ミーケは 負けず嫌い
「もう一回っ!」
下手っぴのミーケがもう一度を宣言した。どうやら、相当に悔しかったようだ。
でもどうせ、失敗するのに…。
そんなミーケは、またトランプ二枚を指で掴んで山の完成を目指す。
でも、さっき失敗したのが相当悔しいみたいで、見てわかるくらいに手が震えている。そのせいで、二枚が全く落ち着く様子がない。
その証拠に、ガチガチとカードがズレる。俺の邪魔なんて関係なく、成功する未来が全く見えない。
ミーケもそれが分かったのか、カードを手放して深呼吸を始めた。
さすがだ。決して、潜在能力だけでは無いということか。
スー、ハー
一度、二度とミーケが、空気を吸っては吐いてを繰り返す。数回繰り返すうちに、だいぶ落ち着けたみたいだ。
ミーケは深呼吸を止めて、またトランプにへと強い視線を送る。
どうやら、良い感じに集中力が戻ったみたいだ。
だから…
止めを刺そう♪
ミーケはトランプを二枚掴んで、また山の完成を目指す。
さっきの震えが嘘みたいに、ニ枚のトランプが凪いでいる。
美しい。
ニ枚のトランプが支え合った瞬間、ミーケは指を離す。すると、ニ枚のカードが瞬く間に、どっしり構えた山のように落ち着いている。
ちゃんと、自身のポテンシャルを活かせているみたいだ。
そんなミーケは、二つ目の山を目指す。
新しく二枚のトランプを指で掴んで、完成した山の隣にカードを構える。
ミーケのポテンシャル、それに今の精神状態…。このままでは、ほんのひと時で完成してしまうだろう。
それはまずい。
だから俺は…
動くことにした。
カードへと集中しているミーケへと顔を近づける。
そして耳元でぼそっと呟く。
「ミーケ…、今日もかわいいね…。」
「〜〜〜っ!!」
ぼっ!
そんな音が聞こえそうなくらい、ミーケの頬が一気に赤らんで頭から煙を放つ。
頬の熱のせいか、ミーケの口元がむにょむにょと動き出した。
そして、あわあわと声をあげ始める。
「〜〜〜〜〜」
次第に熱が体全体に及んだようで、ミーケの体が見てわかるくらいに震えだす。まるで、熱に炙られているかのように…。それも、びっくりするくらい、大きく…。
バタッ
そして、手にまで行き渡った振動のせいで、カードを倒してしまった。
俺は倒れたカードを見ながら、落胆の言葉を落とす。
「あ〜あ。」
それだけなのに、真っ赤な顔したミーケが、何故かこっちを睨んできた。
かわいいね〜。
俺は可能な限り、何もしてないかのように平静さを取り繕いながら口を開く。
「どうしたの?」
「ルート〜っ!」
ミーケが責めるように名を呼ぶ。
「ん?」
「"ん?"じゃないよ! なんで、邪魔するのっ!!!」
「邪魔? そんなのしたかな〜。」
してないよね?
「したもんっ!!!」
ミーケがずっとと変わらない赤さで主張してくる。
「僕が何したの?」
俺の言葉に、赤い顔のミーケが少し俯きながら、呟く。
「………て言ったもん。」
ただ、小さすぎて聞き取れない。言葉に出すのも、恥ずかしいみたいだ。
「ん?」
俺は頑張って、笑ってしまいそうなのを堪えながら聞き返す。
その言葉に、ミーケは赤みを帯びた顔で頑張って言葉を発する。
「かわいい…」
ボンッ!
ただ最後まで言う前に、ミーケの顔から変な音が聞こえてきた。どうやら、熱と恥ずかしさに耐えきれなかったみたいだ。
彼女は、赤い顔を隠すように俯いてしまった。
こうしてミーケは、しばらくの間静かなままだった。
ミーケが黙ってしまってからしばらく立った頃、俺もトランプタワーを再開するために二枚のトランプを手に取った。
赤くなったミーケをニヤニヤと眺めていたけど、気づいてしまったんだ。さすがにヤバい人では?…、と。
捕まってからでは遅いしね。誰にかは知らないけど。
だから俺は山の製作にへと取り掛かる。
二枚のトランプを支え合わせて、一つの山を目指す。手が落ち着いた、そのタイミングで指をそ~と離す。すると、さっきの挑戦が嘘みたいに簡単に一つ目の山ができてしまった。
「………。」
邪魔がないとこんなに簡単にできちゃうのか…。
そんなことを思いながら、俺は二つ目の山の製作のために新しいトランプを手で掴む。ただ、このタイミングで復活てしてしまった…
ミーケが。
もっとポンコツしてたらいいのに…。
ミーケがさっきと同じように、邪魔するために俺に粘着した視線を送ってくる。
うっとうしい…。
でもそれは、さっきくらった。
俺はまるでそよ風のような邪魔を受けながら、山の製作にへと取り掛かる。カードを支えて離す。すると、できてしまった。二つ目の山が。
「あっ!」
悔しそうな呟きが隣から聞こえてきた。俺は横を見ると、ミーケがぷくーと膨れていた。
「変な顔…」
「むー。」
煽ってみると、ミーケが期待通りに不満そうな声をあげてくる。
楽しい!
彼女の顔に満足した俺は、さらにもう一つの山へと取り掛かる。新しいカード達をきれいに支え合わせる。
このタイミングでミーケが仕掛けてきた…、さっきしてきた手を。
「かわいい♡」
耳元でミーケがぼそっと呟いてくる。
その言葉に、さっきは不覚にも動揺してしまった。しかしだ、さっきのミーケの醜態を見た後だと、こんなの赤子の手と同じだ。
俺はくつくつと笑ってしまいそうになるのを、なんとか我慢しながら山の作成を継続する。
俺の眼前では、掴まれているカードはおろか俺の手までもが落ち着いている。
きたきたきたっ。これは、勝つる!
頭の中では、ミーケの悔しがる顔が頭に浮かぶ。
俺はそれを楽しみに、今この瞬間、掴んだトランプを離そうとする。
もう少し…、もう少しだ。
俺は待ち望んだ結果が、目の前で完成するのに期待する。
もう少し…
そう、この一瞬の隙…、そのタイミングでミーケが俺の耳元で呟いてきた。
「ミーケの頭…、撫でてみて、どう だった…?」
どう…?
頭…、撫でて…
撫で…、撫で…
俺の頭の中である一つの記憶がフラッシュバックされた。俺と…、母さんしか知らないはずの記憶が…
それは…、俺が寝ているミーケの頭を撫でてる記憶…
撫でてる…
………
心と頭の中が急に騒がしくなる。
え?
なっ、なんでなんでなんで、なんでっ!!!
だって、あれはミーケは知らない…、知ってるはずないことなのに…
なっ、なんで…?
バクバクと心臓の音が急速に早く…、そして大きくなる。
バタッ
俺の身体が震えて、カードを倒してしまった。
でもっ、そんなことより…
「なっ、なんで知ってるの…?」
俺はミーケの方へ振り向いて尋ねた。
ミーケは俺の問に、ニヤニヤと笑みを浮かべている。そして…、その笑みを浮かべている口元が開く。
「なんでだと思う?」
すごく楽しげな声だった。
うぅ…、母さんめ…
こうして、俺とミーケのタワー対決は終わりを迎えた。
それどころじゃなくなってしまったから…。




