デブ活と モンスター
俺は壁の影から父さんを見守る。
リビングでゆっくりするとは言ったものの、父さんがどうモンスターの駆除をするのか気になるからだ。だから俺は、物音を立てずにじっと見守る。
一人になった父さんは、母さんの方を見つめている。そして、遠目でもわかるくらいに嫌そうな顔をしている。
可哀想に…。
ただ、じっと待っているだけでは母さんのデブが進行してしまう。
それを父さんも分かっているのか、目を閉じて舌唇を噛んだ。きっと覚悟を…、しんどい目に合う覚悟を決めているのだろう。
少しして、父さんは目を見開いてから、母さんへとゆっくり歩み寄る。足取りが重いのか、それとも音を立てないためにか、どっちにしても父さんの進む速さはかなり遅い。
そんなゆったりとした歩みで、父さんが数歩歩く。そうして、やっと母さんの背後へたどり着いた。
ようやく、動きがあるかっ?そう期待したものの、父さんはなかなか母さんへのアクションを見せない。もしかしたら、最後の踏ん切りがまだついてないのかもしれない。
でも、あまり時間をかけてはいけない。
だからか、父さんは肺の中にある空気を吐いて、そして動き出す。
「なぁ、ルシア…」
父さんが呼びかける。だけど…
バクッバクッバクッ
その言葉は、禁断症状の出ている母さんへは届いてない。きっと今、目の前に広がっている餌しか見えてないのだろう。
だから…
「ルシアっ!!」
父さんが大声で母さんをよぶ。
チラッ
かなりの大声だったから、さすがに母さんにも聞こえたようだ。
母さんが振り向いたのを見て、父さんが安堵の息を吐いた。
きっと父さんは、これで終わった…、そう思ったのだろう。
甘い!
一度父さんの方を振り向いた母さんだったけど、また餌の方に向き直る。そして…
バクッバクッバクッバクッバクッ
さっきまでよりも、早いペースで餌に貪りついた。今のうちにたくさん…、できるだけたくさん…、そんなことを思っているのかもしれない。
「なっ!!」
父さんから驚きの声が響く。父さんは、そこまで予想出来てなかったのだろう。
父さん…、母さんの食欲を舐め過ぎだ。何年一緒にいるんだよっ!
母さんの動きに戸惑っていた父さんだったが、キッと視線が強くなった。父さんも本当の覚悟が決まったみたいだ。
その父さんは、母さんの肩へと手を置く。
いい加減にしなさい…、そういう意味だろう。
そんな父さんの手が肩に置かれた瞬間、母さんが…
「ガォオオオオ!!!」
と、そう吠えた。
「ぐっ…」
あまりの声量と勢いに、父さんは蹴落されて尻もちをついた。そして、呆気にとられてぽかーんとしている。
その様子を確認したモンスターは、また食事にへと戻る。
バクッバクッ
そんな時間がまた戻ってくる。貪る勢いは落ちない。それどころか早まってるかもしれない。
少しして、呆気に取られてた父さんが頭を振る。きっと、頭に広がった麻痺を解いたのだろう。
そしてまた、母さんへとアクションをとる。
次は餌を捕縛している、母さんの腕を父さんが握って捕まえた。ようやく、実力行使に出たみたいだ。
掴まれた母さんも抵抗を見せる。
「ガルルルルルゥゥゥゥ!」
そう…、威嚇だ。
そして…
「ひぃぃぃぃっっ」
父さんから甲高い悲鳴が飛び出る。それでも、父さんは掴んだ手を離さない。気持ちの強さが見える。
父さんの抗いで餌を貪れない母さんが行動に移す。
ガブッ
自分の手を捕らえている、父さんの腕に噛み付いた。
「っ!!!!」
父さんから声になってない悲鳴が聞こえる。
もしかしたら、痛いのかもしれない。でも、父さんは掴んだ手を離さない。離そうとしない。
それに負けないために、母さんは噛みつき続ける。
きっと、父さんの方がジリ貧だ。痛みでいつか、限界がきてしまう。だから父さんは動く。それは…
後ろから抱き締めるという、形で…。
そしてそれは、効果があったみたいだ。暴れていた母さんが、急に大人しくなったのだから。そして…
「私は一体…」
母さんからそんな言葉が聞こえてきた。




