いつもの日常 夕食から
本日2話の2話目
無駄に落ち込んでた俺ら家族3人も、ミーケの父のダビドこと、パパさんが作ったご飯で何事もなかったかのように機嫌が戻っていく。やっぱりおいしいご飯は至高だね。今日のメインは、トマト煮込みのハンバーグだ。おいしい。父もきっと気に入ってお代わりするのだろう、追加で何か注文しようとしている。
「ダビー、酒たの…。」
ゴゴゴゴゴ…。父が何か頼もうとしたら母さんからそんな音が聞こえてきた、気がした。た、大気が震える。父もそれに気づいたのか慌てて黙る。
「あなた何か言った?」
「い、いえ…。」
母さんの圧に負けたようだ。だが、母さんはまだ止まらない。
「もしかして、お酒なんて頼もうとしてないわよね?今月まだ5万しか稼いでない金なしニートが。」
母さんの凍てついた瞳が父の瞳を捕らえて逃がさない。父の額は雨にでも打たれたかのように汗でびっしょりしている。ここ屋内なんだけどなぁ。
父は必死に言葉を発しようとするも、さっきから口はパクパクと動いているのに、まったく声が聞こえてこない。苦しそうだ。ただ母さんは妥協なんかせずに父からの言葉を待つ。この二人の周辺だけ時が停まったかのように物静かで怖い。俺、別席でご飯食べてもいいかなぁ。
少しして、やっとのことで父がしゃべる。
「そ、そんな、酒なんて頼むわけないじゃないか。」
言葉を発したら、ちょっとだけ落ち着いたようだ。父の表情が少しだけましになった。少しだけ。父はまだ言葉を続ける。
「デザートっ!そうっ、ハニーのデザートを頼もうとしただけだよ。」
父がなんとか苦し紛れの一手を繰り出す。さぁ、どうなる?
「ふーん…。」
母さんの瞳が少しだけ柔らかく、温度が戻ってきた。ただまだ父を試すような、刺すような瞳が続く。しかし、今までの死線を越えてきた父からしたら、これは好機のようだ。チャンスとばかりに、母さんに仕える。
「さぁルシア、何がいいんだい?」
優しい声と共に、母さんの横で見やすいようにメニューを開く。ちょっとしたお嬢様扱いで、母さんの機嫌も割かしマシになり、二人で楽しそうにメニューを見ている。母さん、チョロいなぁ。
ようやく頼むものも決まり、注文した。そしてすぐに、ママさんが品を運んできた。母さんはあっという間にデザートの虜になり、そんな母さんを見て、父も和む。なんやかんや良い夫婦だよ。
ママさんもひと休憩がてら、自分のデザート持ってきていてた。会話に華が咲きそうだったから、父はそぉと席を立つ。
「オヤル…。」
「どうした?」
離れていく父を母さんが呼び止める。止められるとは思ってなかったのか、父は不思議そうに尋ねる。
「今日はあなたのお小遣いから引いとくわね♡」
うーわ。最初、父は何を言われたのか理解できずにフリーズしてしまう。そしてすぐに、頭をガクッと落とした。意味を理解したようだ。げんなりしている。かわいそうに。
「ふふっ。」
そんな父の反応を見て母さんが楽しそうにほほ笑む。満足したんだろう、母さんはママさんとの会話に戻っていった。父は哀愁ただ寄せながらいつものダメンズの元へ合流していった。
父と母さんの騒動からけっこうな時間が立った。そろそろ家に帰りたいが、父と母さんからはまだ帰る気配が見えない。しょうがないから、ママさんと話し込んでる会話に割って入る。
「かーたん、そろそろ帰ろうよぉ。」
「あら、もうそんな時間なの?」
俺の言葉に母さんはようやく今どれくらいの時間か気づいたらしい。俺まだ小さい子供なんだから頼むよ。そしたら母さんがめんどくさいことを頼んできた。
「オヤルにもう帰るって伝えてきて。」
めんどくさい。しぶしぶ俺はそれを承諾して、父のいるテーブルに向かう。いつものダメンズと父含めて4人いた。構わず父に話しかける。
「とーたん、そろそろ帰ろうよぉ…。」
「もうそうな時間か。あとちょっとだけ、ほんのちょっとだけだから。今良いところだから…。」
かわいい息子の嘆願に父がそう返す。言ってもこれしか返って来ないから、嫌なんだよ。ちょっとが長いし。不快な気持ちを押し殺してテーブルの上を覗く。卓上にはトランプと数枚積まれたコインがあった。そして各々がトランプを5枚ずつ持っている。こいつらはほんまに。父の手札にはエースが2枚、キングが2枚、クイーンが1枚だった。ほーん、そんなの知るか。
「かーたん、とーたんがお金で遊んでるよ。」
俺は母さんを大声で呼ぶ。
「ちょっ!、まてっ、ルート。」
父が止めにかかるがもう遅い。母さんがもう背後まで来ているのだから。ホラーかな。
「オヤル、何やってるの?」
母さんがきれいな笑顔で父に尋ねる。はいっ、ざまぁ。父は追い込まれながらもなんとか言い訳を探す。
「ルシア、違うんだよ、これは…。」
必死に言葉を探すも良い答えは出てこなかったようだ。
「何が違うの?」
母さんの言葉に父は何も言い返せない。無言から解は出たと、母さんは審判を下したようだ。
「お家が楽しみね。さぁあなた、帰りましょう。」
そういって、母さんは父を引きずって出口へ向かう。
「待って、待ってくれ。もう少しだけ。勝てそうなんだ。頼む。」
父が必死に懇願する。まぁ、手札良かったからね。でも…、
「諦めなさい。」
母さんからの判決が下りる。父がダメンズの方へ指をさす。
「絶対戻る!待ってろぉ!待ってろぉぉぉおおおおお!!!」
父が彼らの元へ戻れたか語る必要ないだろう。こうやって俺の平坦な一日は終わりを迎えた。




