白いのが きれい
俺は寝ぼけた頭で母さんのほっぺたにできた白いものを見つめる。
白いもの、その付近は少しだけ、周りの肌よりも赤い。そしてその白いものは、周りの赤い肌から突出しているように出ている白い粒だった。
これ、たぶん”おでき”だよな。
俺は心の中でそう唱えた。でも、たぶんそうだ。これはおできだ。だって、おできって分かると、きれいにおできにしか見えないんだもん。
「かーたん、ほ…」
待て待て待て。落ち着け、落ち着くんだ。昔を、前世を思い出せ。
朝起きてきた妹、その妹のほっぺたには白いあいつが、俺は軽々しくそれを口に出した。すると…
お兄ちゃんなんて大っ嫌い、との一言。初めて言われた嫌いとの一言、しかも三日くらい口も聞いてくれなかったし。あれは本当に傷ついた。俺が…
そう、俺がだよ。可愛くてしかたない妹からの嫌いの一言、まじで辛かったよ。なんというか、心に槍が二本くらいぐさぐさと刺された気分だった。
ふー…
また、あの悲惨な過去を繰り返していいのか?いや、ダメだ。
「ほ…?ルート、どうしたの?」
半端に俺が言ってしまった言葉を母さんが不思議そうに尋ねてきた。
まずい…
いや、大丈夫だ。落ち着け。俺は、いや俺ならできる。
「今日も、かーたんはきれいだなぁって思って。」
「それはそうよ。当り前じゃない。」
母さんから自賛の言葉が出てくる。さすがだ。すごい。でも、俺の誉め言葉をなんとも思っていないわけではなさそうだ。頬は少し上がっていて、いつもよりも少しだけ鼻が高い。
単純で助かる。
「そうだよね。でも、思わず声に出ちゃって。」
俺の言葉に母さんがニマニマと顔を笑顔にしていく。そして、母さんは手で自分の口元を隠した。嬉し過ぎて、俺の言葉を我慢しきれなくなったのかもしれない。
もう一声。
「ごめんね、急に。でも、ほんとにかーたんきれいだよ。」
「~~~~~~~っ!!!!」
がばっ…
母さんが変な声を上げたあと、俺をぎゅっと抱きしめた。
「可愛い、本当に可愛いわ。なんで、こんなに可愛いのかしら。」
珍しく母さんからそんな言葉をかけられる。いつ以来だろう。もしかして、初めての気も…
いや、違う。そんなわけ、そんなわけないんだ。きっと…
「あ~~~、ほんとに可愛いわっ!この国で、この大陸で、この世界でもういっちばんっ!!!なんで、こんなに可愛いのかしら。きっと私の子だからね。良かった。こんなに可愛い子で。」
いつも母さんからしたら、びっくりするくらいの言葉が出てくる。
だから…
「かーたんも可愛いよ。」
俺は母さんをぎゅっと抱き返した。
「~~~~~~~っ!!!!」
母さんの力が少し強くなった。
すごく暖かくてぽかぽかする。悪いけど、布団君なんて目じゃない。ごめんね、布団君…
そして…
ばふっ
母さんは布団へと、俺ごと倒れ込んだ。
「もうこのまま、ママとお昼寝しよしょ?いえ、気が済むまで永遠に…」
ぞわっ
少し身体に悪寒が走った。でも、気のせいだろう。うん。ここには俺と母さんがいるだけなんだから。俺が不安になる要素なんてどこにもないんだから。
そして、俺は母さんの胸の中に納まっている。きっと大きくも、小さくない普通のサイズの。
すごく柔らかい。心が穏やかになる。ずっとこのままでいたい。
温かい。
心の芯から温もりをくれるような。俺を満たしてくれるような。俺がここにいていいんだよ、と言ってくれてるような。
それに母さんの匂いも…
カチカチカチ…
二人だけのそんな時間が過ぎていく。
ただこのままじゃ…
「かーたん、そろそろ起きないとご飯が…」
そう、ご飯だ。そろそろいい時間のはずだ。だけど…
「いいわよ。ご飯なんて…」
!!!!!
「えっ、ご飯だよ!?」
俺は母さんの言葉が信じれなかった。
けれど…
「されどご飯よ?今、この時間の方が私にとっては大事なんだから。」
俺は母さんのダメな扉を開いてしまったのかもしれない。まぁでも、しょうがないか。やってしまったものはどうしようもできないし。
ということで…
「僕も…」
俺は母さんの胸により深く入り込む。すると、母さんは俺を抱き返してくれた。
こんな幸せが永遠に続く、はずだった。
がちゃ…
邪魔者が現れた。
「おい、お前らそろそろ…」
父さんだ。
「「………」」
「何やってんだ?」
父さんから、戸惑った声が聞こえてくる。
「可愛い我が子を愛してるとこよ。」
「お、おう…」
「で、何の用?」
「いや、そろそろご飯…」
「いらない…」
「えっ?」
「私ご飯、いらないわ。」
「えっ!?どうしたんだ?お前体調でも悪いのか?」
父さんはびっくりしたような声だった。
「世界で一番可愛い我が子を愛するのに忙しいだけよ。」
「お、おう…」
父さんには理解できないみたいだ。でも、その気持ちもわかる。だって、いつもだったら、俺も向こう側な気がするから。
そして、母さんから父さんへと言葉が飛んでいかない。母さんの中では会話が終わったということなのかもしれない。
だから父さんは、この雰囲気に負けて言葉を発した。
「なら俺は…、ん?」
父さんから疑問の声らしきものが上がった。父さんはそのまま続ける。
「ルシア、お前…、ほっぺたにできものが出来てるぞ。」
あっ!
それは…
ぎゅ…
母さんの俺を抱く力が強くなった。
少しだけ痛い…
だけど俺は、母さんの顔に怖くて視線を向けられなかった。




