コール 親子
とある日のお昼過ぎ、俺たちは一家全員でゆったりとしていた。メンツは俺とミーケ、それに母さんと父さんだ。
どういう風にかと言うと、俺はソファの背もたれに全体重を預けてぐったりと、ミーケはひじ掛けに頭を預けて、俺の方に足を伸ばしてきてやがる。母さんもミーケと同じようにひじ掛けに頭を預ける形で横になっていて、その残った少ないスペースに父さんがちょこんと肩身狭そうに座っている。
まっ、いつも通りだ。気になるところが何個かあった気がするけど気にしない。だって、いつも通りだもん。
そんな感じで、俺たちが自堕落な時間を満喫していると、そんな俺たちの幸せな時間を邪魔してくる存在が現れた。具体的に言うと…
ルルルルルルルルルル
これだ。まっ、正確に言うと、これと言うよりはこの音というのが正しいのだけどね。
ルルルルルルルルルル
机の上で、コールカードによる呼び出し音が部屋中に鳴り響いている。結構うるさい。だからか、その音に一番早く反応してたのは母さんだった。
「あなた…」
「はいはい…。」
母さんが父さんを呼ぶ。すると、父さんが返事をしてから電話を取ろうとする。きっと、母さんから呼ばれたのを、お前が取れって意味に捉えたのだろう。でも違った。
「うるさいから、電源落として。」
「えっ?取るんじゃなくてか?」
「違うわよ。考えてもみて。今回取ったとしても、どうせまた、凝りもせずに何度もかかってくるのよ。ほんと、飽きもせずにね。ならいっそのこと、もう電源を落とした方が賢いと思わない?そうでしょ?だって、そうすれば永遠にそんな音を聞かなくて済むのよ?そっちの方が確実に選択だわ。いえ、いっそのこと捨ててしまえば…。そうよ、そうすれば、その鬱陶しい存在すら今後見なくて済むのね。なら、捨ててしまうべきなのね。そんなものに、私の大切な時間をこれ以上無駄にされたくないわ。あなた早くそのやかましい、いえ、その忌まわしい存在をこの私の家から早く追い出して。さぁ、早く。」
母さんがまた父さんを振り回している。
大変そうだ。でも、母さんの言うことにも一理…。
俺がそんなことを思っていると、父さんが母さんに返答した。
「はぁ…。」
ため息で…。
父さんには、母さんの至高な至高な考えが通じなかったらしい。父さんもまだまだだな。
ルルルルルルルルルル
この間にも、コール音が鳴り響く。
「さぁ、あなた早く。その煩わしい存在を、さぁ早くっ!」
「俺さぁ、最近思ったんだよ。」
「ん?何がかしら?」
父さんの言葉に母さんが反応を示す。
「ルシアお前にさぁ、最近ルートが似てきてるような気がするんだよ。」
ん?んっ!?
何言ってんだ、この人…。全く似てないだろ。どこがどう似てんだよ。母さんみたいに俺は全く堕落してないんだけど。
俺がそんなことを思いながら父さんを見つめていると、母さんから声が聞こえてきた。
「子が親に似るのは当然の話でしょ?何当たり前のこと言ってるの?」
「そうかもしれないけどさぁ。でも、似てほしくないとこが似てきてんだよ。」
「はぁっ!?私に似てほしくないとこなんてないでしょ。」
やっぱり、似てなくない?だって、俺はこんな自信過剰なんかじゃないし。
母さんの言葉に少し渋い顔をしていた父さんが、俺の方を一瞬見てから口を開く。
「まだそこまではな。でもさぁ、カードが鳴った時見てたか?お前と一緒で、ルートも忌々しそうにカードを見つめてたからな。しかもな、さっきお前が言った電源切れって言う話に、うんうんと頷いてたし。まじでそのうち、お前の他の部分も似てきそうで怖いんだよ。」
父さんが変なことを言ってる。
えっ?電話が来たら鬱陶しいって思うの普通じゃないのか。思うだろ、普通…。しかも、別に電話がかかって来なくたってこまらないし…。えっ?この感情、全世界共通だと思ってたんだけど。えっ、違うの?
俺が父さんの言葉に少し困惑して言うると、母さんからも困惑した様子の声が聞こえてきた。
「えっ?普通、電話がきたらうるさいって思わないの?」
「誰からだろう、じゃないのか。俺はそっちなんだけど。」
「「えっ?」」
俺と母さんがびっくりした声を出したのを、父さんが黙って見つめてくる。
「と、とーたんが変わってるんじゃないの?」
「そ、そうよ。きっとそうに違いないわよ。」
えっ?俺たちが変わってるの?普通じゃないの?
俺と母さんが困惑してる中、父さんが口を開く。
「まっ、今日はそういうことでいいぞ。」
今日のところは議論を先延ばしにするみたいだ。
えっ、でもさ…。
「おっちゃん…」
俺たち三人の会話にミーケが割って入ってきた。
「どうした?」
「電話切れちゃったよ?」
「あっ!!!」
ミーケの声に父さんがそんな声を上げる。
本当に電話が切れてしまったみたいだ。
でもさ、これで静かになったんだし、別にいいんじゃないの?
俺がそう思ったとき、母さんの声が聞こえてきた。
「別にいいわよ。静かになったんだから。」
そんな言葉が…。
………。
なんかさ…。あはははは。まじか、まじでか…。




