朝からじゃれて
朝起きて着替えからリビングへと向かう。いつものように階段の段差の高さに苦戦する。んー、やっぱ高いよ。やっとのことで俺はリビングについた。着くとはじめに目についたのはやっぱりソファの主だった。今日もソファでダメ親父が寝ている。ほんとこりないなぁ。
「ルート、おはよう。」
母さんはちゃんと起きてたみたいだ。日中堕落してるくせに朝起きれるのはすごいなぁ。無駄に。
「おはよう。今日もとーたんは寝坊?」
「そーなのよ、困った人よね。」
俺の問に母さんが答える。毎日毎日よくそんな潰れるまで飲むよなぁ。ほんと、しょうがないなぁ。
「今日も僕が起こせばいいの?」
「えぇ、ルート頼んだわよ。」
俺が確認を取ると、母さんにお願いされた。ただちょっといつもよりニコニコしてた気がする。なんでだろ?まぁ、いっか。
俺はソファの上にいる父に近寄って、体をゆする。だがいつものように父は起きない。まぁ恒例だよね。ただなんか違和感があるんだよなぁ。ただ、それが何か分からない。父がソファで寝てるのも、起こしても簡単に起きないのもいつも通りなんだけどなぁ。俺は引っかかるものを感じながらも、いつものようにソファの背もたれに上っていく。
背もたれの上に乗ってからはより違和感を強く感じた。なんなんだろう。いっか。じゃぁ、行くか。
「いっっくぞぃ。」
いつものように父目掛けて飛び跳ねる。落下してる最中に父の顔が目に入る。なんかいつもより、顔色いい気が…。俺がそう感じた瞬間、父の目が開く。飛び降りてる俺の脇を、父の両手がつかみ、俺をキャッチした。そっか、昨日酒飲んでないじゃん。
「朝から抱擁してくるだなんて、ルートはかわいいなぁ。」
朝から父が寝ぼけたこと言ってる。何言ってんの、このおっさん。きもいんだが。
「違うもん。」
俺は断固否定する。なんか悔しい。
「そうか、そうか。」
父は俺の否定の言葉を受け流しす、そして俺を引き寄せて、ハグしてくる。なんで朝からこんなおっさんとハグしなきゃいけないんだ。そんななか母さんがリビングに帰ってきた。
「あらあら、朝から仲良しね。」
「そうだろ。」
母さんの顔がニマニマしている。そうか。母さんがさっきリビングから出ていくときに、ニヤニヤしてたのはこのおっさんが起きてたの知ってたからか。図ったな、母さん。ぶー。
「おっ、ルートが膨れるなんて、珍しいなぁ。どうした、どうしたぁ。」
「あら、ほんとねぇ。」
父と母さんがあおってくる。なんかすげー腹立つんですけど。
「とーたんなんか嫌い。」
反撃の手立てなんかないから、必死に父に当たる。
「ルート、悪かったて。許してくれよ。」
父が機嫌取りをしてくるが、そんなの知るか。「フンッ。」という声と共に、俺は父から顔を背ける。許してやるもんか。俺のそんな対応に父がガクッと頭を下ろす。ガーンという効果音が聞こえてきそうだった。知るか。
「欲しいもん買ってやるから機嫌なおせよ、な。」
父が懸命に機嫌取りを始めた。ほぉ。なるほど。
「なんでも?」
「おう、いいぞ。一気に機嫌戻ったな、現金なやつだなぁ。」
いやぁ、それは戻るでしょ。欲しいものいっぱいあるし。あぁ、何買ってもらおう。悩むなぁ。あといちいち、一言余計だよ。
「ほんとにいいの?」
「いいぞ。」
「ほんとに?」
「ほんとだ。」
俺は何度も確認する。今まで父からなんか買ってやるだなんて言われたことないから、なかなか信用できない。
「ほんとだね?わぁ、何買ってもらかなぁ。」
「まぁ、嘘だけどな。」
はぁ?
俺がようやく信じたところでこのおっさんが爆弾を投下する。クソがケタケタ笑っている。クソ野郎が。自分の心が段々凍てついていくのが分かる。おっさんはその間、愉快そうに笑い続けている。
「ルート、冗談にきまってるだろ?」
父は十分笑いきったようだ。こっちを見てくる。そして、俺の表情に気づいたようだ。
「る、ルート、お前目がやばいぞ。」
やばいらしい。なんでだろうねぇ。どうしてやろうか。まぁ、とりあえずは、
「家にある酒、全部パパさんに寄付してくるね。」
俺はがんばってかわいい笑顔を作った。酒カスにはこれが一番効くよね。
「ちょっ!?ルート冗談だよな?」
父から投げられた質問に対して、俺は笑って返した。父の悲しげな表情がすごく愉快だった。この日家にある酒が全部なくなった。いい仕事したよ。へっ。




