またお買い物に こいつやっぱり
俺たち家族は、フォーメーションを変えることなく服屋へと歩いて向かっていた。前衛の二人はずっと楽しそうな雰囲気を醸し出している。なのに俺たちの会話は、さっきからほんとにおかしい。だって今は…
「ルートは首輪をつけられるのとつけるのどっちがいい?」
なんだなんだろう、この会話…
首輪をつける、つけられる?そもそもそれをしないという選択肢を俺にください。
こいつやっぱり、頭おかしいんじゃないか?
誰だよ。この子にいらない知識足してるの。まじでいい加減にしてくれ、頼むから…
「ねぇ、ミーケさん…」
「何?」
俺の言葉にミーケが無垢に首を傾げる。可愛らしいのが腹立つ。頭の中、やばいくせに…
「普通の会話しない?少しだけでいいからさぁ…」
「普通の会話?」
「うん。やばい会話じゃなくてさぁ。」
俺のその言葉を聞くと、ミーケがじっと俺を見つめてくる。ぱちぱちと数回瞬きをする。そしてミーケは、肺から息を吐いた。しょうがないなぁ、って感じで。
「もう、しょうがないなぁ。じゃー…」
少し納得がいかない。だけどこれで、やっとマシな会話に…
「この前ルートがお昼寝してて、ミーケに寄りかかってきた話でもいい?」
「へっ?」
「一昨日かな。みんなでお家にいるときに…」
「待って。ミーケ待って。」
「もう、何?ルートっ…」
ミーケは不機嫌そうな声を吐いた。
じゃなくてさっ、やばい話の次はなんで俺の話なんだよっ!?しかも、ガリガリとメンタル削ってきそうな。もっと、良いトピック選んでくれよっ!!
うぅ…
はずっ…
「ミーケさん、他の話でお願いできませんか?いえ、お願いします。」
「えーっ、でもミーケ、今はこの話がしたいのに…」
「どうかお願いします。」
俺がそう言うと、ミーケはまじまじと見つめてくる。そして、優しくニコッと笑顔を向けてくれた。
どうやら、次はまともな…
「ならこの前、ルートが頭を撫でてくれた時のお話でも…」
ははは…
鬼かな?この子…
「お願いなんで、それも止めていただけたら…」
「も~、ルートのわがままっ!」
「これ、僕が我がままなのっ!?」
「そうだよ。せっかくミーケが盛り上がるお話選んでるのに…」
ぷくーっとミーケの頬が膨れた。
でも…
「盛り上がる…?」
どこが…?
そんな俺の疑問をミーケが解いてくれた。
「盛り上がるよ。ミーケはっ!」
「それ絶対、ミーケだけだよねっ!?僕絶対、心痛いんだけどっ!!!」
「大丈夫だよ。ルートが楽しかったらミーケは楽しいもん。つまり、ミーケが楽しかったらルートも楽しいに違いないよっ!」
ははは…
何言ってんだっ!?こいつ…
俺は困惑して言葉が出てこない。だから、ミーケが少し不貞腐れた様子で、言葉を続けてきた。
「なら、ルートがお話考えてよ。ミーケは絶対に文句言わないから。」
最後に方には、ミーケの顔が少しドヤァって顔をになっていた。まだ、何もしてないけど…
ふむ…
俺が考えるのか、いや、考えていいのか…
なるほど…
なら…
「この前、みんなと遊んだ時の話でさぁ…」
ミーケはまだまだ普通だ。
「ミーケが寝ていた時の話なんだけど…」
ミーケが目をぱちぱちとし始めた。
「ミーケの口から垂れた…」
よだれが…
俺はそう続けたかった。なのに…
「ルート、待ってっ!!!それは言わないでーっ!」
ミーケが慌ただしく止めてきた。
「ん?僕まだ、最後まで話切ってないんだけど…。それにミーケ、さっきは止めないとか言ってたような…」
ミーケが気まずそうな顔になった。そして、必死にごまかすように…
「ねぇルート、もっと楽しいお話しよ?」
ふむ…
「えー、でも僕、今はこの話したいんだけど…」
「でもっ、ミーケが楽しくないから、きっとルートも楽しくないよ?きっとそうだよ。だから、他の話にしようよ。」
ミーケは焦ったように、そう言葉にしてきた。
ふむふむ…
「大丈夫だよ。僕はきっと楽しいし。それにすごく盛り上がると思うよ?」
ミーケの悲鳴で…
「えっ、ミーケ、普通のお話がしたいなっ!普通の…」
ふむふむふむ…
「なるほどね。なら、これも普通の話だから大丈夫だね。」
「へっ?」
ミーケの口から、抜けた声が漏れ出た。でも俺は気にしない。
「それでね、僕のズボンに垂れてきた…」
「ニ゛ャァァァァァーっ!!!」
こうして、楽しいお話は進んでいった。
楽しかったよ。




