けーきを
本日3話の1話目
「ルート、今いいか?」
ミーケと朝からずっと二人で遊んでいたが、一段落ついたタイミングで少し離れたところにいる父から声をかけられた。俺は要件を聞くために父のところへ移動する。
「ん、なーに?」
「昼まで時間もあるから、ちょっと行きたいところがあるんだけど、一人では行きにくそうだから一緒にどうだ?」
行きにくそうってことは、今まで行ったことがないところなのかなぁ。それならちょっと興味はあるなぁ。
「ちなみにどこ行くの?」
俺がそう尋ねると、父は軽く周囲を見回す。どうやら周りには知られたくないらしい。
「今は内緒かな。」
内緒かぁ。子供同伴で行くところなら、いかがわしいところでもないだろうし、行ってもいいなぁ。でもなぁ…。俺はさっきまでいた場所をちらっと見る。今ミーケと遊んでるところだったしなぁ。
「ミーケも誘ってもいい?」
俺が父にそう尋ねると、父が俺から視線を外しながら考えるような素振りを見せる。ただすぐに返答が返ってきた。
「いいぞ。」
いいんだ。
「わかった。じゃぁ、ミーケに聞いてくるね。」
「昼までにあんま時間もないし、ちょっと急いでくれよ?」
「はーい。」
俺は父の言葉にそう答えて、ミーケのとこへ戻る。ミーケのとこへ戻ると、彼女から何だったのか聞かれる。
「おじさん、どうしたの?」
「どこか分かんないけど、一緒に出掛けたいらしいんだよ。ちょっと僕も行きたいなぁって思ってるんだけど、ミーケもどう?」
俺の言葉を聞くと、ミーケがこっちをじっと見てくる。いや、なんか視線がちょっと上にずれてる?後ろに何かあるのか?俺は不思議に思い、後ろを振り向くと父がいたが、俺が振り向くのと同時に別の方向へと顔がそらされる。もしかして、ミーケとなんかやりとりでもしてたのか?俺がちょっと疑っていると、ミーケから声がかけられる。
「今日はいいかな。」
いつものミーケなら絶対行くって言いそうなのに。やっぱ父がなんかしたのかぁ。
「気にしなくていいのに。」
「今日は気分じゃないだけだから。」
「そっか、わかった。じゃぁ、行ってくるね?」
「うん、気をつけてね。」
こうして俺は父と二人で出かけることになった。
出かけてから少し経った頃、俺は父へと尋ねる。
「で、どこ行くの?」
「知り合いに聞いたんだけどさ、なんか最近この街にけーき屋って店ができたらしんだよ。」
けーき屋っていうとあのケーキ屋かな。
「ケーキ屋?」
「そうそうケーキ屋。なんかルートの方が発音いいな。」
なんか癖で昔の言い方で言ってしまった。
「き、気のせいだよ。」
「お、おう」
「ほんと、ほんと。」
「おう、そうか…。」
「うん…。」
父がほとんど気にしてなさそうなのに、無駄に念押ししてしまった。癖って怖いな。なんか変に動揺してしまった。
「で、そのケーキ屋が女性客ばっかで男は入りにくいらしんだよ。」
あぁ、たぶんあのケーキ屋ですね。
「教えてくれたやつと話してて、子連れなら入りやすいんじゃないかってことでルート誘ったんだよ。」
「なるほどね。でもそれならかーたんも誘えば良かったのに。」
「いやな、たまにはサプライズもいいかなぁと思ってな…。」
サプライズなんて滅多にしない男がサプライズ…。
「とーたんさぁ…」
父がちょっと動揺した顔つきになる。もしかしてほんとに…。
「な、なんだ?」
「不倫じゃぁ、ないよね?」
「するわけねぇだろ。」
父がしどろもどろになりながらそう答える。
「ほんとに?」
俺は父だけをじっと見つめる。
「あぁ、ほんとだ。」
「ほんと?」
「あぁ。」
「信じていいの?」
「してないから心配すんな。」
そう言って、父が俺の頭に手を置いた。そっか。
「ならなんでサプライズするの?」
俺がそう聞くと父の顔がちょっとずつ赤くなる。
「たまには母さんが喜んだ顔が見たいなぁって思ってな。」
お~。
「とーたんにもいいとこあるんだね。」
「こいつめぇ。」
そう言って、父が頭に置いてた手で俺の頭を強く撫でる。いてぇ。撫でられながら上を見上げると、父はすごく良い笑顔だった。少しの間親子のスキンシップは続いた。
家を出てから20分くらいで目的の店の前に到着した。なんというか…
「お菓子の家みたいだね。」
「あぁ…。」
俺の言葉に父は呆気にとられらていて、心ここにあらずって感じの相槌だった。ほとんどがカラフルなビスケットやクッキーみたいな壁で覆われている。チョコレートやキャンディは見当たらない。でもこれだけでも十分幻想的に見える。さすがに…
「本物じゃぁ、ないよね?」
「さすがにな。」
俺たち以外にも建物に目を奪われてる人が、周りに何人かいる。それくらい魅力的だ。どうせならミーケたちにも見せたかった。
「これはミーケにもお土産買わないとね。」
「気づいてたのか?」
「なんのこと?」
俺は笑いながら返した。父もつられて笑う。それを見てから俺が店内へと先陣を切った。店内へ入ると、幻想的なものから現代的なものへと移り変わっていった。洋風的な内装で、ガラスのショーケースとそれ以外に台のようなものが店内に配置されている。台の上にはビスケットとクッキーの詰め合わせが置いてあり、ショーケースの中にケーキが売られているみたいだ。ただ、今はあんまりお客さんがいないみたいだ。俺は父と共に、そのままショーケースへと向かう。
「いらっしゃいませ。」
俺たちがショーケースの前へに立つと、ショーケース越に女性の店員さんから声をかけられた。父が店員さんへと話しかける。
「ケーキを6個ほど欲しんだけど…。」
「はい、何にいたしましょう?」
店員さんにそう言われて俺たち二人でショーケースの中を見る。そこには”イチゴ”、”チョコレート”、”チーズ”、”フルーツ”などの変わり種のないオーソドックスなケーキが置いてあった。一種類だけだと見栄えが悪いから多少はあると思ったけど、思ったよりも種類があることに俺は驚いた。
「思ったよりも種類あるんだなぁ…。」
父も似たようなこと思ったらしい。
「ねぇ、どうしようか?」
「ん…。」
俺が父に尋ねても空返事しか返ってこない。どうやら、父はケーキとにらめっこを始めているみたいだ。まぁ、最初は無難にショートケーキが一番だと思うけどね。
「ねぇ、とーたん。何にするか決まった?」
「いやぁ、食べたことないからどれがいいとか分かんないだよなぁ。」
「そうだよねぇ。ねぇ。お姉さん。」
「何かな?」
「一番売れるのってどーれ?」
俺が店員さんに聞くと、店員さんが下唇のあたりに人差し指を当てる。
「そうねぇ…、やっぱりイチゴのケーキじゃないかしら?」
「そっか、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「だってさ、とーたん。」
「そうかぁ…、まぁ人気のにしとくか。店員さん、イチゴのケーキ6個ください。」
「はい、わかりました。ではイチゴのケーキが6点で、お会計3000ウノになります。」
店員さんそう言われて、父が財布を取り出した。父が払い終えるまで他のケーキを眺めていたが、なかなか終わらない。父の方へと振り向くと、父がお札が入っている所をずっとパカパカしてる。
「ねぇ。」
俺が父へ声をかけると、父が驚いてビクッと跳ねる。まじか、こいつ。
「もしかして、お金足りないの?」
父が財布をもうひとパカし終えてから、力なくうなずく。
「いくら足りないの?」
足りない分だけグレード落としたらいいしね。
「1000…」
1000ウノかぁ、結構足んないなぁ。
「1000ウノしかない。」
「「………」」
父が小さい声でつぶやいた。まじか、こいつ。全然足んないじゃん。ケーキ2個分しかないんだけど。なんでそんなに持ってないの。店員さんも困り顔だ。そりゃぁそうよ。
「一昨日までは確かにあったはず…、あっ!この前の飲み代かっ!」
「「………」」
ほんま、こいつは。飲むの止めろやっ!母さんへのサプライズでちょっとは見直したのに。
「あははは、どうしよっか?」
父が笑いながら、俺へと聞いてくる。子供に助けを求めんなよ。
「えっとですね…」
そんな中、店員さんが俺たちへと声をかけてくれる。声は優しいけど、父へと向ける視線がすごく厳しい。
「このシュークリームだったら6個買えますよ。」
いいスマイルだった。スマイルだけ。
「買える分、全部買います。」
どうやら父は店員さんの圧に耐え切れなかったみたいだ。こうして俺たちはシュークリームを買って帰った。始めはケーキだったはずなのになぁ。




