またお買い物に ホテル
俺たち家族は、今いつも行く服屋さんへみんなで向かっている。父さんと母さんが先頭で、俺とミーケが後方に。さっきのフォーメーションと変化はない。そしてそれぞれで、手も繋いでいる。
自然と目に入ってくる先頭の二人は楽し気におしゃべりしている。話題はどうやら、並んでいるお店についてみたいだ。二人は、お店をお互いにだけ分かるように小さく指さしている。そして、道を進めば進むほど、両親二人の距離は近づいているように見える。
ほんと、仲のおよろしいことで。
そしてそんな二人に触発されたのか、参考にしているのかは分からないけど、隣にいたミーケも似たようなことをしてきた。
「ねぇルート、あれ見て。」
そう口にして、斜め前を小さく指をさしてきた。
俺は自然とそっちに視線をむける。するとそこにあったのは…
ホテルだった。
色煌びやかでピンク色の配色が多い。そしてそのホテルは、自然と安っぽいお城を連想してしまう。たくさんの人数が住むには物足りない。だけど、きっと二人なら、二人だけなら十分な大きさがある、小さな夢のようなお城…
この世界のビジネスホテルってこんなのなんだ。こんなこてこてとした、艶やかな配色の。
へー。知らなかったよ。
はは…
俺、どう返事したらいいの、これ…
困り果てて言葉の出ない俺に、さらにミーケから言葉がかけられた。
「すごくきれいな建物だよね。今度二人で行ってみない?」
これはどっちだ。ただ見た目は注意を引いて、女の子なら憧れそうな見た目をしているから、ただただミーケが気になって行ってみたいのか。それか、確信犯なのか。
俺はすごく迷った。
だけどミーケを見てすぐにどっちか分かった。だって、ミーケの鼻息が少し大きんだもの。
ミーケの顔はきらきらと何かを期待するような視線で、頬が少し赤く、興奮を押せえきれないのかいつもより呼吸が荒かった。
こいつは…
俺はそのお城とは反対方向にあった、猫カフェを指さす。
「それより、こっちの方が楽しそうじゃない?」
というか、確実に楽しいよ。それに平和だし。
すると、ミーケはじとーっと責めるように見つめてきて…
「ミーケ、猫嫌い。」
変なことを言いだした。
「いやミーケさん、今自分が着ているものを見てよ。」
「猫ちゃんのパーカーだけど?」
ミーケはしれーと言ってきた。
「で、猫嫌いなの?」
「うん。」
訳が分かんない。
「なんで…?」
「だって…」
「だって?」
ミーケが俺を見つめてくる。そして、ちょっと不機嫌そうに言葉を口にした。
「ミーケ以外で、ルートが頬緩めるとかなんて見たくないもん。」
はは、怖いよ…
なんで、猫にまで嫉妬してんだよ…
「そっか…」
「うん、だからあっちのお城に行こ?きっと楽しいよ?」
ミーケの鼻息はまた荒かった。
「いや、行かないからね?」
俺の言葉を聞いて、ミーケの顔がいつものように膨れていく。
「むー、なんで?」
「なんでっ!?それは…」
「それは?」
ミーケが俺の方へと、”決して逃がす気はないよ”という強い視線を向けてくる。
というかさっ、5歳でホテルって何っ!?楽しいもくそもないじゃんっ!しかもこんなの、なんて言えばいいんだよっ!というか、言えるかっ!!!
チリチリと気まずい時間が過ぎる。
うぅ…
「来世なら…」
ワンチャン…
俺はそう言おうとした。したんだ。
「来世なら、ミーケと行ってくれるだね。約束だよ?言質取ったからねっ!」
「へっ?」
「ルートは、来世もミーケと一緒にいてくれる気なんだね。ルートはどんだけミーケのこと好きなのよ。も~っ!」
「へっ?」
「期待して待ってるね?」
「はっ?」
こうして俺たちは、ホテルについての会話を終えた。
来世の俺よ、どうか頑張ってくれ。
『えっ?』
一瞬、どこかから声が聞こえてきた気がした。




