お姉さん お兄さんって…
「じゃー、お兄さんはやっぱり…。」
お姉さんの彼氏いない宣言を受けて、俺はそんなひとり言を漏らす。
いやね、なんかね、お姉さんの言葉を聞いてから、すごく心が痛い。なんでかわかんないだけどね。
俺がお兄さんのことで心を病んでいると、お姉さんから声をかけられた。
「一応なんだけどさ、そのお兄さんってサデックのことだよね?」
「そうなの?」
「ん?」
お姉さんの顔に?が浮かんでいる。
「えっ?お兄さんって、お兄さんって名前じゃなかったの?」
「にしし。まさかのーっ?」
「そう、まさかの。」
俺の言葉にお姉さんがまた、にしししと笑い声をあげる。きれいな顔が笑顔で崩れて、美形なのに可愛らしく見える。
「それでね、お兄さんってさ…。」
「まだ、お兄さん呼びだしっ。」
「もちろん。だって僕、お兄さんのこと全く興味ないんだもん。」
可哀相だとは思うけどね。いろいろと…。
「ひどっ。」
お姉さんがそう口にして、また変な笑い声をあげて笑っている。
いやでもさ、俺とお兄さんは別に仲が良いわけじゃないんだから、これくらいでいいよね、別に。向こうもそうだろうし。
「それであれだよね?」
「ん?」
「お兄さんって、普通な身長の普通な体型で、イケメンでも不細工でもないどこにでもある顔で、髪型と雰囲気だけヤンチャなんだよね?」
「そうそう、まさにそんな感じー。」
俺の言葉にお姉さんがニコニコとしながら同意してきた。やっぱり、あってるみたいだ。
俺はちゃんと確認するために、さらにお兄さんの情報を続ける。
「で、お姉さんに洋服を貢がされてて…」
「んっ!?」
さっきまでにこやかとしていたお姉さんの顔が、急に渋くなり始めた。なんでだろう。
でも、まだ俺は続ける。
「しかも、買ってあげてもお姉さんからは、すんともうんとも返事が返って来ない、そんな可哀相なお兄さんのことだよね?」
「ぐっ…。」
お姉さんが急に、平坦な胸の辺りを抑えだした。
「どうしたの、お姉さん?」
「なんか、人から聞くとちょっと心に来るなーって。あははは。」
お姉さんがの笑い声がさっきまでのお姉さんの笑い声とは変わっていた。
「へー。」
「待って。止めて。その目つきは心に来るからっ。」
お姉さんから、急に目つきのことを言われてしまった。
おかしい。別に、ごみを見る目とかしてなんだけどなぁ。ほんと、してないんだけど。
俺がそのままお姉さんを眺めていると、お姉さんが渋い顔のまま口を開く。
「これには、ほんと深い理由があるんだからっ。」
「へー、どんな?」
「それはねっ、アイツがマッジでしつこいのっ!!!」
お姉さんの言葉にやけに気持ちが乗っていた。お姉さんの眉間に段々としわが寄っていく。もしかしたら、やばいスイッチを押してしまったのかもしれない。でも、きっともう遅い。
「そ、そうなんだ。」
「そうなのっ。毎日毎日、コールカードで呼び出しやがって。しかも、一日何回も、何回も、何回も、何回もっ。それに、それだけじゃないの。人が仕事が終わって、さぁ帰っろって思うと、いっつも店の出口にいるのっ。まっじで、気持ち悪い。しかもそこから家に帰るまで永遠と、次どこ行こっかやら、どこ行きたいやら、何が欲しい、何が好き、何が嫌い、好きな食べ物は、嫌いな食べ物は、家では何してるの、趣味は何、付き合うなら、結婚するならどんな人といつ、好きなタイプは、今までの人数は、家族は、姉妹は、起きる時間は、寝る時間は、お風呂の時間は、歯を磨く時は…。もう、ずうっと聞かれるのよ。ほんっと、鬱陶しいのっ。嫌い。ほんっっとに嫌い。声すら聞きたくない。永久に。もうね、いいかなって。多少なら、貢がせても。ついでに嫌いになってくれないかな。いや、早く嫌いになってくれないかなって。嫌いになって早くどっが行ってくれないかなって。早くいなくなってしまわないかなって。この世から…。」
「そ、そうなんだ。」
段々と、怒り心頭になっていって、最終的には虚ろな目をお姉さんはしていた。最初の、楽しそうな言葉遣いは何処へやら、怨念でも込めているかのように言葉が重かった。
なんかね、このままだと、将来とんでもないことが起きてしまいそうな、そんな予感がした。いや、起きるだろうね、確実に。そんな遠くない未来に。
あははははは。
俺がそんな予感を感じていると、お姉さんの声が聞こえてきた。
「誰かいないかな。良い男…。いや、良い男じゃなくてもこの際いいのかも。アイツじゃないなら…。アイツ以外なら…。誰でも。そう、誰でも…。」
こんな言葉が。お姉さんが虚ろなままの目で、俺のことをじっと見つめながら。
俺は必死に頭を振ることしかできなかった。




