母さんの作戦と 余波
「ん?ん-?」
さっきからずっと、父さんがそんな声を漏らしている。母さんとのやりとりにまだ納得が言ってないようだ。いや、それで正しいんだけどね。
そして、そんな変な声をあげてる父さんへと接触する人がいた。そう、当然母さんだ。
「あなた、さっきからうるさいんだけど。静かにしてくれない?」
隣でずっと呟いている父さんに腹がたったみたいだ。
ははは。
すごく不思議な光景だった。まるで、加害者と被害者が逆のような。いや、これ以上は考えても無駄だ。だって、母さんだもの。
「お、おう。すまん…。」
「しょうがないわね。今回だけよ?」
「お、おう。助かる…?」
とうとう父さんがお礼まで言ってしまった。きっと、心だけでなく脳までも、母さんに屈服してしまったんだろう。
可哀相に。これが教育という名の…、いや調教という名の洗脳か。
母さんに心を折られている可哀相な父さんが母さんへと尋ねる。
「そういえばさ…」
「何?」
「さっきは何言おうとしたんだ?」
たぶん…、起き上がる前に母さんが何か思いついたかのように呟いた言葉についてだろう。俺も二人の仲良しのせいで忘れていたよ。
「あ~、あったわね。そんなことも。」
母さんも忘れていたらしい。さすがだ。
「ははは…。」
父さんが気まずそうに笑い声を漏らした。ただ、そんなことを気にすることなく、母さんが口を開いた。
「なんだかね、変なの…。」
「何がだ?」
「知らないうちにね、増えてたのよ…。」
「お、おう…。」
神妙な表情で疑問を口にする母さんに、父さんが相槌を打つ。
いったい、何が増えてたんだろう…。
「それはね…」
「………。」
「増えてたのよ、私の体重…。」
「「「あ~。」」」
なるほどね。体重ね。それはそうだよ。だって、この前、あんだけお菓子バカ食いしてたんだもの。増えてない方が異常だよ。良かったよ。母さんもちゃんとした人間で。頭がおかしいだけの。
俺が母さんの体を見ながら納得していると、母さんの声が聞こえてきた。
「何あなたたち。さっきの”あ~”は。」
あっ、やばっ…
「「「いえ…。」」」
「まるで私が太ったのが当然みたいな言い方だったわよね?」
「そんなわけ…」
「「………」」
父さんだけが母さんの言葉に返事した。つまり、俺とミーケは言葉を返さなかった。
覚えがあったというわけでは…、いや当然あるけども。それよりも、母さんの標的から外れたかったからだ。きっと、ミーケも…。
キッ
そんな返事をしなかった俺たちを母さんが睨んできた。
これはまずい…
俺は隣にいるミーケの方へと振り向いた。そして…
「ミーケ、今日は良い天気だね。」
俺はテキトーにそう言った。
「そ、そうだね。」
「そうだよね。」
よし、これでなんとか誤魔化し…、たかったけど視野的に見えてないはずの母さんの視線がびりびりと感じれた。
おかしいな。見えてないはずなんだけど。
「「あははははは。」」
俺とミーケが互いを見ながら笑い合う。
ミーケの顔は笑っているのに、どことなくぎこちない。そして額に汗までが見て取れる。きっと俺も…。あはははは。
「ちっ。」
びくっ
「「あははははは。」」
俺とミーケが少しの間笑い続けていると、ようやく母さんからの視圧が消えた。
ふー
俺とミーケは見つめ合ってから、ゆっくりとうなずき合った。
おとなしくしてようと…
俺はゆっくりと父さんと母さんの方へ視線を戻す。そ~と…。
すると、母さんが父さんを責め立てているところだった。
「で、なんであなたは”あ~”って言ったのかしら。私の体重が増えたって話に。ねぇ、なんで?」
ギラついてる母さんの瞳がずっと、父さんを捕らえている。
だから…
「いや、あのな。えっと~…」
父さんからなかなか言葉が出てこない。
「何?さっさと言ってね?」
「えっと~、きれいだなって。」
父さんがそう小さく呟く。
「何?」
「えっと~、そうっ!ほんと太ったのかなて。そんなきれいなままなのに…」
父さんがようやく言語を紡ぎ出した。
「ふ~ん…」
そんな父さんを母さんがじっと見定める。そんな父さんの顔には、笑顔が貼り付けらているみたいだった。
そんな二人が見つめ合うこと少しして、母さんが新しく言葉を発する。
「まぁいいわ。それでね、ちょっとだけお腹が出てるのよ。ちょっとだけなんだけど。」
どうやら、許してあげるみたいだ。
父さん、よく頑張ったね。
俺が父さんの努力に感動していると、父さんが母さんに返事を返した。
「あっ、だからさっき、起き上がれなかったのか!」
へっ?
「はっ!?」
「ん?あっ!!!」
父さんも余計な一言を言ったことに気づいたみたいだ。
「そう言うこと言うのね。ふ~ん。ふ~~~~ん。」
「いや、さっきのは間違えて…」
「間違えてね。なるほどね。」
「あはははは。許してくれない?」
「怒ってなんかないわよ。ほんと、これっぽっちも、ね。」
母さんが、そう言いながらニマっと口角をあげた。
「そ、そうなのか〜。あはははは…。」
「そうなのよ。うふふふふふ。」
少しの間、二人が向き合って笑い合っていた。不可思議な雰囲気で。
二人ともすごく笑顔で微笑ましかったよ。
父さんがどうなったかって?
それはさ…、なんというか、怖かったよ。




