デブ活と 母さん
「私は一体…」
母さんからそんな言葉が虚しく響く。そんな言葉を吐く母さんを、俺と父さんが近くで見守る。
逃げた俺に、父さんから責めるような視線が飛んできたが気にしない。悪いなんて思ってないし…。
父子のそんなやり取りの中、母さんから気になる言葉が聞こえてくる。
「なんで、お菓子がこんなに…」
母さんは身の回りの惨状に気づいたみたいだった。もしかしたら、さっきまでの禁断症状は無意識で行っていたのかもしれない。
意識があってもなくても恐ろしいが…
「もしかして…」
母さんがそう呟いてから、俺の方を責めるように見てくる。
へっ?
母さんが見てきた瞬間、俺は必死に頭を横に振った。
いやいやいや、自分がやったのに勝手に俺を犯人にしないでよ。濡れ衣過ぎるって。
俺の所作で誤解がちゃんと溶けたのか、次は父さんを見つめる。
「違うからなっ?」
父さんが必死な言葉を投げる。それはそう。
それを受けた母さんは、顎に指を当てて呟く。
「なら一体、だれが…」
「「じー…」」
お前だよ、お ま え!!!
母さんは俺と、あと父さんの厳しい視線に気づいてくれたみたいだ。戸惑った言葉を落とす。
「もしかして、私…?」
その瞬間、俺と父さんが力強く頷いた。ただ…
「そんなわけないわねっ!きっと野良猫がこっそり食べたのね。こまっちゃうわ〜♪」
「「………」」
母さんの曲解力の前では無力だった。
野良猫ってかわいそうだなぁ。勝手に犯人にされて…
俺がそう思ってると、母さんの言葉が続いた。
「今度、ヤラないといけないわね♪」
目をギラつかせて。
あはは、ほんと可哀想だよな。
いつもなら、これで流れる。だけど、今日の父さんは一味違う。珍しく…。
「ルシア、犯人はお前だからな。」
父さんが母さんに訂正をいれる。
「へっ?」
俺と父さんがじっと母さんを見つめる。
「ほんとうに、私なの…?」
うん、うん、うん!
俺たち父子が何度も頷く。
「えっ?でもまったく記憶に…、それにお腹も膨れてないし…」
「「!!!!!」」
母さんから衝撃な言葉が舞い降りた。
お腹が膨れて、ない…?
俺たちの周りには、何十ものお菓子の袋が落ちている。しかも、ほとんどが空だ。なのにっ…
お腹が膨れてない、だとっ!?
俺は隣にいる父さんと見つめ合う。
父さんの顔が驚愕していたものから、段々と悲しい表情へと変わっていく。きっと、俺も同じなのだろう。
俺はその表情のまま、母さんを見つめる。
あぁお母様、おいたわしや。
俺の…、俺たちの気持ちが伝わったみたいだ。
母さんがぽつりと呟く。
「ほんとに、私なのね…」
母さんの寂しそうな声が響く…。
さすがに太っちゃうだろうし。さすがの母さんも気にしちゃう…
「まっ、いっか♪」
ことはないみたいだ。良い性格してるね、ほんと。
ただ今日はお父様がいる!
「ルシア、お菓子は禁止だろ?」
父さんが母さんを咎める。だけど、母さんにはへでもないようだ。
「なんで?私がどんだけ食べても私の自由じゃない?」
母さんがあっけらかんと言い放った。
まぁ、それはそうなんだけどさ…。
母さんの言葉に父さんが、唇をむにょむにょとさせる。そして口を開いた。
「それはさ…」
「それは?」
父さんが右往左往していた、視線を母さんへと定める。おそらく気持ちを込めた一言のようだ。
「俺がずっと…、お前に綺麗でいて欲しいからだよ。」
父さんがそう言い放った。
ふぁぁぁぁぁぁぁぁ。おとうさまぁぁぁぁあ。
言った父さんは、段々と頬が赤くなっていく。そして目が揺れる。きっと恥ずかしさのせいだろう。
母さんも目をパチパチと何度も見開いてる。突然のことにびっくりしたみたいだ。
「「………」」
二人が見つめ合う。そんな時間が続く。
ただ、この間は二人にとっては違うだろう。
父さんは自分の中の恥ずかしい気持ちを曝露した上で、次の母さんの言動に期待を膨らませているのだろう。その証拠に、父さんは母さんを見つめてはいるものの、時折視線が動いている。今は見つめているのも、すごく気恥ずかしいに違いない。
そんな父さんの気持ちに母さんが回答を返す。
「私はずっときれいなんだけど。」
平然と母さんが言い放った。
あっ、はい…。それを自分で言いますか。自分で…。なんだろう、ちょっと白けた気がする…。でも、この傲慢さが母さんなのかもしれない。悲しいけど…。
父さんも一瞬、表情が固まっていた。だけど、頭を振った。そして困ったような表情で返事を返す。
「だからさ…、今のまま綺麗でいてほしくて…」
ただ、父さんの言葉は最後まで続かない。母さんが父さんの言葉に被せたから。
「太ったなら、太った私を愛してよ。」
この言葉…、かっこいいの、かもしれない。
「へっ?」
父さんからは変な声が漏れてるけど。母さんの言葉が続く。
「あなたはさ…、今の私が好きなのよね?」
「あっ、あぁ…。」
「何かをね、我慢する私って私だと思う?」
「い、いや…。」
父さんが悲しそうな顔で返す。
「でしょ? 私は私なの。だからずっとね、こんな私を愛してよ。」
母さんが真剣に言い放つ。そして…
「はい…」
父さんが苦々しい表情で返事をした。内心、複雑なのかもしれない。いや、きっと複雑なんだろう。
いい感じな言葉を母さんが発しているのに、まったくいい感じな雰囲気じゃない。すごく不思議だ。
俺たち父子が複雑な気持ちの中、母さんがもう一度口を開いた。
「だから今、私はお菓子を食べるわ!」
「「ダメ。」」
油断したらすぐこれだよ。
「あっ、やっぱり?」
こうして、母さんはデブ活ロードとの長い戦いが始まった。




