表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界マイフレンド  作者: ゆう
メインストーリー
134/190

母さん は言わせたい

 とある日のお昼前の時間、俺たち家族は自宅でゆっくりと堕落していた。家族というのはもちろん、俺と母さん、父さんとそれにミーケだ。いつものメンツだ。いつの間にか一人増えてる気もするけど、きっと気のせいだろう。きっと…


 まぁそんな感じで、家族みんなでゆったりとしていた…


 のだけど、母さんの父さんへの一言でそんな時間も終わりを迎えてしまった。


 「あなたって、私の料理褒めてくれたことないわよね?」


 そう、この一言だ。


 「えっ?」


 父さんの声はすごくきれいな抜けた声だった。

 

 それにしても、この”えっ?”はなんの”えっ?”だったんだろう。聞き返す意味での”えっ?”なのか、それとも何言ってんだこいつの”えっ?”なのか。いや、分かり切ったことか。だって、苦みしか生み出せないんだから、母さんの料理は…


 「何その、”えっ?”は?」


 やっぱり母さんも気になったみたいだ。父さんを睨みつけながらそう口にした。


 「いやぁ…」


 「いや、何?」


 「えぇっと…」


 「何?」


 言い訳すら出てこない父さんを母さんが責め立てている。たった一音、口にしただけだのに…。


 そしてさっきから、父さんの視線が分かりやすいくらいに右往左往している。かなり返答に相当困っているみたいだ。いや、当たり前か…


 父さんから、なかなか母さんへの言葉が出てこない。”うー”やら”あー”など、何回も言葉じゃない音を口にしている。


 そしてようやく、母さんへ返事をした。明後日の方を向きながら…


 「褒めたことなかったっけ?あったと思うんだけどな~。あはははは…」


 苦しい、苦しいよ父さん…


 そして当然すぐに…


 ギロッ…


 母さんの鋭い視線が、父さんに突き刺さった。


 「うっ…」


 「で、いつ言ってくれたの?」


 冷めた視線のまま、母さんがそう口にする。


 「いやぁ…」


 「いつ?」


 「………」


 また、数分前と似たようなやり取りが始まった。


 ほんと、仲が良いなー。


 俺が二人の仲にほんわかしていると、父さんが必死になにやら思い出したかのような言葉を口にした。


 「確か…」


 「確か?」


 「………」


 なかなか父さんから続きの言葉が出てこない。そのせいか、母さんの冷ややかな視線が、ずっと父さんへと突き刺さっている。


 そしてやっと、父さんは気まずそうに言葉を発した。


 「確か…」


 同じ言葉だっただけど…

 

 でも、しょうがないよね。思い出せなかったんだから…。父さん、よく頑張ったよ。


 まぁ、母さんはそんな努力で満足しないんだけど。

 

 「ねぇ、あなた…」


 「はいっ!」


 良い返事だった。


 「なんで、続きの言葉を言わないの?」


 「………」


 父さんは無言だ。だからさらに、母さんが言葉を畳みかける。


 「なんで何も言わないのかしら?まるで、私の料理がおいしくないみたいじゃない。」


 「そ、そんなことはないぞ。お、おいしいご飯をありがとな。」


 作ったような固い笑顔だった。


 「今このタイミングで言うのねー。なんだか私が言わせたみたいじゃない。」


 「そ、そんなことは…」


 父さんが必死にごまかす、その前に…


 「しかもあなた…、なんだかどもってたわよね?どういうことかしら?」


 「そ、そんなことないぞ。」


 さっきから父さんが、同じ言葉ばっかだ。しかも、普通にどもってるし。


 辛いよ、見てて…


 「ほんとかしら?」


 「ほ、ほんとだぞ。」


 父さん…


 「ふ~ん。」


 どういう意味があるのか、母さんから何か含むような間延びした音が聞こえてくる。父さんはそれを、下唇を噛んでじっと耐えている。


 そんな二人が視線を合わせること十数秒後、母さんがゆっくりと口を開いた。


 「私の料理おいしいのよね?」


 「あぁ…」


 父さんがそれを肯定する。


 そして、その言葉を確認した母さんが、もう一度言葉を発した。笑顔で…


 「なら、今日は私がお昼ご飯を作ります。」


 「「「えっ?」」」


 こうして、今日のお昼は母さんが作ることになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ