。」
「にゃにゃにゃぁ。」
おっさんに質問したら、猫からも返されてしまった。しかも言い終わったら二人で同じような笑い方してるし。似始めるの早すぎだろ。俺が呆気に取られていると、おっさんがいない、別のところから声をかけられた。
「この騒ぎ、やっぱりジルーさんかぁ。あっ、ルート君もいる。」
「おっ!セリアちゃんじゃねぇか。今日も元気か?」
「元気だよ。おじさんは…、元気そうだね。」
「あったりめぇだ。」
「ふふっ。ルート君も久しぶり。」
「久しぶりだね。」
おっさんとの会話に入ってきた女の子は、セリアちゃんという子で、俺と同じ5歳だ。髪は白髪で、長さは首にかかるかどうか、全体的にふんわりとしていてボブという髪型に近い。
俺たちはそのまま、会話をさっきの寸劇の方に向けて、会話を続けた。
「で、これがその猫ちゃんなんだね。かわいいね。」
「だろだろ。しかも目がくりくりで、そこがまたかわいいんだ。おまけにどことなく俺に似ていて、愛らしくて仕方がねぇよ。」
似ているらしい。
「わー、ほんとだね。」
ほんとらしい。
主におっさんとセリアちゃんの二人で会話が広げられていく。すごくツッコみたいが俺はそれを我慢する。だって内容がなんかツッコみにくいもの。
そうこう会話を広げているうちに、お店の方にお客さんが増えてきた。
「すまんが、だいぶ忙しくなってきたから、ここらでお開きで頼むわ。これ良かったら食べてくれ。」
そういっておっさんはお客さんの方に帰っていった。俺たち二人は店から離れて、人の邪魔になりにくいところに移動した。
「ルート君は今日どうしたの?一人って珍しいね。」
「なんかミーケが忙しいらしんだよね。やることもなかったから、暇つぶし、かな。」
「そうなんだ、ほんと珍しいね。」
「うん、なんかミーケも最近家の手伝い始めたみたいなんだよね。」
「そうなんだ。」
「うん。セリアちゃんはどうしたの?」
「私も暇つぶし、かな。」
「そう、なんだ。」
彼女の返答で少し気まずくなる。しくじった、かな。彼女の両親は冒険者で、今彼女はたしか祖父母に預けられてるはずだ。俺が外出すると彼女とよく会う。でも聞き返さないのも変だし、しょうがない気もする。俺は気まずさから、話を変えた。
「そういやぁ、ジルーさん、何くれたんだろう。」
俺はおっさんがくれた紙袋を開ける。彼女も何が入っているか興味津々だ。いい感じで、紛らわせたみたいだ。袋を開けると、タッパらしきものにリンゴが切られた状態で入ってあった。
「「………」」
俺も、猫の話を聞いたセリアちゃんも、リンゴを見て絶句してしまった。これ、猫が咥えたやつじゃないよね。さすがにそんなの渡さないよね。ねぇ。
先に口を開いたの俺だった。
「ええっと、さすがに違うやつだよね?」
「そう思う。」
「たべる?」
「………。」
セリアちゃんが黙り込んでしまった。そりゃぁ、黙るよ。しかも、おっさんのあのベタぼれ具合から見て、入れてきてもおかしくないし。あーあ、どうすんの、これ。食べにくいし、貰ったもんで捨てにくいし。
二人の間で沈黙が続く。そして俺は決心した。タッパを袋に戻した。
「行こっか。」
「う、うん。」
こうして俺たちは商店街の大通りに戻った。
二人で大通りを歩く。二人っきりになったのはこれが初めてなのもあって、正直、あまり会話が弾んでるとは言いにくい。気まずいまではいかないけど、なんかもどかしい。そんなとき、ちょっと変わった店が目についた。
ほとんどの家が、1面を1枚の大きい木の板で外壁ができているようなのに対して、その家の壁は細い木の板が何枚もきれいに連なってできている。日本で言う、レトロなお店みたいな感じに近い。ただ、”おしゃれな”って言葉が付きそうだが。
「なんのお店なんだろう。はじめて見た気がする。」
「なんかアクセサリーとか売ってるって聞いたよ。入ってみる?」
俺の口から自然とこぼれた言葉に彼女が答えた。
「気になるし、入ってみようか。」
俺たち二人は、その店に入った。中はぱっと見、シックなアンティークショップを連想させられる。古臭い海外ドラマとかに出てくるかのような店、そんな印象だ。でも壁や置物が傷んでいるような印象は全くなく、逆に新品であるかのようだ。
宝石のようなものが加工されておいてある。正直、自分たちが場違いに感じる。気圧されている俺たちに向かって奥から声が聞こえてきた。男の声だった。
「お前ら、客か?」
ぶっきらぼうな言葉だが、どうやらここの従業員みたいだ。
「涼みに近いかな。少し、中見てもいい?」
「商品には触んなよ。」
「わかった。」
了承をもらった俺たちはおいてあるものを見て回る。ブレスレットやネックレスをはじめとした、多くの装飾品が置いてある。ただ、値段が平気で6桁や7桁もしている。正直ここにいることが場違いに感じていたたまれない。ただ、せっかく入ったんだから、どうせなら何か買いたい気持ちもある。
「おじさん。」
「なんだ?」
「3000ウノ以内で買えるものとかない?」
そう聞くと、おじさんは奥の方を指さす。
「あの辺にそれくらいのが置いてある。」
俺たちは、おじさんの指さした場所に移動して、商品を見る。さっき見た値段のより断然安い値段のものが置いてあった。俺はその中の一つを購入し、店を出た。




